TOPPAN×ヘルスケアから生まれる
新たな可能性
ヘルスケア事業・担当者座談会
TOPPANがヘルスケア事業に取り組んでいることをご存知でしょうか。TOPPANでは「健康・ライフサイエンス」を重点領域の一つに設定して、自社だからこそできる強みを活かして多様なサービスを展開しています。これからの社会をより良いものに変えていくために、どんな課題に向き合い何ができるのか。ヘルスケア関連事業に関わる担当者がお話しします。
TOPPANホールディングス株式会社 事業開発本部 事業開発統括 ヘルスデータ事業推進センター長 渋江智一郎 TOPPANホールディングス株式会社 事業開発本部 事業開発統括 オンラインヘルスケア事業推進センター 薬剤師 賀本将之 処方せん薬宅配サービス「とどくすり」担当 TOPPAN株式会社 情報コミュニケーション事業本部 フロンティア事業開発センター 事業創発本部 研究企画部 課長 沼田徳樹 医療説明業務支援サービス「DICTOR®」 クリニック向け検査管理アプリケーション「PASS-CODE® for Medical」担当 ※所属名は2024年3月時点のものです。 |
なぜ、TOPPANがヘルスケア事業に取り組むのか?
渋江: 少子高齢化が急速に進む日本では医療費や介護費など社会保障費の増大が大きな社会課題となっています。TOPPANは健康寿命の延伸に貢献すべく、新しい事業領域の一つとして、ヘルスケア事業に積極的に取り組んでいます。
ヘルスケア事業では「未病対策の浸透」と「個別化医療の社会実装」を、社会課題解決のための2つの目標と捉え、3つの重点領域を設定しています。
1つ目が「ヘルスビッグデータ」。医療データを利活用した予測モデルで、病気の早期診断・早期発見が可能となります。さらに、態度変容を促せば予防にも寄与でき、未病対策の浸透へとつながります。これが、私が担当している「ヘルスデータ事業」です。
2つ目が「バイオテック」。TOPPANの研究開発の中枢を担う研究施設の総合研究所において、遺伝子診断などのライフサイエンス領域を古くから行ってきた歴史があります。その流れで、現在、3D細胞培養を行い、創薬で役立てるといった試みを行っています。3D細胞培養「invivoid®」という技術です。例えば、今現在、抗がん剤を使用する際、一人ひとりの患者さんにどの薬が効くかは個人差があり、実際に投与してみないと分かりません。しかし、その患者さん由来のがん細胞を3D培養で複数つくっておくと、 どの薬が効くのか投与前に特定できるようになります。まさに、個別化医療の実現と言えるでしょう。
そして3つ目が、「メディカルサービスイノベーション」。これは、TOPPANの持つハードとソフトを駆使して現場でイノベーションを起こすもので、医療に関わる人々の働き方改革ともつながっています。例えば、沼田さんが進めている「DICTOR®」ですね。
医療現場の業務課題をテクノロジーで解決
沼田: 「DICTOR®」は、北海道大学病院との共同プロジェクトで開発した、医師の説明業務を支援するアプリケーションサービスです。例えば、麻酔科の先生は、手術の際、それぞれの患者さんに毎回同じ説明を必ずしなければなりません。この説明業務の時間がボトルネックになってしまって、麻酔・手術や他の業務の時間が圧迫されることが課題になっています。「DICTOR®」は、先生の顔と声をあらかじめ登録していただき、それを基にAIアバターを生成します。作成後は説明テキストを入力することで、先生本人の顔と声の説明動画を生成・再生することができます。
賀本: これは、とても未来がある話だなと思います。今現在、「とどくすり」でも、服薬指導において、本当に薬剤師のリソースが必要な「コア業務」 と「それ以外」のものに分けて、「それ以外」については、DXでタスクシフトできないか、というお話を進めているところです。「DICTOR®」や、その周辺の技術を活用して、薬剤師が必ずしもやらなくていいことをDXで代替できたら、すごくいいですよね。
沼田: 医師から直接患者さんに説明を実施すると、1回きりの説明になりやすく、かつ患者さんもなかなか質問をしにくい状況になりがちです。そのため、事前に動画で説明を見ておくことで、不安なこと、質問したいことを準備することができます。再生速度が調節可能で、字幕を出すこともできるので、高齢者の方でも安心です。北海道大学病院で簡単な検証を行いましたが、患者さんからも「理解が深まる」「他の病院でもあればいいと思う」など、非常にポジティブな回答をいただきました。
渋江: 今後さらに、「DICTOR®」自体に機能を追加したり、他の商材を組み合わせたりすることで、病院の業務や医師の働き方を劇的に変えていきたいですね。
沼田: はい。現時点では、どの患者さんにどの説明をしたかをアプリ内で管理でき、PDFデータを紙に出力できる状態になっていますが、最終的には、アプリ内で患者さんの電子同意書を管理できるように、改良を進める予定です。
また、スマートフォンを使った、クリニック向けの検査管理アプリケーション「PASS-CODE® for Medical」も、医療従事者の負担軽減を実現します。アプリと連携できる検査キットを使用することで、医師と検査技師や看護師の間で、抗原検査結果を安全、確実にデジタル連携することができます。
渋江: 医師の働き方を考えたとき、改革が必要なのは、メインの業務である診察と診断、手術以外にも、事務作業など多岐にわたります。そうした負荷をDXでどう削減していくか、さらに考えていく必要がありますね。
時代に合わせて変わる課題に挑戦
渋江: TOPPANの「メディカルサービスイノベーション」の大きな柱の一つとなっているのが、処方せん薬の宅配サービスである「とどくすり」ですね。
賀本: はい。TOPPANは以前から、在宅医療に対して、あるいは外出困難である方々に対して、お薬を遠隔配送できないか検討を進めていたのですが、2020年初頭、新型コロナ感染拡大にともない、オンライン服薬指導が解禁になったタイミングで、いち早くサービスを開始しました。
渋江: 今では、フロントランナーとして、色々と外部からヒアリングを受ける存在になっていますよね。
賀本: スタートから3年ほど経ちましたが、薬局をとりまく環境は変化しています。例えば、厚生労働省の方針が変わり、1人の患者の方に対しての手厚い対応にインセンティブがつくようになってきている。そのぶん、効率化できるところはしていかないと、薬局は時間と労力を捻出できません。我々がDXを極限まで追求したオンライン薬局として存在することによって、そのノウハウを業界に広く普及させていきたいと考えています。
また、「個別化医療」も大事なキーワードです。個人個人の生活が多様化している中、医療の提供体制はニーズにマッチしていないというのが現状です。例えば、お薬の受け取り場所を選択できるなど、「とどくすり」として何か解決できることがあるのではと考えています。
ただし、薬局の調剤報酬のうち、オンライン服薬指導の市場規模は、未だ0.1パーセントにも満たないのが実情です。いかに便利さを皆さんに知っていただくかが、目下の課題です。
沼田: 確かに、もったいないですね。オンライン服薬指導に関して、TOPPANはマーケットのリーダーとして、啓発も含め、市場を創造することが必要だと思います。マーケティング、コミュニケーションの両方の得意分野を持つTOPPANだからこそ、オールTOPPANで取り組むべきでしょう。
賀本: 「とどくすり」の今後の構想としては、大きく2つあります。1つは、薬剤師の人材不足問題の改善に役立てること。従来の薬局では、薬剤師さんは在宅勤務ができないので、ライフステージや家庭などの事情で、働きたくても継続して働けない方もいらっしゃる。そうした埋没してしまっている人材の活用にも貢献できるのではと考えています。もう1つが、過疎地の薬局を守ること。今後、収益性を保てない薬局がどんどん淘汰されていく時代が到来すると予測しているのですが、そうなると、地域に根付いていた薬局がなくなって困るという方々が確実にいらっしゃいます。そうした地域の薬局さんについて、我々が何かしら解決策を提供できないかと考えています。
リソースに経験や知見を組み合わせて新たな形へ
渋江: 私が担当している「ヘルスデータ事業」は、次世代医療基盤法に則って進めているものです。次世代医療基盤法は、カルテデータをオプトアウトで利活用できるようにする法律で、認定事業者のみがデータを名寄せ匿名加工して、提供することができます。医療ビッグデータ利活用の、基本となるものですね。TOPPANは日本医師会系の認定事業者を子会社のICIを通じて支援し、製薬業界へ向けたサービス「DATuM IDEA®(デイタム イデア)」を提供しています。今後、製薬に限らず、医療機器メーカーやフィットネス業界など、データの利活用の幅はどんどん広がっていくのではないかと考えています。
沼田: その通りですね。ヘルスケア市場全体が拡大する中、TOPPANの従来のお客さまである、流通、メーカーなどの各社が、生活者がより健康を増進するための商品・サービスを新たにつくろうとされています。こうした流れが、今後の大きな潮流になりつつあると感じています。
賀本: TOPPANは多種多様な事業とかかわっている上に、すでに日本全国にネットワークが構築されています。自治体も含め、いろんな方に価値提供できる素地がすでにあり、それをやってきた歴史がある。新しい事業領域であるヘルスケアにおいても、そうした経験とリソースを生かして、お客さまと協力していける形をつくっていきたいですね。
沼田: TOPPANのデータをお客さまに活用いただくことで、それがまた、生活者に還元されます。さらに、今後我々が健康についてきちんと追求していくとなると、当然、医療機関や製薬企業とのつながりはさらに強くなっていくでしょう。TOPPANはそこで得た知見を、またお客さまにご提供する。そんな、TOPPANとお客さま・関係先とのシナジーに期待しています。
また改めて考えると、ヘルスケアやメディカル領域におけるTOPPANの強みは、セキュアなモノづくりができるハードがあり、専門部隊によるアプリ開発というソフトがあり、次世代医療基盤法認定事業者としてデータの利活用ができることです。また、データを分析するマーケティング、各種事務業務の一括サポートというBPOも可能です。さらに、細胞培養技術やデジタル解析技術などの研究開発も行っています。ここまでのリソースを持っている企業は他にないと思っています。
渋江: 同感です。現在、TOPPANの各事業者とグループ会社で、ヘルスケア事業に関わる者たちが集まり情報共有する連携会議を開いています。実際、今日話題にのぼった商材以外にも、TOPPANのヘルスケア領域の幅はかなり広がっています。今後は、さらにこれらをうまく組み合わせることで、それぞれの社会課題、顧客課題の解決に特化したメニューとして提供できる形にしていきたいですね。
COMMENT
TOPPANグループ 株式会社ONE COMPATHの山岸より、ヘルスケアサービス「aruku&」取り組みや展望をご紹介
株式会社ONE COMPATH イノベーション本部 aruku&サービス部 山岸靖典 |
ヘルスケア事業社「ではない」からこそ考えられたサービス
私はウォーキングアプリ「aruku&(あるくと)」の営業・マーケティングを担当しています。「aruku&」はゲーム要素や賞品プレゼントなど「歩くことが楽しくなる」さまざまな仕掛けがあるアプリです。働き盛り世代を中心に、これからの健康を維持し、健康寿命を延ばすために利用いただいています。「健康経営」というキーワードが近年注目を集める中で、法人向けの機能では、従業員の運動不足に対して、アプリを用いて気軽に取り組めるウォーキングイベントを実施しています。コロナ禍での在宅勤務の増加によって運動不足が多くの方の悩みの一つになっていました。そこで、リモートワーカーの方も簡単に参加できる「1day3000」というイベントを企画。期間中、1日3000歩達成を目指す目標はハードルが低いため参加しやすく、これまでに第10弾まで開催し、のべ1200社以上、11万人の方に参加いただいています。
「aruku&」は、当社の前身である地図や位置情報ゲームを扱う株式会社マピオンが開発したサービスです。元々ヘルスケア事業者が開発したアプリではないため、ゲーミフィケーションにより「楽しんで使ってもらおう」という考え方が根底にあります。それが翌月平均継続率80%超と、継続使用率の高さにつながっているのではないかと思っています。最近では健康という観点に限らず、SDGsなどの視点から歩くことによるCO2削減量を換算して、達成度合いを確認できる仕組みを期間限定で提供しました。今後も「歩くことの価値」を可視化することで、健康寿命の延伸や環境負荷軽減といった社会課題にも貢献できればと考えております。
2024.03.11