コラム

ダンスで認知機能を改善!認知症予防ダンスの効果を実験結果から解説

近年、認知症予防として注目されている「ダンス」。音楽に合わせて体を動かすことで脳への刺激が増え、認知機能の改善に効果があるとされています。

本記事では、泉大津市が取り組むオリジナル認知症予防ダンスの研究内容や、その効果を示す実験結果について詳しく解説します。また、介護施設におけるレクリエーション活動への応用や、認知症予防に役立つダンスレク「WAN-かいご」についても紹介。ダンスを取り入れた認知症予防の取り組みを知りたい方は、ぜひ参考にしてください。


■認知機能の改善にダンスが効果的
■泉大津市オリジナル認知症予防ダンスの研究内容
1|研究目的と方法
2|研究結果と考察
■介護施設におけるレクリエーション活動への応用
■認知症予防のダンスのレクを提案|「WAN-かいご」とは
■まとめ

■認知機能の改善にダンスが効果的

高齢化社会において、高齢者の自立支援と機能維持は重要な課題となっています。特にレクリエーションを通じた介護抑制の取り組みが、高齢者の生活の質を向上させる鍵となります。この中でも、ダンスは特に効果的な運動方法として注目を集めています。

近年の研究では、ダンスが全般的な認知機能の強化・改善に寄与することが明らかになっています。高齢者がダンスを行うことで、模倣能力や最速歩行速度(10m)が改善され、さらには下肢関節可動域の向上や筋肉の質の改善も確認されています。これらの効果は、単なる運動としてだけでなく、生活の質(QOL)の向上にもつながることが示されています。

特筆すべきは、ダンスが有酸素運動を伴うデュアルタスク・トレーニングとして機能することです。デュアルタスクとは、複数の動作を同時に行うことを指し、このような活動は認知機能の維持・向上に効果的であることが分かっています。ダンスでは、リズムに合わせて体を動かしながら、次の動作を記憶し、さらに周囲の人との協調も必要となります。このような複合的な要素を含むことが、ダンスを特に効果的な認知症予防活動としている理由です。

また、模倣能力の向上は新しいレクリエーションへの参加を促進する効果があり、これは高齢者の社会参加を広げる可能性を持っています。このように、ダンスは単なる運動としてだけでなく、総合的な認知機能改善プログラムとして機能することが期待されています。

■泉大津市オリジナル認知症予防ダンスの研究内容

2022年8月、泉大津市と東京大学先端科学技術研究センターはリビングラボ連携協定を締結し、認知症予防に向けた取り組みを開始しました。

この一環として、2023年に泉大津市出身のシンガーソングライターSIRUPの楽曲を使用したオリジナル認知症予防ダンスが開発されました。この画期的な取り組みの効果を科学的に検証した研究結果をご紹介します。

1|研究目的と方法

この研究は、デイサービスにおけるレクリエーションとしてダンスを導入し、その介護抑制効果を検証することを目的としています。泉大津市の花bu-keデイサービスを利用する26名(男性3名、女性23名、平均年齢82.62歳)を対象に、ダンス群14名とサーキット群12名に分けて実施されました。

研究概要

 ■対象者:

  泉大津市 花bu-keデイサービス利用者26

  男性3名、女性23名、平均82.62SD=4.09)歳

  ダンス群:14

  サーキット群:12

 ■介入期間: 4ヶ月間

 ■評価項目:

  認知機能: 四則演算・TMT-B・空間記憶課題

  姿勢評価: 姿勢計測(正面・左側立位)

従来のレクリエーション内容である集団でのレッドコードトレーニングと個別のサーキットトレーニングに代えて、ダンス群では週1回2時間のうち40分間をダンスに置き換えました。介入期間は4ヶ月(16週)に設定されています。

評価にはタブレットを活用し、認知機能と姿勢の両面から効果を測定しました。認知機能については、四則演算、TMT-B、空間記憶の3つの課題を実施し、それぞれ30秒間の正答数を記録。姿勢評価では、正面立位と左側立位の両方から関節点を推定し、詳細な姿勢分析を行いました。

【認知機能機能課題】

四則演算・TMT-B・空間記憶(30秒間の正答数)

【姿勢評価】

推定した関節点から姿勢評価
正面立位(左右)・左側(前後)

2|研究結果と考察

【認知機能評価(四則演算、TMT-B、空間記憶課題)の変化】
認知機能評価において、ダンス群は顕著な改善を示しました。特に四則演算の正答数がサーキット群と比較して有意に向上し、効果量(η2)は0.205を記録。また、空間記憶課題でもダンス群が優位な改善を見せ、効果量は0.168となりました。

【姿勢評価(正面立位・左側立位)の変化】
姿勢評価においても、ダンス群で注目すべき改善が確認されました。肩の高さのずれが改善され(効果量0.143)、特に膝の曲がり具合の改善では大きな効果(効果量0.477)が認められました。これらの結果は、ダンスによる上肢挙上や足関節を使う動作が、体幹の安定性とバランス感覚の向上に貢献したことを示唆しています。

週1回40分という比較的短時間の介入にもかかわらず、認知機能と身体機能の両面で顕著な改善が見られたことは、従来のフィットネスプログラムと比較しても画期的な成果といえます。さらに、タブレットを用いた評価システムにより、専門家がいなくても効果測定が可能となり、実用性の高い取り組みであることも確認されました。

■デイサービスにおけるレクリエーション活動への応用

実験結果が示すように、週1回40分という限られた時間のダンスプログラムでも、認知機能と身体機能に顕著な改善効果が見られました。このことは、既存のデイサービスのレクリエーション活動の一部をダンスに置き換えるだけでも、高齢者の自立支援と機能維持に大きな効果が期待できることを示しています。従来の集団レッドコードトレーニングや個別サーキットトレーニングの時間を活用することで、無理なく導入することが可能です。

評価方法についても、この研究で使用されたタブレットによる評価システムは、専門家の立ち会いを必要としない画期的なものです。認知機能については四則演算や空間記憶課題、姿勢評価については正面立位や左側立位の測定を、施設のスタッフが簡単に実施できます。これにより、プログラムの効果を定期的に確認し、参加者の状態に応じて適切な支援を提供することが可能になります。

このように、ダンスプログラムの導入とタブレットによる評価システムの組み合わせは、高齢者の自立支援と生活の質向上に向けた新たなアプローチとして、大きな可能性を秘めています。レクリエーションの工夫次第で、介護抑制効果を高められることが、この研究によって科学的に示されたといえるでしょう。

■認知症予防のダンスのレクを提案|「WAN-かいご」とは

高齢者施設におけるレクリエーション活動は、利用者一人ひとりに適したプログラムを提供することが重要です。しかし、個々の状態に合わせたレクリエーションの選定や、実施前の準備、効果の検証など、スタッフの方々は多くの課題を抱えています。

このような課題を解決するため、TOPPANは東京大学先端研・身体情報学分野と共同で、AIを活用したレクリエーション提供サービス「WAN-かいご」を開発しました。このシステムは、150種以上のレクリエーションコンテンツの中から、利用者の状態や目的に合わせて最適なプログラムを提案し、月間スケジュールを自動作成します。

「WAN-かいご」の特徴は、学術的根拠に基づいた質の高いコンテンツを提供することです。特に、認知機能の改善に効果が実証されているダンスプログラムも搭載されており、各コンテンツには詳細な説明と必要な準備、目的や効果が丁寧に記載されています。これにより、レクリエーションに不慣れなスタッフでも、効果的なプログラムを実施することが可能です。

導入はお手持ちのパソコンやタブレットで簡単に行え、専門スタッフによるサポート体制も整っています。レクリエーション業務のDX化により、スタッフの負担軽減と同時に、利用者の機能改善やQOL向上にも貢献します。エビデンスに基づいた質の高いレクリエーションの提供は、施設の稼働率向上にもつながる可能性を秘めています。

■まとめ

本記事では、認知症予防におけるダンスの効果について、泉大津市で実施された研究結果を中心に解説しました。週1回40分のダンスプログラムを4ヶ月間継続することで、認知機能と身体機能の両面で顕著な改善効果が確認されました。特に、四則演算能力や空間記憶力の向上、さらには姿勢やバランス感覚の改善が科学的に実証されています。

デイサービスなどの高齢者施設では、既存のレクリエーション活動の一部をダンスに置き換えるだけでも、大きな効果が期待できます。さらに、TOPPANが開発した「WAN-かいご」のようなAIを活用したシステムを導入することで、より効率的に質の高いレクリエーションを提供することが可能です。ダンスを取り入れた認知症予防の取り組みは、高齢者の自立支援と生活の質の向上に向けた、新たな可能性を提示しているといえるでしょう。

2025.01.29

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