ETLとは?
プロセス処理の機能から
ETLツール導入のメリットまで解説
企業が社内に点在するさまざまなデータを有効活用するためにCDP(プライベートDMP)を導入する際、集めたデータを処理するための「加工」が、思わぬボトルネックになることがよくあります。その際、多種多様なデータを加工・正規化するためのシステム開発・運用工数を削減し、質の高いデータ統合を実現する役割を果たすのが、ETLツールです。
そこで今回は、そもそもETLとは何か、という基礎から解説し、データ統合の観点から見たETLツールの機能や必要性、メリット・デメリット、選定時のポイントなどをご紹介します。
<目次>
1.ETLとは?
2.CDPから見たETLの重要性
3.ETLツールとは? 3つの機能
4.ETLとELT・EAIの違い
5.ETLツールのメリット
6.ETLツールの課題・注意点
7.ETLツールの選び方 5つのポイント
8.ETLの導入が効果的なケース
9.まとめ
1.ETLとは?
ETLとは、販売管理システムや顧客管理システムなどさまざまなデータベースやシステムからデータを抽出し、操作しやすいフォーマットに変換してまとめる一連のプロセス(処理)のことです。そのプロセス「Extract(抽出)」「Transform(変換)」「Load(格納)」の頭文字をとって、ETLと呼ばれます。
CDP(プライベートDMP)でデータを活用する置き場には、RAWデータを蓄積するDate Lake(データレイク)、そこから分析や施策で必要なデータを抽出し時系列でまとめるDWH(データウェアハウス)などがあります。ETL(処理)はそれらにおいて加工される前のデータを抽出し、活用しやすいようにデータを変換し、加工先に書き込みを行う役割を担います。
このETLを行うためのシステムは、かつてはスクラッチで開発されていました。今日では、エンタープライズ向けからフリーで使えるオープンソースまで、さまざまなETLツールが存在しています。
2.CDPから見たETLの重要性
企業が社内に点在するデータを有効活用し、経営に役立つインサイトを得るためには、データ統合・CDP(プライベートDMP)の構築が欠かせません。その際には、集めたデータを正しく整える「加工」処理が、非常に重要な工程となります。元データのままでは「同一のデータ」が「異なるデータ」と誤って判定されるなど、さまざまな不具合が生じてしまうためです。
こうした問題に対処するために、CDP(プライベートDMP)でSQL処理を行う際に簡単なデータ加工(スペースやハイフンの除去、正規化など)を実施することがよくあります。しかし、複数のシステム間で大量の、同じ基準によるデータ加工が必要な場合は、CDPにデータ連携する前にデータ加工をして「正規化されたキレイなデータ」としてから統合した方が、CDPを効率よくデータ統合・セグメント処理に専念させることができます。データが正規化されていないと、CDP側の設計時にその都度フォーマットや加工処理を意識しなくてはならず、開発・運用工数増や設計ミスなどにつながってしまうのです。
しかし、多種多様なデータを加工・正規化するのにも、多大な工数がかかります。情報元であるデータソースの種類が多ければ多いほど、加工のためにプログラミングなどの専門的な知識が求められ、膨大な開発・運用工数が必要となります。
その障壁を取り払うための有効な手段が、ETLツールです。
ETLツールを利用することで、データソース毎に求められる高度なエンジニアスキルをツール側で吸収することができます。また、ほとんどのETLツールには加工したい内容を簡単に処理できるインターフェース(GUI)が装備されているため、開発・運用工数を大きく削減できます。
3.ETLツールとは? 3つの機能
それでは3つのプロセスにおいて、ETLツールが具体的に何を行うのかを見ていきましょう。
ETLツールの機能1 Extract:データを抽出する
まず、社内で運用しているさまざまなシステムに保存されているデータを抽出します。ETLツールの多くはDB管理システムから直接データを抽出可能。またCSVやXML、Excelなど形式が異なるデータも抽出可能です。ETLツールの多くは定期的に自動でデータを抽出する機能があり、業務をより効率化できます。また妥当性検証や識別、除外などの処理も実行します。
ETLツールの機能2 Transform:データを変換する
ETLツールはDWH(データウェアハウス)やCDPでのデータ統合を念頭に、抽出したデータのフォーマットや文字コード、属性などを変換・加工します。手作業で行うと膨大な工数がかかりますが、ETLツールの変換機能を使うことで効率的な処理が可能です。さらに、抽出したデータの重複排除やグループ化が可能なツールもあります。
ETLツールの機能3 Load:データファイルを書き出す
変換・加工のプロセスで作成したデータを書き出します。書き出しの形式は、そのデータを扱うシステムやアプリケーションに応じたものになります。
4.ETLとELT・EAIの違い
ETLと類似した目的を持つ他のテクノロジーも存在します。それぞれの特長を理解し、自社のIT課題に最適な方法を選択することが重要です。
ELTとの違い:処理順序の逆転
ELTは、ETLと同じくデータの抽出(Extract)、変換(Transform)、書き出し(Load)を行いますが、その順序が異なります。ETLが「抽出→変換→書き出し」であるのに対し、ELTは「抽出→書き出し→変換」の順で処理を進めます。
これは、まずデータをそのままデータウェアハウス(DWH)などの格納先にロードし、その基盤が持つ潤沢なリソースを利用してデータ変換を行う考え方です。特に、クラウド環境で提供される高性能なDWHの普及に伴い、注目されている手法です。
従来のETLと異なり、事前に詳細なデータ構造の設定をせずとも、まずデータを収集できる点が特徴です。
EAIとの違い:目的と処理のリアルタイム性
EAI(Enterprise Application Integration)は、企業内に存在する異なるシステムやアプリケーションを連携させ、データやプロセスを統合するための仕組みです。ETLがデータ分析を目的とした大量データのバッチ処理を得意とするのに対し、EAIはビジネスプロセスの自動化を目的としています。
例えば、「ECサイトで注文が発生したら、在庫管理システムと会計システムに即座にデータを連携する」といったイベント駆動型の処理や、リアルタイムなデータ連携が求められる場面で活用されます。
ETLは集計やレポート作成のためのデータ基盤構築、EAIは業務プロセスそのものを改善し、効率化するためのソリューションと理解すると良いでしょう。
5.ETLツールのメリット
ETLツールを導入することで、以下のようなメリットが挙げられます。
効率的なデータ整形・統合
ETLツールにより、異なるデータソースからのデータを効率的に整形・統合できます。一般的に、企業は多様なデータベースやファイル形式を扱っており、それらのデータを一元化することが非常に重要です。
ETLツールであれば、複数のデータソースや各システムを横断してデータを抽出し、同一基準でのデータ加工が可能です。必要に応じて変換を施し、統一されたフォーマットでデータウェアハウスにロードすることで、データの一貫性が保たれ、異なる部門やシステム間でのデータ共有が容易になります。手動でのデータ処理に比べて、ETLツールを使用することで時間と労力を大幅に削減できるでしょう。
データ品質の向上
ETLツールは、上述の通り、データの変換プロセスでデータクレンジングやデータ検証を行う機能を持っているため、データの正確性や一貫性を確保し、品質の高いデータを用意することができます。また、データの欠損値や重複データの除去、フォーマットの標準化などを自動的に実施することで、手作業によるミスの防止にも期待できます。
リソースコスト削減
ETLツールは、データ処理を自動化・効率化できるため、ETLプロセス処理開発のための高度な知識を持つエンジニアやプログラマの確保が不要となります。また、開発やデータ管理にかかる人件費、オペレーショナルコストなども削減可能で、統合したデータの分析や活用など、コア業務に集中できることも期待できます。
6.ETLツールの課題・注意点
ETLには、メリットがある一方、注意すべきポイントがあります。正しく把握した上で実装することが重要です。差分連携できるデータなのか、一括更新しかできないデータなのか、データの更新方式によっても負荷が変わってきます。そのため、ETLツール導入時には正しい要件整理と、確実な設計が必要となります。
ETLツールが抱える課題・注意点は、以下の通りです。
・データ処理に関する知識が必要
プログラミング不要とはいえ、ツールを扱う際には「何のデータに対して、どのような加工をすると適切か」など、ある程度データ処理に関する知識が必要。
・各ETLツールで要否を判断する必要がある
ETLツールの中には、大量データの一括処理に向いていない製品や、そのために追加コストがかかる場合がある。ETLツールとしての契約や、製品によってはインストールが必要になるものがあるため、各システムでどのようなデータを保持しているかを踏まえて、必要要否を判断する必要がある。
7.ETLツールの選び方 5つのポイント
市場にはエンタープライズ向けからフリーで使えるオープンソースまで、さまざまなETLツールが存在します。オープンソースの多くは海外製でサポートもなく、利用は容易ではありません。その一方、有償ツールは機能的には大きな差がなく、「何を基準に選べばよいのだろう」とのお悩みの声をよく耳にします。
以下、ETLツール選定の際に気をつけるべきポイントについて解説します。
ポイント1:専門知識の必要度合い
「ETLツールは専門知識が不要」と言われますが、中にはSQLやデータベースなど、一定の知識を有することが前提となるツールも存在します。「連携先テンプレートの有無」「接続コネクタの種類・数」も含めて、可能な限り誰にでも扱えて、業務の属人化を防ぐことができるETLツールを選びましょう。
ポイント2:GUIの使い心地
「直感的なGUI上でワークフロー作成可能」が売りのETLツールですが、その使いやすさには製品によって差があります。また、海外製品では日本語化されていないものもあります。ほとんどのELTツールは導入前に無料トライアルが行えますので、実際に触ってみて、操作のしやすさを確認しましょう。
ポイント3:テクニカルサポートの有無・レベル感
海外産、国産のツールが混在するETLツールは、サポート体制も提供各社により差があります。こちらも導入前のトライアル期間中に、サポートの対応品質やレスポンスのスピードなどを確認しましょう。
ポイント4:SaaSとの連携・拡張性
クラウドシフトが進む中、SaaSなどクラウドサービスとの連携性は非常に重要です。自社利用中のサービスだけでなく今後活用予定のものも含めて、標準装備のコネクタがどのくらいあるか、また今後拡張する計画があるかも確認しましょう。
ポイント5:コスト
最後はもちろん利用コストです。ETLツールには買い切り型と月額課金型があり、近年ではサブスクリプション(月額課金型)が主流となって来ています。さらにデータ転送量、稼働時間、アダプタ使用量など従量制で月額料金が変わり、その変動要素もツールにより異なりますので、自社のデータ量や転送ボリュームなど状況に合わせて選択しましょう。もちろんCDP構築やDWH、BIツールなど全体予算との兼ね合いも重要です。
8.ETLの導入が効果的なケース
ETLツールについて紹介してきましたが、実際に導入が必要となるのはどのような状況か、具体的な課題を通して解説します。
複数のデータソースを統合し分析基盤を構築したい
多くの企業では、部署ごとやシステムごとにデータがサイロ化(分散・孤立)しています。例えば、Webサイトのアクセスログ、広告配信データ、CRMの顧客情報、販売管理システムの購買履歴など、それぞれ異なるデータ形式で保管されているケースは少なくありません。
ETLツールを利用することで、これらの多様なデータを自動的に収集・統合し、横断的な分析を可能にするビジネスインテリジェンス環境の基盤を構築できます。
手作業でのデータ集計・加工に限界を感じている
従来の方法である手作業でのデータ集計やレポート作成は、多くの工数が発生するだけでなく、人為的なミスの温床にもなります。
ETLを導入すれば、定期的に発生するこれらの作業を自動化できます。複雑な変換ルールの設定も一度行えば済むため、業務効率が飛躍的に改善され、担当者はより付加価値の高い分析業務に集中できるようになります。
将来的にAIによる需要予測などを検討する場合、その前段階としてクリーンなデータ形式に整えるプロセスは不可欠です。
9.まとめ
いかがでしょうか。今回はデータ統合・CDPの観点から、ETLツールの必要性とメリット・デメリット、ETLツール選定時のポイントについて解説しました。重要なポイントは、ETLは情報活用のためのプロセス・ツールの一つであり、ETLツールの導入が目的ではないということです。ELTツールを導入する際には、自社のデータ管理の体制と業務など現状を把握し、今後のデータ分析で実現したい真の目的をしっかり整理した上で、検討する必要があります。
TOPPANはお客様が保持するデータ内容や要件を踏まえ、CDP導入を含めたETLツールの要否および、ETLツールの選定・導入・運用を支援します。ぜひお気軽に、お問い合わせください。
2025.11.10



