イベントレポート

テクノロジーでビジネスを
アップデートする

登壇スピーカーピクシーダストテクノロジーズ株式会社 村上 泰一郎 氏
ファシリテーター凸版印刷株式会社 梅川 健児

最良の顧客体験品質をもたらす「第4のアップデート」

梅川は冒頭で、講演テーマの背景について説明した。その1つとして挙げたのが「顧客体験品質」と「労働生産性」だ。ここでは2019年に行われたラグビーワールドカップ日本大会の話題に触れ、日本のサービス品質に対する海外からの評価の高さを述べた。一方で、労働力に関しては「2050年、日本の人口は1億を割り込む」「労働力不足は2000万人を超える」と、深刻な話題が多いことに言及。こうした状況を踏まえつつも、「(期待と実際の)ギャップは広がっていくわけですが、このギャップをどう解消するかが、われわれのビジネスチャンスと思っています」と力を込めた。ここで求められる「(不足する労働人口の中で)最良の顧客体験品質」を提供するために、テクノロジーを活用したビジネスのアップデートが求められるという。

講演テーマの背景としてもう1つ挙げたのが、凸版印刷自身のビジネスにおけるアップデートだ。凸版印刷のデジタルマーケティングは過去数十年間で、「顧客中心の実現に向けた3度のアップデート」を遂げてきた。顧客データの活用(分析)によるダイレクトマーケティングの効率化、AIやMAを活用したデジタルマーケティング(CRM)の高度化と自動化、全ての顧客体験を捉えたマーケティング支援(CXM)、という具合だ。

これまでは自前の技術を活用して自力でアップデートを行ってきたものの、今後は異なる視点が求められるという。この点について梅川は「いまわれわれは第4のアップデートを迎えており、ここでは“顧客中心"を実現するために、より大きな社会課題を捉えなければならない」と語った。そして、あらゆる最新技術をビジネスの中に取り込むうえでは「自前主義は限界」であることから、オープンイノベーションを活用したアップデートを進めているという。

その上で、「ピクシーダストテクノロジーズの村上さんには、このオープンイノベーションの取り組みで先陣を切っていただいている」と紹介し、村上氏にマイクを譲った。


大学発の要素技術を「連続的に社会実装する」

ピクシーダストテクノロジーズは、2017年に創業した筑波大発のベンチャー企業だ。村上氏は、筑波大学の准教授であり多方面で活躍する落合陽一氏と共に、ピクシーダストテクノロジーズの共同代表を務めている。

ピクシーダストテクノロジーズの事業内容は、村上氏が「説明が難しい」と話すように、極めて多様でユニークだ。

「(筑波大学とピクシーダストテクノロジーズでは)特殊な産学連携スキームを組んで、大学からの技術をどんどん取り込んで世の中に発信できるようにしています。具体的に何をやっているかというと、筑波大学の中に落合研究室があり、そこから出てきた知財が100%会社側に譲渡される仕掛けになっていて、その対価として大学側に新株予約権を発行しています。これは日本で初めての仕掛けであり、新株予約権を発明が出た都度出しているというわけではなく、先にまとめて付けていることがポイントです。」(村上氏)

こういった仕組みがあることで、大学の研究室から生まれ続ける知財・要素技術をピクシーダストテクノロジーズへスムーズに移すことを可能としている。その上で、同社が様々な企業とコラボレーションを図り、連続的に社会実装を行っているのだ。

この仕組みにはビジネス的なメリットもあるという。

「大学と産学連携を行うと、通常は発明ができた後に権利の配分をどうするか、共同出願を行うのか、ライセンスの契約をどうするか、といったやり取りに半年ほどかかります。それでは時間がかかりすぎてしまうため、スキームを変えて、大学で発明をして届けを出せばすぐに会社側で使えるように、極めてスピード感を持って社会実装できるような仕掛けにしました。」(村上氏)

落合研究室では年間40程度の研究が進行していて、 その中の10~20程度が論文になり、そこから絞られた数個の技術がピクシーダストテクノロジーズに取り込まれるという。大学発の要素技術を社会課題解決に活用して市場価値に換えるために、同社が大学と市場との媒介になっているようだ。型」、「売切期限ベース段階値下げ」です。このあたりが人手ではなく、自動化されることで、ダイナミックプライシングと呼ばれることが多くなっています。


課題解決に主眼を置いた技術活用

続いて、ピクシーダストテクノロジーズが手がけた社会実装例が紹介された。同社は、音や光、電磁波を制御して聴覚・視覚・触覚に働きかける様々な技術を扱っている。

その代表例が、超音波を用いて物質を浮遊させて自在に動かすことができる音響浮揚技術「Pixie Dust(ピクシーダスト)」だ。この技術は非接触で力を伝えるという特長から、「空中の何もないところで触覚を感じさせる」技術。その別の応用形態として、日本医科大学との共同研究では「この非接触の力を傷口に当てれば、傷が早く治るのではないか」という発想の元、「薬を使わずに外部刺激によって細胞活性を上げる」試みがなされた。結果として、「マウス実験レベルでは、1.5~2倍ほど傷が早く治る」という成果に加え、「美肌成分が少し増える」「毛が生えやすくなる」などの研究結果が得られているという。

この他、「1つのスピーカーから出た音が、特定の人にだけ聞こえる」といった音響技術は、作業現場での危険通知や、小売店での音声POPといった活用が想定されている。視覚に働きかける技術としては、「人の網膜に直接映像を描く」という網膜投影技術の研究が進んでおり、「人のピント調節機能に依存しない」「どこを見ていても映像がはっきり見える」という利点を生かして、グラスウェアなどでの活用が期待される。

事例の最後に紹介されたのは「自動運転車椅子」に関するプロジェクトだ。ここでは特定の技術ではなく、「介護施設の課題を、テクノロジーを使っていかに解決するか」をテーマとしているという。現在は2箇所の介護施設で実証実験を行っており、現場スタッフのフィードバックを生かして介護現場での移動介助工数の削減を形にしている。「既存の車椅子にアタッチメントを着けるだけで、可能な限りソフトウェア処理で自動化する」という未来像を描いている点もユニークだ。車椅子を丸ごと買い替えなくても自動化できるようになれば、多くの介護施設で現場の課題を解決する助けになるはずだ。

多様な技術を扱うピクシーダストテクノロジーズだが、一企業として見たとき、どのようなビジネスモデルを展開しているのだろうか。

村上氏によると、「(特定の技術を対象に)一緒にプロダクトを作って、一緒に売っていく」というプロダクトディプロイ方式、もしくは、「特定の技術にはとらわれず、様々な課題にどのような技術でタックルしていくのかを考え、どんどん共同R&Dと事業化を繰り返す」という共同ラボ方式の2系統ということだ。しかし、こうした取り組みの幅を広げる中で、「なかなか1社だけでは最後までやりきるのは難しい」とも感じているという。

だからこそ、ベンチャーと大手企業がそれぞれの強みを生かしながら「Win-Winの形でコラボレーションを組んで、共同で世の中に価値を提供していくというオープンイノベーションスタイルを採用しています」(村上氏)と説明した。


「課題・ニーズを発掘し、研ぎ澄ます」

多様な先端技術を扱い、企業や大学とのコラボレーションを加速させるピクシーダストテクノロジーズ。一見、先端技術のみを重要視していると思いきや、「テクノロジーが注目される時代であっても、『課題やニーズを発掘して、研ぎ澄ます力』や、『そこに対して打ち手を提示する』ということがとにかく重要」(村上氏)という考えを示した。そして、この言葉に込めた意図を次のように説明する。

「テクノロジーを中心に色々な用途を探すことは、実はかなり効率が悪い。こういうテクノロジーがあって、それが何に使えるかを考えて、大きいマーケットを狙っていく。そこでうまくいけばいいが、実際のところ(そのテクノロジーが)使えませんでした、ということになると、次に狙うマーケットはそれよりも絶対に小さくなるんです。テクノロジーをベースにしてしまうと、だんだん市場が小さくなっていく。だけど、課題やニーズの周りで『それをどうやったら解決できるか、満たせるか』を考えると、そのマーケットは不変に在り続けるので、小さくまとまることはおそらくないんです」(村上氏)

様々なテクノロジーや高度技術を抱えながらも、課題やニーズを追究する姿勢は欠かせないようだ。しかし、同時に次のように補足した。

「最近でいうと、発掘にも提示にも、更には実装していくところにもテクノロジー知見が必要になっていく、ということも事実です。これだけテクノロジーの進化のスピードが速く、多岐に渡るということになってくると、さすがに1社だけで全てを賄いきれない。だからこそ、コラボレーション、オープンイノベーションが促進されるべきなのではないか、と思っています」(村上氏)


「学際的コラボレーションのジレンマ」から見るイノベーションの勘所

「大学発のベンチャーの場合、研究者だけで構成されていたりするので、マーケットの生々しい課題感を知る機会は少ない。一方で、顧客にフェイシングしている方々はそこを理解されている。今は、ニーズ・課題を持たれている方々と、テクノロジーを持っている人たちが断絶されているように思えるんです。だからこそ、そこの間をうまく繋いであげると、もっと良いコラボレーションが生まれるのではないかと思っています」(村上氏)

大学やベンチャー企業、大企業がそれぞれの強みを自覚し、相互補完関係を築くことがポイントのようだ。最後に村上氏は、「学際的コラボレーションのジレンマ」という調査データを示し、多様性とイノベーションの関係性について語った。

「『プロジェクトメンバーの多様性』と『そこから生まれたイノベーションの価値』の相関を見てみると、メンバー多様性が低い(=同質性が高い)ほど、平均的に高い価値を出していることがわかります。しかし、画期的なイノベーションは、メンバーの多様性が高いチームからのほうが出やすい。つまり、イノベーションを起こしたいのであれば、色々な人たちとコラボレーションすることが大切だということです。一方でその分失敗も多く出るため、イノベーションが起こらなそうであれば早めに見切る、ということもまた必要です」(村上氏)

コラボレーションを加速させることで初めて、大胆な成長曲線を描くことができる。この構造こそが、企業がオープンイノベーションに取り組むべき理由になるのだという。

「学際的コラボレーションのジレンマに代表されるように、均質的なところだけでやっているのではなく、多様な人たちと共に、ニーズ・課題サイドの人たちとシーズサイド、テクノロジーサイドの人たちとでもっとコラボレーションしていくことで、どんどん新しい価値が出ていくような仕掛けが今後も広がって行けばいいのではないか、と思います」(村上氏)


PoC貧乏になるか否かの違いは「課題ニーズドリブン」

続いて、梅川から村上氏に向けて「PoC貧乏になる企業と、そうでない企業、その違いは何かあるのか」という質問が投げかけられた。ここでいうPoC貧乏とは、「PoC(概念実証)ばかりやっていて、その先になかなか進まない」、あるいは「PoCにかなりの投資をしたものの、その先に解決すべき課題が見つかっていない」という状態を指す。

この問い対して村上氏は、「僕たちが相対している企業の中でとにかくうまくいくケースは、課題が極めてクリアであること。それ自体のハードルは高いかもしれないが、そこを目指していこう、ということを初めに握っておくことは非常に重要」と答えた。オープンイノベーションはあくまでも手段であり、予め明確なゴールを描いた上で、バックキャスティングの発想で検証を重ねていくことが大切とのことだ。

講演の最後には、梅川が自社の取り組みと「DATA CAMP 2019 TOKYO」に込めた想いを語り、本セッションを締めくくった。

「凸版印刷は現在、“B with B to C"を合言葉に、様々な形でオープンイノベーションに取り組んでいます。お得意先とわれわれ、ベンチャー企業とわれわれというように、様々なWithがあり、Withをつくればつくるほど、課題解決ができると思っています。だからこそ、本日は皆さんに、是非色々なWithを持ち帰っていただければと思います」(梅川)

2020.03.10