イベントレポート

“マーケティング”を
アップデートするCDPの開発

登壇スピーカー株式会社富士フイルムヘルスケアラボラトリー 竹内 正也 氏
ファシリテーター凸版印刷株式会社 溝口 貴大

マーケティングをアップデートするための3つの要素

富士フイルムグループは、フイルムやカメラに関わる製品サービスを扱う「イメージング ソリューション」、医療・印刷・液晶ディスプレイ材料などを展開する「ヘルスケア&マテリアルズ ソリューション」、複写機などを扱う「ドキュメント ソリューション」の3つのセグメントで幅広い事業をグローバルに展開している。

カラーフイルムの需要が世界的に縮小する中、同社はフイルムの開発・製造で培ってきた技術を生かし、「診断」から「予防」「治療」というヘルスケア領域の新規事業を創出してきた。この中で富士フイルム ヘルスケア ラボラトリーは、化粧品やサプリメント・機能性食品などにより、「予防」の領域を担っている。高機能エイジングケア化粧品「アスタリフト」はヒット商品の一つだ。

同社営業本部 CSソリューション部 統括マネージャーの竹内正也氏は、同社のECサイトを始めとしたデジタルマーケティングの推進に携わっている。

講演に先立ち溝口は、「多くのクライアントと話をする中で、新しいテクノロジーを活用してマーケティングをアップデートするためには『ビジネス(何を実現したいか)』、『システム(どう実現するか)』、『オペレーション(どう実現するか)』の3要素が必要だと感じています。竹内さんは、今回のプロジェクトでこの3つの要素を丁寧に進められ、まさにPoCが始まったところだと思います。それぞれの取り組みについて、お聞かせください」と切り出した。


CDPで通販モデルの限界を突破する

まず初めのパートで竹内氏は、「ビジネス」の要素に関して、「これまでの通販モデルとその限界」と「限界突破に向けて目指した状態」について説明した。

富士フイルム ヘルスケア ラボラトリーのこれまでの取り組みについて竹内氏は「KGIとして『お客様の育成』、『お客様第一主義』を掲げていたものの、ともすれば『効率至上主義』、『LTV至上主義』で数字を追いかけることになりがちでした」と話す。

通販ビジネスでは、お客様にまずはトライアルキットを試してもらい、納得していただいたうえで本品を購入してもらい、使い続けてもらう、というモデルが一般的だ。だが竹内氏は「ここ数年、従来通りのやり方では厳しくなってきた」と語る。背景には顧客環境の変化、競合の台頭などがあるという。

「それにも関わらず当社では、過去の成功体験に縛られすぎて、成長が鈍化していました。大きな課題は、お客様に合ったコミュニケーションができていなかったことです」と竹内氏は話した。

具体的には、スマートフォンやSNSの普及に伴うお客様の買い方や接点への対応、モノありきの企業目線なコミュニケーションからの脱却、お客様の使い方の変化への対応などを挙げた。そして、その課題の解決に向けた取り組みとして、お客様の捉え方(個客単位で考える)、売り方/伝え方(マーケティングストーリーの見直し)、情報の届け方(同社流のOne to Oneマーケティング)など「お客様に関する情報=顧客データを中心としたマーケティング」に改めて取り組むことになったという。

「限界突破に向けて目指した状態」について竹内氏は「To Be(将来像)を描くために、カスタマージャーニー、パーセプションフローをまとめるとともに、これまでは部門ごとにバラバラだった『顧客ピラミッド』、すなわちお客様のステージとアクションを全社的に一つにまとめました」と語る。

これら一連の作業には約半年を要したという。「ブランド、営業、システムというように、大きく3つの部門が関わっていました。特に、ブランドと営業の部門では、ミッション自体が異なります。ブランドの部門では『お客様のブランド認知』、営業現場では『お客様の商品購入』に重きが置かれています。しかし、お客様がブランドを認知してから実際に商品を購入するまでの間には溝がある。認知から購入までのギャップをいかに埋めていくか、という点には苦労しました」と竹内氏は振り返る。

お客様が購買に至るまでのカスタマージャーニーを描く上では「フルファネル」でマーケティングを捉え直す必要がある。だからこそ、各部門が重きを置く指標に相違が出てきたり、逆にどの部門もカバーできていなかった部分が明らかになったりしたのだという。ここで生まれた変化や得られた気付きをどう生かすか、という点が今後、同社がマーケティングをアップデートする上での鍵になるようだ。


企業独自の集計軸を生かし、セグメントを精緻化

目指すべき姿を実現するための「システム」は、どのように構築したのだろうか。竹内氏は、目指す姿に立ちはだかる障壁、そして、最終形から逆算した現在地について語った。

「『データを統合する』と語るのは簡単だが、実際は容易ではありません。データに関する課題では、『データの散在による非効率』や、当社特有の『データの定義や集計軸』、さらに、現在は『購買データのみでのセグメント』がありますが、これを変える必要もありました。また、データ統合に関しては、『マンパワーと属人化の問題』、データの定義などの『データクレンジング』、『複雑化したセグメント』をどうシンプルにまとめるか、といったところも難易度が高かったと感じています」(竹内氏)

同社ではその上で、プラットフォーム案を描くとともに、CDPのインプットとアウトプットについてTo Beをまとめたという。しかし、当然ながら全てを一度で行うことはできない。

「そこで、ミニマムでスタートするためにやるべきことを絞り、初期段階の導入をし、CDPの使い勝手などを検証しました」と竹内氏。精度の高いセグメントを切るためのデータ拡充についても、従来の購買データのみから、行動データ、マインド情報、スコアリングなどを段階的に拡張していく計画だ。


CDPで「業務の再構築」と「業務改善」を同時に行う

マーケティングをアップデートするための最後の要素として挙げられたのが「オペレーション」だ。

溝口は「CDPを活用するために、これまで扱ったことがないシステムが入ると業務が変わるはず。その体制の再構築をどう考えているのでしょうか、また、本格運用を見据えたうえで今、何をしているのでしょうか」と尋ねた。

それに対して竹内氏は、「POCで検証したのは、そもそもCDPの運用をどのような体制・役割で行い、実際に業務が回るのか、といったところです。さらに、営業部門などの現場でも業務負荷軽減や現状の業務フローの改善を合わせ技で行い、CDPを検証しました」と答えた。

講演の最後に竹内氏は、CDP導入による変化について、「お客様との関係性の変化」と「環境・業務の変化」があると紹介した。

「お客様との関係性の変化」では、顧客接点のマルチチャネル化、マス・マーケティングからスモールマス、One to Oneの情報の届け方などを挙げた。また、「環境・業務の変化」では、事業管理が売上のみから顧客数・商品軸になること、バラバラだったデータを一元化・統合すること、可視化の集約、業務の効率化と質向上、などを挙げた。

プロジェクトがスタートし1年あまりになるが、竹内氏は「構築することがゴールではありません。作った箱をより活用していくためにどうすべきか考えるフェーズだと思っています。CDPの箱自体は使いやすいので、われわれだけではなく、他のメンバーにも活用してもらい、マーケティングの現場の業務を変えていきたいです」と結んだ。

2020.03.10