ファンマーケティングとは?
定義・手法・企業の成功事例を解説
- TOPPAN CREATIVE編集部
ファンマーケティングは、自社に対するファンとの密接なコミュニケーションを図る手法です。既存顧客との関係強化によりロイヤルティの向上が見込めます。
ファンの数が増えるほど、LTV(顧客生涯価値)の向上に寄与するため、安定的な成長の実現につながります。特に中長期的な収益性を高めるうえで、ファンマーケティングは重要な要素です。
本記事では、ファンマーケティングの重要性やメリット、導入時の注意点などを詳しく解説します。企業の成功事例も紹介しているため、具体的な施策を検討する際に役立ててください。
ファンマーケティングとは?
ファンマーケティングとは、自社に対するファンとの密接なコミュニケーションにより、中長期的な売上向上を図るマーケティング手法です。
本来、マーケティングは見込み客を獲得するための手段や手法を指します。一方のファンマーケティングは、一度でも商品やサービスを購入した既存顧客に着目し、中長期的な関係性のもと、LTV(顧客生涯価値)の向上を図る点に特徴があります。
ここからは、ファンマーケティングの重要性やファンの定義について解説します。
ファンマーケティングの重要性
少子高齢化や競争拡大によって新規顧客獲得が難しくなる昨今において、既存顧客にアプローチするファンマーケティングは、マーケティング活動のなかでも特に重要な手法だといえるでしょう。
たとえば、2000年頃から台頭し始めたWeb広告は、リスティング広告やSNS広告、動画広告など多様な種類が登場し、出稿競争が激化しています。このようななかで集客効果を高めるには、競合他社よりも高額な入札額を提示しなければなりません。
また、市場には同じような商品やサービスが並び、次々と低価格・高品質な製品が誕生するため、短期間で成熟化へと陥ります。
新規顧客の獲得コストが増大し、難易度が高まる昨今の情勢下では、いかに既存顧客とのつながりを深め、顧客満足度やLTVを高めるかが重要です。そのためには、機能的価値だけでなく、情緒的価値や社会的価値を向上させ、自社に対するファンを増やす取り組みが求められます。
ファンマーケティングにおけるファンの定義
マーケティング活動におけるファンとは、企業が提供している価値を理解し、支持する人を指します。
人が何かを支持する際は、定量的・定性的な側面に分かれます。そのため、単に売上貢献度が高いだけでなく、感情や感覚的な側面も考慮することが重要です。ファンを定義する際は、次のような計算式を活用すると良いでしょう。
● 購買データ(購入金額や頻度など) × 顧客ロイヤルティ
購買データは定量的な情報なので、トラフィック解析などにより比較的容易に収集できます。
一方、定性情報にあたる顧客ロイヤルティを数値化するには、NPS(ネットプロモータースコア)という指標を活用するのがおすすめです。NPSを測定する際は、アンケート調査で「自社商品・サービスを他者に勧めたいか」と質問し、0~10点の間で数値化します。
ファンマーケティングとファンベースマーケティングの違い
ファンマーケティングとよく似た言葉として、ファンベースマーケティングがあります。
ファンベースマーケティングとは、既存顧客から得られる意見やフィードバックをもとにニーズを分析し、その結果をもとに製品開発やサービスの品質向上につなげる手法です。
VOC(顧客の声)を得る役割があるファンベースマーケティングに対し、ファンマーケティングは、主に既存顧客との関係構築が目的となります。VOCを取得してファンベースマーケティングにつなげるには、先に顧客との関係構築やファンの獲得といった手順が必要なので、まずはファンマーケティングから先に取り組む必要があります。
ファンマーケティングのメリット
ここでは、ファンマーケティングを行うメリットを3点紹介します。
中長期的な売上や利益の増大
新規顧客ではなく既存顧客を対象とするファンマーケティングは、価格競争に巻き込まれにくい特徴があります。自社に対するファンが増えるほど、安定的に買い支えてもらえるため、価格を下げる必要性が薄いためです。
また、既存顧客に対してアップセルやクロスセルを行うことで、LTVの向上に寄与します。ファンマーケティングによって既存顧客との関係性を強化すると、アップセルやクロスセルの成功率が高まります。
そのため、業績が安定しやすく、中長期的な売上や利益の向上が見込めるでしょう。
新規顧客を獲得する広告費の削減
新規顧客の獲得コストを軽減できるのもファンマーケティングのメリットです。
既存顧客のなかに熱量の高いファンがいると、口コミや紹介によって、新規顧客の獲得につながる可能性があります。仮に、ファンがSNSで自社商品・サービスの魅力を積極的にアピールしてくれたとすると、そのUGC(ユーザー生成コンテンツ)が広告塔になるため、広告費をかけずに集客できるということです。
また、企業が自発的に出稿する広告と、ファンが生成するUGCでは、ユーザーが感じる印象にも差が生まれます。企業が自社の商品やサービスを喧伝するより、本当にその企業が好きな信頼できる人から紹介を受けたほうが、信頼感や納得度が高まります。
商品・サービスへのフィードバックの獲得
自社の商品やサービスを長く愛用しているファンからフィードバックを受け取ることで、企業側がイメージしにくい顧客ニーズや、企業・ブランド・製品に対する印象などを把握できます。このようなVOCは、製品開発やサービスの品質向上につながるヒントになり得ます。
VOCを取得するには、ファンが気軽に意見を伝えられる環境整備が必要です。購買後の簡易的なアンケートやFAQサイト、独自のコミュニティサイトなどの施策が役立つでしょう。
ファンマーケティングの手法
ファンマーケティングの代表的な手法は、次の2種類に大別されます。
● 企業とファンの交流
● ファン同士の交流
それぞれの手法のなかには、さらに細かい施策や手段が存在します。まずは大まかに自社に合う手法を決め、そこから個別の施策や手段を検討すると良いでしょう。
企業とファンの交流
企業が既存顧客に向けて情報を発信し、顧客側が受動的にコンテンツを取得・視聴する方法です。
企業側が発信するコンテンツやタイミングを決められるため、柔軟性に優れるメリットがあります。ただし、情報発信が一方的になりやすく、リアルな顧客の意見や反応を取得するのが難しいのがデメリットです。
企業とファンが交流するには、次のような方法があります。
● SNSの投稿やDM、リプライなどの機能を用いてコミュニケーションを図る
● ライブ配信で商品やサービスを紹介しつつ、コメント機能で意見をもらう
● 既存顧客に向けてセールやキャンペーンなどのメールを配信する
● セミナーや勉強会などで企業の独自コンテンツを発信する
● サンプリング体験で既存顧客に新製品をアピールする
ファン同士の交流
企業が場を用意し、ファン同士の交流を図る方法です。
ファン同士で自身の好きなブランドや商品・サービスを語り合うことで、つながりや一体感が醸成されます。ファンの満足度をさらに高める効果があるため、売上や利益にも良い影響を与えるでしょう。一方で荒らしや炎上リスクへの対策が求められたり、コミュニティ運営能力を持つ人材が必要だったりと、いくつか注意点も存在します。
ファン同士の交流を図るには、次のような方法が効果的です。
● 交流会やファンミーティングで既存顧客同士の親睦を深める
● FAQフォーラムでユーザーの質問に対して別のユーザーに回答してもらう
● 企業が独自にファンコミュニティサイトを立ち上げ、交流の機会を提供する
● 外部のファンコミュニティサービスを活用する
ファンマーケティングの成功企業事例
ファンマーケティングの具体的な施策をイメージするには、成功企業の事例を参考にすると良いでしょう。ここでは、4社の取り組み事例を取り上げています。
事例①ワークマン
作業服や安全靴を提供するワークマンは、自社ブランドのファンによって構成される、公式アンバサダーの制度を採用しています。インフルエンサーマーケティングのように、公式アンバサダーによって、ワークマンの商品に関する情報提供を行うのが特徴です。
これにより、SNSを中心にUGCが形成され、ユーザーがさまざまな場所で同社の商品を目にする機会が生まれます。結果、ブランドや商品の認知度が高まり、広告費をかけずに新規顧客の獲得につながっています。
公式アンバサダーに参加しているのは、ファッションアナリストやジャーナリスト、YouTuberなどさまざまです。公式アンバサダーに登録することで、新製品発表会への参加やモニター体験などの恩恵が得られます。
事例②MAPPA
アニメーション制作会社のMAPPA(マッパ)は、新作をリリースする前からファンの創出に成功しています。そのために活用したのがクラウドファンディングです。
同社は「この世界の片隅に」という映画を公開するため、クラウドファンディングで支援を募集しました。プロデュース会社のジェンコや、映画監督である片渕氏の協力のもと、プロジェクトページに制作過程の詳細や、作品に対する熱い想いを掲載。その内容に共感を得た有志から、合計約3,900万円もの資金を拠出してもらうことに成功しています。
提供する価値を明確にすることで、ファン獲得に成功した好事例だといえるでしょう。
事例③スターバックス
商品・サービスに対する不満やフィードバックを顧客から直接聞きだすのも、ファンマーケティングの取り組みの一環です。
スターバックスは「My Starbucks Idea」というコミュニティサイトを立ち上げ、そのなかで顧客からの意見を募集しました。このコミュニティサイトは、誰でも気軽にスターバックスに関するアイデアを投稿できるのが特徴です。
公開2ヶ月で寄せられたアイデアの総数は4万件以上にのぼります。なかには同社が抱えている課題や問題点を指摘する声もありましたが、スターバックスはその内容を真摯に受け止め、製品内容やサービス品質の改善に取り組みます。いまでもスターバックスが数多くの人から愛されているのは、このような取り組みが功を奏しているからでしょう。
事例④ヤッホーブルーイング
クラフトビールメーカーのヤッホーブルーイングは、定期的にファンミーティングを開催しています。年末に忘年会感覚で参加できる「〆宴」が代表的です。
〆宴では、参加者同士で乾杯して語り合うだけでなく、「醸造所まる見えツアー」や「冬こそ美味しいビールの楽しみ方」など、参加者が楽しめる多数のイベントが用意されています。現地に出向く必要がなく、Web会議システムを使って簡単に参加できるのもポイントです。
また、ミーティング中には大抽選会が開催され、参加するだけで豪華な景品がもらえるチャンスがあります。参加者に対して多数のメリットを提供することは、コミュニティの集客効果を高める重要な要素です。
ファンマーケティングを成功に導く注意点
ファンマーケティングを実施する際は、いくつか注意点が存在します。次のようなポイントに配慮し、ファンマーケティングを成功につなげましょう。
● 最大効果とファンへの敬意を両立させる
● 企業の成長を促進する流れを作る
● ファン化までの時間や風通しを考える
● 炎上リスクを考慮する
最大効果とファンへの敬意を両立させる
ファンマーケティングを成功させるには、収益性とファンへの思いやりの2つの要素を、バランス良く両立させることが重要です。これらの一方の要素が欠けると、手間ばかりかかってROI(費用対効果)に見合わなかったり収益性を追い求めすぎてファンから見放されてしまったりといった事態に陥りかねません。
ファンマーケティングは、コミュニティを構築したり参加者を集めたりと、成果が現れるまでにある程度の時間がかかります。そのため、最初の頃は中長期的な収益性を見据え、ファンに対するサービス拡充に注力することが重要です。このようなファンマーケティングならではの性質を理解しておくと、上記2つの要素のバランスを取りやすくなるでしょう。
企業の成長を促進する流れを作る
ファンマーケティングは、コミュニティなどから得られるVOCを活用してこそ真の効果を発揮します。そのため、VOC収集・ニーズ分析・商品やサービスの改良といった一連のプロセスを、事前に想定しておくことが大切です。
たとえば、アンケート収集ツールや感情分析ツールなど、施策に必要なツールに目星を付けておくと良いでしょう。一連のプロセスを実行するに際して、担当者やスケジュール、具体的な手段などを可視化し、関係者全員で共有することも重要です。
企業側で適度に場をコントロールする
ファン同士でコミュニケーションを取り合う環境であっても、そのやり取りや会話の内容を野放しにしないよう注意が必要です。新規ユーザーに対する排他的な態度や、高圧的な接し方など、ファン同士のコミュニケーションがときにネガティブな方向へと進んでしまう可能性があるからです。
そのため、投稿内容を監視したうえで、誹謗中傷や差別的発言には厳しい態度で臨む必要があります。ガイドラインや投稿ルールを策定し、ユーザーが投稿しやすい雰囲気を醸成するのも効果的です。企業側で適度に場をコントロールすることで、単なる寄り合いではなく、目的に沿った施策へとつながります。
炎上リスクを考慮する
ファンは企業やブランドに対して大きな信頼や愛着を抱いているからこそ、それだけ期待値も高くなります。万一、期待にそぐわない出来事が起きてしまうと、一気に大きな失望が生まれ、炎上へと発展してしまう可能性も考えられます。
炎上対策としては、SNSやコミュニティサイトを運営する際のルールの策定や、炎上リスクを理解するための研修を実施し、従業員のリテラシーを強化する施策などが挙げられます。
それでも炎上リスクを完全になくすことはできないため、あわせて事後策も検討しましょう。なるべく素早く火種に気付けるよう、モニタリングツールの導入や体制整備を検討しておくのが効果的です。従業員向けの危機対応フローを構築するのも一案です。
まとめ
既存顧客を対象にするファンマーケティングを導入すると、新規顧客獲得のための広告費を削減できます。また、LTVをはじめとする中長期的な収益に結び付くのも利点です。ただし、いくつか注意点も存在するため、今回紹介した内容を参考に、まずは戦略策定や体制整備から進めていきましょう。
TOPPANは、「MINTSUKU(みんつく)」というファンコミュニティ構築プラットフォームを提供しています。
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2024.02.01