コラム

<令和6年度介護報酬改定>特養(特別養護老人ホーム)への影響とは

  • 株式会社ビーブリッド
  • 代表取締役
  • 竹下康平

2024年4月より介護報酬改定が実施され、業界全体で改定率+1.59%となりました。

この記事では、特別養護老人ホーム(特養)に焦点を当て、改定の背景や主な内容、特養が対応すべき5つのポイントについて解説します。

今回は、株式会社ビーブリッド代表取締役竹下様に監修をして頂いています。

医療機関との連携強化、看取りケアの充実、認知症ケアの推進など、特養の運営に大きな影響を及ぼす内容となっていますので
人材確保や処遇改善、ICT活用による業務効率化など、特養が取り組むべき課題と対策について詳しく見ていきましょう。


《監修者》
株式会社ビーブリッド
代表取締役 竹下様

《プロフィール》
2007 年より介護事業における ICT 戦略立案・遂行業務に従事。2010 年株式会社ビーブリッドを創業。
介護・福祉事業者向け DX 支援サービス『ほむさぽ』を軸に、介護現場での ICT 利活用と DX 普及促進に幅広く努めている。
行政や事業者団体、学校等での講演活動および多くのメディアでの寄稿等の情報発信を通じ、ケアテックの普及推進中。

《著書》
https://amzn.asia/d/c3pAu3C
今すぐできる!仕事が変わる!!「ICT導入から始める介護施設のDX入門ガイド」―準備から運用まで徹底解説―

■2024年度介護報酬改定の背景
■2024年介護報酬改定の主な内容と特養への影響
 1|利用者の病状急変時の対応を年1回以上確認することの義務化
 2|経過措置3年以内に要件を満たす協力医療機関を定めることの義務化
 3|退院が可能となった場合の速やかな受け入れの努力義務
 4|配置医師緊急時対応加算の見直し
 5|介護老人福祉施設等における緊急時等の対応方法の定期的な見直し
 6|介護老人保健施設におけるターミナルケア加算の見直し
■特養で対応すべき5つのポイント
 1|給与水準の見直し
 2|人材確保の取り組み
 3|サービス品質の向上
 4|認知症施策の推進
 5|介護ロボットやICT等のテクノロジー活用の推進
■まとめ


ー2024年度介護報酬改定の背景ー

令和6年度介護報酬改定は、2025年の団塊の世代が後期高齢者となる「2025年問題」を間近に控え、高齢者人口のピークを迎える2040年頃を見据えた内容となっています。
この改定の背景には、以下のような課題があります。

〇2025年を迎えるにあたり、高齢者人口がピークを迎えるのは2040年頃。
 85歳以上の人口割合が増加し、生産年齢人口の急減が見込まれている
〇生産年齢人口の減少により、介護を含む各業界で人材不足がさらに大きな課題となる
〇近年は物価高騰や全産業における賃金の引き上げが進む中、介護人材の確保と介護事業所の健全な経営環境を確保することが喫緊の課題
〇DX(デジタルトランスフォーメーション)などの事業環境の変化により、介護業界における生産性の向上も国を挙げた課題となっている

こうした課題を乗り切るため、今回の介護報酬改定は「改定率+1.59%」という内容になりました。内訳は「介護職員の処遇改善分+0.98%」と「その他の改定率+0.61%」です。

さらに処遇改善加算の一本化による賃上げ効果や、光熱水費の基準費用額の増額による介護施設の増収効果として+0.45%相当の改定も見込まれ、合計すると+2.04%相当の改定となる見通しです。

厚生労働省は、介護職員の処遇改善を最重要課題と位置づけながら、介護現場の生産性向上にも目を向けた改定を打ち出しているといえるでしょう。

ー2024年介護報酬改定の主な内容と特養への影響ー

令和6年度介護報酬改定の主な内容は、以下の4つのポイントに分けられます。

1)地域包括ケアシステムの深化・推進
2)自立支援・重度化防止に向けた対応
3)良質な介護サービスの効率的な提供に向けた働きやすい職場づくり
4)制度の安定性・持続可能性の確保

地域包括ケアについての画像

特別養護老人ホームに大きな影響を与えるのは、1)の「地域包括ケアシステムの深化・推進」の中でも特に「医療と介護の連携の推進」に関する項目です。具体的には、医療機関との連携体制の構築や配置医師による急変時対応の充実などが挙げられます。

また、看取りへの対応強化も特養に関わる重要な改定内容です。ターミナルケア加算の見直しなどを通じて、より充実した看取り体制の整備が求められています。

以下、特養に関連するいくつかの改定項目について詳しく解説します。

利用者の病状急変時の対応を年1回以上確認することの義務化

特養を含む介護保険施設は、施設内で対応可能な医療の範囲を超えた場合に、協力医療機関との連携のもとでより適切な対応を行う体制を確保する必要があります。

そのため、利用者の病状急変時の対応について、年1回以上、協力医療機関と確認することが義務付けられました。
あわせて、当該協力医療機関の名称を事業所の指定を行った自治体に提出することも義務化されています。

【竹下氏監修コメント】
緊急時対応の「確認」とは、「見直し」であり、他えば「緊急時の注意事項」「病状等についての情報共有の方法」「用意や時間帯ごとの医師との連携方法」「診察を依頼するタイミング」などが規定の例とされています。
いくら備えたとしても「緊急時」の対応ですから、いざという時には規定を印刷してファイルに綴じたマニュアルを探したり、電話をかけたりという行動が予想されます。
規定は定期的に見直されますので、保管の仕方によっては「最新版を探す」ということもあり得ます。落ち着いて、かつ介護職員の個々のスキルや経験に頼らなくてすむようにするためには、ICT機器の有効な活用方法が求められているとも言えるでしょう。

経過措置3年以内に要件を満たす協力医療機関を定めることの義務化

特養は経過措置3年以内に、以下の要件を満たす協力医療機関(③は病院に限る)を定めることが義務付けられました。

また、年1回以上、協力医療機関との間で入所者の病状急変時の対応を確認し、当該協力医療機関の名称を事業所の指定自治体に提出することが求められます。

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【基準】
ア 以下の要件を満たす協力医療機関(③については病院に限る。)を定めることを義務付ける(複数の医療機関を定めることにより要件を満たすこととしても差し支えないこととする。)。<経過措置3年間>
① 入所者の病状が急変した場合等において、医師又は看護職員が相談対応を行う体制を常時確保していること。
② 診療の求めがあった場合において、診療を行う体制を常時確保していること。
③ 入所者の病状の急変が生じた場合等において、当該施設の医師又は協力医療機関その他の医療機関の医師が診療を行い、入院 を要すると認められた入所者の入院を原則として受け入れる体制を確保していること。
イ 1年に1回以上、協力医療機関との間で、入所者の病状の急変が生じた場合等の対応を確認するとともに、当該協力医療機関の名称等について、当該事業所の指定を行った自治体に提出しなければならないこととする。
ウ 入所者が協力医療機関等に入院した後に、病状が軽快し、退院が可能となった場合においては、速やかに再入所させることができるように努めることとする。
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【竹下氏監修コメント】
今回の改訂では施設・居住系のサービスにおいて、利用者の容態急変などを想定した「協力医療機関」との連携について新しい基準や加算が設けられました。
その背景には、利用者の高齢化などもあり、現場での容態急変のリスクが高まっているということがあります。
介護現場で平時からいざという時のために備えられるということは、介護職員だけでなく、施設で暮らす利用者にも安心感を与えるものとなります。
しかしこの改正の裏側には、緊急時の連携体制が十分ではないということがあります。
地域にとっては医療機関が少なく、地域の医療資源が不足するというケースも出てくるのではないでしょうか。
なお通知には、協力医療機関は「施設から近距離であることが望ましい」とされています。
参照:https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001238460.pdf

退院が可能となった場合の速やかな受け入れの努力義務

入所者が協力医療機関等に入院した後、病状が軽快して退院可能となった場合は、速やかに再入所させるよう努めることが義務付けられました。

入院から施設への円滑な移行を推進し、入所者の生活の継続性を担保する狙いがあります。

なお通知には、「速やかに入所させることができるよう努めなければならない」とは、必ずしも退院後に再入所を希望する入所者のために常にベッドを確保しておくということではなく、できる限り円滑に再入所できるよう努めなければならないということである」とされています。
参照:https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001238460.pdf

配置医師緊急時対応加算の見直し

入所者に急変が生じた際の対応をより充実させるため、配置医師緊急時対応加算の見直しが行われました。

早朝・夜間及び深夜の時間帯に算定可能だった加算について、日中であっても、通常の勤務時間外に配置医師が駆けつけ対応を行った場合の評価として、新たな区分が設けられました。

新設された加算単位数は以下の通りです。

配置医師緊急時対応加算の画像

※配置医師の通常の勤務時間外の場合(早朝・夜間及び深夜を除く):325単位/回

【竹下氏監修コメント】
算定要件として、「看護体制加算Ⅱ」をとっていること、配置医師と施設が「曜日」や「連絡方法」などについて具体的な取り決めをしていることが求められます。
特養に対して外部の医療機関との連携を深めるように求めていることと合わせ、配置医師に対しては緊急対応を促すインセンティブが強化されました。

介護老人福祉施設等における緊急時等の対応方法の定期的な見直し

特養など介護老人福祉施設における入所者への医療提供体制を確保するため、施設があらかじめ定める緊急時の対応方法について、配置医師や協力医療機関の協力を得て定めることとなりました。

また、年1回以上、配置医師や協力医療機関の協力を得て内容の見直しを行い、必要に応じて緊急時の対応方法の変更を行わなければなりません。

介護老人保健施設におけるターミナルケア加算の見直し

介護老人保健施設における看取りへの対応を充実する観点から、ターミナルケア加算について、死亡日以前31日以上45日以下の区分の評価を見直し、死亡日前日・前々日及び死亡日の区分に重点化が図られました。

これにより、看取りの末期になると加算単位数が上がる仕組みになります。

ターミナルケア加算の画像

ー特養で対応すべき5つのポイントー

〇給与水準の見直しと人材確保
〇サービスの質の向上と利用者の満足度向上
〇認知症施策の推進
〇介護ロボットやICT等のテクノロジー活用の推進
〇感染症対策と災害への備え

これらの取り組みを通じて、特養は介護人材の処遇改善と定着、ケアの質の向上、業務効率化などを総合的に進めていく必要があります。以下、各ポイントについて詳しく解説します。

給与水準の見直し

2024年6月施行の「介護職員の処遇改善」では、介護職員等処遇改善加算について現行の3加算が統合され、新たな4段階の加算へと再編成されます。

加算率も引き上げられ、令和6年度に2.5%、令和7年度に2.0%のベースアップにつながるよう設計されています。

一本化後の加算では、事業所内での柔軟な職種間配分が認められる一方、月額賃金の改善に関する要件や職場環境要件が見直され、処遇改善のための取り組みがより多くの事業所で実施されることを狙いとしています。

特養は自施設の介護職員の給与水準を見直し、処遇改善加算の要件を満たすよう取り組む必要があります。

処遇改善加算の画像
【竹下氏監修コメント】
処遇改善加算を算定するためには、改定以前同様に職場環境等要件(全6区分)を満たさなければなりません。更に改定後の加算(I)(II)を算定するためには、生産性向上のための取組内の項目を改定以前より強く進めなければならなくなりました。詳しくは厚生労働省や行政からの通知を参照してください。

人材確保の取り組み

介護現場の人材不足は深刻であり、次の対応が求められます。

見守り機器等のテクノロジーを複数活用し、職員間の適切な役割分担による業務効率化を進める施設では、一定の安全対策のもと人員配置基準が特例的に緩和されます。

具体的には、介護職員と看護職員の合計人数について、「常勤換算で要介護者3人(要支援者の場合10人)に対して0.9人以上」とする特例が認められます。

人員配置基準に関する画像

ただし、導入前に一定期間試行し、多職種参画の委員会で安全性等を確認したデータを自治体に提出する必要があります。

人材確保に向けては、処遇改善とあわせて、職場環境の整備や業務の効率化、外国人材の活用などに総合的に取り組むことが重要です。

【竹下氏監修コメント】
今回の改訂では、生産性向上への取り組みに対する動機づけが強化されています。
将来にわたり質の高い介護サービスを提供できる体制を整えていくためには、人材が集まる働きやすい職場づくりに業界として取り組む必要があります。
その具体策として「委員会の設置」「役割分担の明確化」「テクノロジーの活用とその効果の検証」が挙げられています。
安全を確保しつつ、効率よく仕事ができるようフローを見直す。
さらにICTや介護ロボットなどの活用で負担を軽減することによりケアに集中できる環境を作るというストーリーが各事業所で描けることがポイントとなるでしょう。

サービス品質の向上

介護サービスの質の向上には、介護人材の処遇改善とともに、働きやすい職場環境づくりが欠かせません。
介護報酬改定では、以下のような取り組みを推進しています。

〇介護ロボットやICTの活用、介護助手の活用などによる業務負担軽減
〇休暇取得の促進やテレワークなど柔軟な働き方による人材確保
〇生産性の向上に資する取り組みを促進するための施設内委員会の設置義務化(3年の経過措置あり)

また、高齢者虐待防止の徹底や、感染症・災害への対応力強化など、利用者の安全・安心を確保するための体制整備も重要です。

サービスの質を高めるには、スタッフの専門性向上とともに、チームケアの推進、リスクマネジメントの徹底など、組織的な取り組みが求められます。

【竹下氏監修コメント】
人口減社会が進行する我が国の状況を鑑みると、介護職員(ケアのプロ)がケア以外の業務に時間が割かれないようにする必要があります。
介護職員がケアに注力できるよう、ICT活用や介護助手の活用を積極的に行いましょう。

認知症施策の推進

認知症の人が尊厳を保ちながら暮らせる社会の実現をめざし、2023年6月に「認知症施策推進大綱」が関係閣僚会議で決定されています。

介護報酬改定でも、認知症施策の推進に向けたインセンティブが強化されました。
特養で新設された「認知症チームケア推進加算」は、認知症の行動・心理症状(BPSD)の発現予防と早期対応を評価する加算です。

算定要件は以下の通りです。
〇利用者総数のうち、日常生活に注意を要する認知症の方の割合が2分の1以上
〇BPSDの予防・早期対応に資する専門的研修を修了した者を配置し、多職種チームを組織
〇定期的なアセスメントとカンファレンス、ケア計画の作成・見直し等を実施

加算(Ⅰ)は月150単位/人、加算(Ⅱ)は月120単位/人で、手厚い体制を評価しています。
特養は、認知症ケアの質の向上に向け、多職種協働によるアセスメントとケアの実践、スタッフ教育の充実などに取り組む必要があります。

認知症チームケア推進加算の画像

介護ロボットやICT等のテクノロジー活用の推進

介護現場への介護ロボットやICTの導入は、生産性の向上を通じた職場環境の改善に欠かせません。2024年介護報酬改定では、「生産性向上推進体制加算」が新設され、テクノロジー活用が一層促進される見込みです。

同加算の算定要件は以下の通りです。

<生産性向上推進体制加算(Ⅰ)>
〇(Ⅱ)の要件を満たした上で、業務改善の成果が確認されること
〇見守り機器等のテクノロジーを複数導入
〇職員間の適切な役割分担(介護助手の活用等)を実施
〇1年以内に1回、効果検証データを提出

<生産性向上推進体制加算(Ⅱ)>
〇介護サービスの質の確保と職員負担軽減に資する方策を検討する委員会の設置
〇見守り機器等のテクノロジーを1つ以上導入
〇1年以内に1回、効果検証データを提出

生産性向上推進体制加算の画像

見守り機器の導入は、夜間巡視の効率化や利用者の安全確保、スタッフの負担軽減などの効果が期待できます。

中でも、TOPPANの介護・睡眠見守りシステム「Sensing Wave」は、利用者の状態把握と業務効率化を両立する優れたソリューションです。

ベッドマットレスの下に設置した非接触型のセンサーで、利用者の心拍数・呼吸数・体動・離床状況などをリアルタイムに検知し、収集したデータはクラウド上で解析され、睡眠の深さや心拍変動などをグラフ化します。その数値はスタッフステーションのパソコンやスマホ・タブレットから、いつでも利用者の状態を確認でき、異常値が検出された際にはアラート通知されるので、迅速な対応が可能です。

また、導入効果として、実際の事例では、夜間の訪室回数が1/5に減少し、利用者の睡眠も改善されたとの報告があります。

Sensing Waveは、介護ロボット導入支援事業費補助金の対象機器にもなっています。補助金を活用すれば、費用負担も軽減できるでしょう。2024年の介護報酬改定を機に、ぜひ見守りシステムの導入を検討してみてはいかがでしょうか。

【竹下氏監修コメント】
今回の改定で新設された、生産性向上推進体制加算は単に加算を取得するという目的ではなく、加算を取得する延長線に、職員の負担軽減や利用者へのサービスの質の向上があることを忘れてはなりません。
本加算を算定することが出来れば、必然的に上記の効果が現れますので、積極的に取り組むことをお勧めします。

ーまとめー

2024年の介護報酬改定は、団塊の世代が後期高齢者となる「2025年問題」を見据え、介護職員の処遇改善を最重要課題としつつ、介護サービスの質の向上と介護現場の生産性向上も促進する内容となっています。

特別養護老人ホームにおいては、医療機関との連携体制強化や看取りケア・認知症ケアの充実など、地域包括ケアシステムの推進に向けた対応が求められます。

介護人材の確保・定着に向けては、処遇改善とともに、多職種連携の推進やテクノロジーの活用による働き方改革、キャリアパスの整備などに組織をあげて取り組む必要があるでしょう。

【竹下氏監修コメント】
今後約20年は介護と福祉のサービスを必要とされる方は一定の水準を維持することが見込まれており、つまり介護・福祉のニーズは高止まりします。
一方で地域によっては未曾有の人口減社会に突入しており、この流れはより急速になります。
地域の福祉をしっかりと支えていくためには、これからの取組みが事業者はもちろん、地域にとって非常に重要ですのでしっかりと取り組んで参りましょう。

2024.06.03

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