コラム

偽造防止技術活用の新アイデア!
独自性の高いデザインを実現できる
「アート彩紋®」とは?

  • TOPPAN株式会社
  • 情報コミュニケーション事業本部 情報メディア事業部

    クリエイティブ本部
  • 藏野 捺子

TOPPANのクリエイティブ部門でアートディレクターをされている藏野捺子さん。
今回は、藏野さんが開発に携わった独創的で新しいデザイン表現技術「アート彩紋®」について、開発の経緯や表現の独自性などを伺っていきます。


この記事は、以下のような方におすすめです。

1.偽造防止技術の原理はどうなっているのか改めて知りたい方
2.紙幣・商品券・金券・チケット以外での最新の利用シーン・アイデアが知りたい方
3.独自性のあるデザインに偽造防止技術をどのように生かせるのか知りたい方


「アート彩紋®」って一体なに?

■まずは、「アート彩紋®」について、どのようなものなのか教えてください。

藏野:「アート彩紋®」は、偽造防止のための特殊印刷技術を、より多くのデザインに使用できるよう再開発したものです。

技術的には、当社が金券や有価証券などの印刷物の偽造防止技術として培ってきた微細線による紋様表現やマイクロ文字といった微細製版技術を応用したもので、独特な奥行や濃淡、動きを感じられるグラフィックを創り出すことが可能です。

 

■偽造防止技術というと、どのような技術なのでしょうか?

藏野:偽造防止技術は、金券や有価証券などの印刷物の不正コピーなどを防止する技術です。ただ偽造防止技術とひと口にいっても、様々な種類があります。


【偽造防止を実現する2つの方法】

1)特殊な用紙を使う
偽造防止の単純な方法としては、特殊な用紙を使用することです。
偽造される際、最も定番の方法が「コピー機の利用」です。コピーしたときに文字や絵柄が浮き出る、色が変わるなど、本物との差が目に見て明らかになる用紙を使用することで偽造を防ぎます。

2)特殊な印刷・加工を行う
金券などの端の方にきらりと輝く印刷技術「ホログラム」がよく使われる方法です。
印刷したあとに、ホログラムシートを転写して製造されます。他にもツヤを表現するニス加工やデボス・エンボス加工(紙面に凹凸をつくる加工)などの方法があります。


例えば、金券やお札に施されているキラッと光る「ホログラム」や、光に透かしてみると模様が浮き上がる「透かし」といった技術。

その中で「アート彩紋®」では、微細線やマイクロ文字を用いた「紋様」のデザインを用いています。彩紋は、肉眼では確認できないほどの極小文字や、太さ0.1ミリメートル程度の細い直線・曲線からなる紋様表現を製版・印刷する手法です。

非常に小さな文字や線のため、一般的なコピー機で出力すると潰れてしまい再現できません。そのため、偽造防止の技術として使われています。

この技術を使い、独自の存在感のあるデザイン表現として、「アート彩紋®」を開発しました。


なぜ「アート彩紋®」の開発に至ったのか?

■「偽造防止技術」と「アート表現」は、一見関わりが薄いですが、どのような経緯で開発に至ったのでしょうか?

藏野:「今まで築き上げた偽造防止のための様々な技術を、これまでとは違う方法で活用できないか」と模索する社内の動きがありました。

近年は金券や有価証券の電子化が進み、昔からの彩紋の技術や伝統が失われつつあります。ですが、弊社は、創業当初からこれらの印刷に携わっています。社名の由来である「エルヘート凸版法」による印刷も、その美しさや偽造防止の観点から各方面で大きな反響を呼び、社業の基礎固めになったそうです。その技術が認められ、日本銀行券の印刷を担っていた時代もありました。そのような長い歴史の中で培った高い技術力と、専門性の高い職人がいるという強みを持っています。

今まで築き上げてきた独自技術を将来のために現代版としてアップデートできないか、と検討している中で、「アート」と「彩紋」をかけ合わせるアイデアが生まれました。

この2つは親和性が高く、クリエイティブで繊細な彩紋の装飾は、お札や金券に美しさというアート要素の付加価値をもたらしていたことに改めて気づいたのです。

「アート彩紋®」の独自性

■「アート彩紋®」はデザイン表現として、どのような特徴がありますか?

藏野:「アート彩紋®」のバリエーションに富んだデザイン表現は、大きく2つの特徴があります。

・紋様による独特の質感と存在感
まず「アート彩紋®」の特に優れている特徴は、独特の「質感」と「存在感」です。

太さ0.1ミリメートル程度の細い直線・曲線からなる紋様をデザインすることで、奥行や濃淡をもつ独特な「質感」を表現できます。また形状や波の数、滑らかさなどをコントロールし、「質感」を自由に調整できるのも特徴の一つです。

これらの紋様で、ロゴやオリジナルフォントなどをデザインすることで、他にはない圧倒的な「存在感」を表現します。

さらに、高い独自性も「存在感」を後押しします。彩紋は特殊なツールで作成されます。そのため、一般的なデザイン作成ソフトや手書きの文字では表現できない、オリジナリティの高いものが作れるのです。

・紋様に隠された遊び心の表現
「アート彩紋®」のもう一つの特徴は、特定の極小の図形やマイクロ文字を組み込んだ遊び心を刺激するギミックです。作品を遠目に見ると普通の絵柄ですが、近づいて見ると小さな文字が隠されている、隠しメッセージとして謎解きの答えが書かれているなど、見る人を楽しませる仕掛けを組み込めます。この仕掛けは、ファンに向けたイベントやプロモーションの話題作りにも活用できると考えています。

またマイクロ文字は、コンセプトに沿った「メッセージ性」の高い表現ができる特性もあります。入れる文字はもちろんのこと、字体や色も自由に設定できるため、表現したいブランドイメージや企画のコンセプトを、見ている人により印象深く伝えられます。

 

「アート彩紋®」導入事例

■「アート彩紋®」を活用した制作事例はありますか?

藏野:
・平成美容開花-平成から令和へ、美容の軌跡30年
ポーラ文化研究所様から2020年に発売された『平成美容開花-平成から令和へ、美容の軌跡30年』の表紙に、「アート彩紋®」をご採用いただきました。本書は、平成30年間の「美」のトレンドをまとめた貴重な書籍で、美容や化粧文化の歴史が丁寧にまとめられています。本書のキーワードである「30」の文字を「アート彩紋®」で表現しました。

CMYK4色で表現した虹色のグラデーションは、多様な「美」の有り方を表しています。

その上に、極細の白い線の集合で形成された「30」をふわりとのせました。
幾度となく線を編むように描かれた「アート彩紋®」は、30年の歴史を「紡ぐ」「紐解く」といったイメージにぴったりです。「30」の中には書籍タイトルである「Heisei Biyou Kaika」や「美白」「目ヂカラ」「盛る」など、平成の美のトレンドに欠かせないキーワードを盛り込んでいます。本は手元に残るもの。目を凝らしてみてやっと気づくギミックも、本への愛着を育むための仕掛けになると考えました。

細部まで美しくなめらかで流麗なデザインは、上質で良質な商品とサービスを提供し続けるポーラ様のブランドイメージにもリンクします。

「アート彩紋®」はどんな活用が考えられる?

■「アート彩紋®」はどういった用途に活用できますか?

藏野:プリントメディアからオンスクリーンメディアまで、実に様々な制作物に活用できると考えています。「アート彩紋®」のもつ 創造性は表現の幅を広げます。

・数字が大きな意味を持つ「周年」事業のアイコンとして
まず、周年事業のアイコンとしての活用が挙げられます。

「アート彩紋®」は、数字や文字の中に装飾を施すことが得意なので、周年事業のアイコンを印象的なものに見せられます。
周年事業のシンボリックなアイコンとして、あらゆるツールに活用が可能です。

また、業種業界にとらわれない幅広いご提案ができる可能性があると感じつつも、特に「美容」「金融」「エンタメ」「出版」などの業種・商材とは相性がいいのではないかと思っています。

流麗な表現や極細の線が「美」や「ファッション」に、偽造防止技術からくる堅牢性のイメージが「金融」に、隠し文字を使った遊び心が「エンタメ」や「出版」にそれぞれマッチします。これらの業界では特に活用していただけるのではないかと考えています。

・隠し文字のメッセージ性を活用した企画の一つとして
マイクロ文字を使った企画として、知育系のおもちゃへ隠し文字を施すという活用を考えています。例えば絵本への活用です。絵本に隠し文字を施し、セットで拡大できるルーペをつけます。ルーペを覗くと隠されていた文字が現れるといった仕掛けです。

 

■「アート彩紋®」の今後の展開を教えてください

藏野:「アート彩紋®」で装飾を施したA to Zや0~9までの文字をフォントとしてパッケージ販売ができないかと考えています。ブランド、または一つのキャンペーン施策等の世界観を構築する素材として使用していただくイメージです。

「アート彩紋®」はまだまだ開発したばかりの表現技術ですが幅広い可能性を秘めており、様々な業界のクリエイティブや企画のお手伝いができると考えています。

私たちも楽しみながら、いろいろなシーンで提案していきたいと思います。

2023.03.17