<DATA CAMP 2021>
組織横断のカスタマーエクスペリエンス戦略 ~新たな顧客体験と従業員体験の実現~
※所属企業名・部署名は2021年3月時点
登壇スピーカー: 株式会社セールスフォース・ドットコム マーケティング本部 プロダクトマーケティング シニアレプレゼンタティブ 大竹 絢子 氏 |
デジタル化の進展による顧客心理の変化と、企業に求められる顧客体験戦略のアップデート
現代は多くの情報を処理しながら生きていかなければならない時代です。そんな中、顧客及び従業員の方々に、適切なメッセージを適切なタイミングで届けることが、選ばれ続けるサービスにおいてとても重要になっています。かつては企業が情報提供者として優位な位置に立っていましたが、今はあふれる情報の中からユーザー自身が必要な情報を選択する時代に変わっています。
こうした情報過多のマーケットで、企業は新しいキャンペーンやアプリを介した決済情報、サービス履歴、マーケティングオファーなど、さまざまなメッセージを伝えるため、日々顧客と多種多様なコミュニケーションを行っています。この状況は以前からありましたが、コロナ禍で人々が外出を自粛し、窓口での対人サービスが利用できなくなったこともあり、企業からのメッセージ送信は従来の約6倍に増えたことが調査結果により明らかになっています。こうした環境下で初めてデジタルチャネルを利用する顧客が増えていますが、その顧客の75%は今後もデジタルチャネルを利用し続けたいとアンケートに回答しています。
企業への期待を調査した結果、約80%の顧客はプロダクトの品質より、認知から購買、サポートまでの顧客体験を重視していることが明らかになりました。その顧客体験として重視されているのは、スピーディーでシームレス(プロセスやシステムの一貫性)、かつパーソナライズドされた体験です。
なぜ、顧客体験の期待値がこれほどまでに高まったのでしょうか。その答えは、Google、Netflix、Amazonなど日々利用しているテクノロジー企業によるサービス体験を、顧客が他サービスにも無意識に求めてしまうからだと考えられます。小売企業向けに行った調査では、実に79%の顧客がAmazonと同等レベルのサービスを期待していると回答しています。しかし、大半の既存システムは、そうした顧客のニーズに応えることはできません。なぜなら既存システムは、システムがサイロ化されて顧客理解が断片化しており、社内からのアクセスを前提に構築されているため、スマートフォンや在宅からの利用に最適化されていない上、AIによるデータ分析もデータの整理から取りかからなければならない、極めて生産性が低い状態にあるためです。
次に、顧客満足度を向上させるCRMについてお話いたします。顧客満足には、「頭の満足」と「心の満足」の2つがあります。「頭の満足」とは価格や機能などカタログスペックを含む「企業から当然受けられるサービス」、一方の「心の満足」は接客や店舗の雰囲気など「企業から受けられればいいと感じるサービス」、つまりプラスアルファの要素です。これまでの企業は「頭の満足度」向上に注力してきましたが、これからは「心の満足度」に取り組まなくては顧客満足度を高められません。
「心の満足度」が高い、言い換えればロイヤリティが高い顧客とは、どのような顧客をいうのでしょうか。多くの企業は購入金額が多い「経済ロイヤリティ」で判断しがちですが、何度も足を運んでくれる、メール開封率が高いなどの「行動ロイヤリティ」や、同一ブランドを買い続けてくれる、人に勧めてくれるといった「心理ロイヤリティ」も、加味する必要があります。Salesforceでは、ECサイトの購入頻度やWebコンテンツの閲覧など、行動データを分析して施策を行い、顧客のロイヤリティを高めることを可能にします。
続いて、コロナ禍で加速する社内のDXについて考えてみましょう。コロナ禍で顧客との接点がデジタル化したことにより、従業員のデジタル環境がますます重要になりました。Salesforceが行った調査によると、カスタマーサポート部門の約75%はコロナ禍に対応するため、何らかのデジタル投資を行ったと回答しています。社内システムに求められるのは、Webサイトや店頭でやり取りした顧客の情報を一元管理し、シームレスな課題解決を実現し、顧客体験を高められる仕組みです。
Salesforceは、創業当初から提供しているSFAに加え、カスタマーサポート向けサービス、マーケティング、ECサイト、自社アプリケーションの構築基盤など、あらゆる顧客接点をカバーするソリューションを提供しています。Salesforceが提供する「Customer 360 Service」は、あらゆるサービスとのシームレスなデータ連携を実現し、顧客データを起点に複数の部署が連携した業務遂行を可能にする「人を中心に据えたサービスを実現する、世界No.1のプラットフォーム」です。
仮想企業を想定したService Cloud活用のケーススタディ
続いて、企業とお客さまをつなげる「Service Cloud」のケーススタディを紹介します。某化粧品販売メーカーは、初回購入した顧客の大半が契約を継続せず解約もしくは休眠顧客となってしまうこと、接客品質に問題がありロイヤルカスタマーを育成できないこと、オペレーターの離職率が高く雇用育成にコストが発生していること、という3つの課題を抱えていました。
SNSの口コミを参考に、同社の「ホワイトニングセット」を初回限定割引で購入した原田ともこ様(仮名)は、使用開始2週間後も効果を実感できませんでした。不安を感じていたタイミングで「ご相談はございませんか」とメールが届いたので、チャットで相談してみました。チャットから「お悩み相談」、「商品の使い方」を選択すると、購入した商品が一番上に表示されていました。これは購入商品を理解している「Einstein ボット」の機能により優先的に表示がされています。購入商品をクリックし「効果を促進する方法」に関する選択肢を選ぶと、テキストや動画コンテンツを使ったわかりやすい解説が表示されました。それでも悩みが解決されない場合、専門部署へチャットが転送されて対人対応に切り替わります。専門部署の担当者の画面には、原田さんが過去に購入した商品や問い合わせの内容まで網羅的に表示されています。チャットを引き継いだ担当者は、ナレッジ機能に検索をかけて顧客に適切なアドバイスを案内しました。原田さんは、ボットで悩みを伝えただけで、即座に期待していた以上の回答を得ることができ、その対応に満足しました。こうして初回購入のみで離脱する可能性のあった顧客を、デジタルのおもてなしによりロイヤルカスタマーへ変化させ、解約率を低下させることができたのです。
先ほどのケーススタディで契約を継続した原田さんの顧客ステータスがゴールドランクに到達したと仮定し、その後さらにロイヤリティを向上させるためのシナリオをご紹介します。
原田さんは、次に購入すべき商品がわからず、自分に合ったものを教えてもらうため窓口に電話をかけました。コールセンターのオペレータ画面には、着信と同時に顧客情報がポップアップで表示され、Service Cloudの360ビューコンソールに、すべての情報が一覧表示されます。さらに、Salesforceに組み込まれたAI「Einstein」が、過去のデータから原田さんと同じゴールドランクかつ属性がファンの顧客が購入する確度の高い製品が提案され、売上げに貢献するための推奨アクションが自動的に表示されます。これにより、オフラインへ誘導して顧客エンゲージメントを高めるイベント施策を表示、Salesforceで管理していた場合には招待可能な残席数などをリアルタイムに表示が可能です。
Service Cloudを中心としたSalesforce製品を用いることで、顧客に寄り添ったプロアクティブなサポートを行い、解約危機にあった顧客をロイヤルカスタマーへと育む一連の流れを、ケーススタディに基づきご紹介させていただきました。
BtoBとBtoC企業におけるSalesforceの導入事例と効果
次に国内外のBtoBとBtoCそれぞれの企業における導入事例を紹介します。
1つ目は、国内金融系情報システム会社様です。こちらは、主力事業のひとつにデータ連携基盤のHULFTを提供しており、クライアント企業からシステムに関する複雑かつ緊急性の高い問い合わせを日々受け付けています。同社では、複数のシステムにまたがるデータのコピー&ペーストが必要で業務負荷が高かったことと、営業や開発部門とシステム連携ができていないことが導入前の課題でした。Salesforceを導入したことで、複数のシステムを連携させて対応時間を従来の3分の1に短縮し、70%台だった1次回答の回答率を90%まで高める導入効果が上がりました。
次は、食材と調味料のミールキットを販売しているアメリカのEC企業様です。同社は、COVID-19感染症拡大で在宅顧客の需要が増大し、問い合わせ件数が50%増になったことと、ロックダウン下で在宅勤務へ移行した社員のテレワーク環境の充実が課題でした。その解決策として、Service Cloudを導入した結果、「Einstein ボット」と公開FAQサイトの活用により、顧客の自己解決スコアを90%以上も高めるとともに、eNPスコア(従業員の寄与のロイヤリティ)も、4ポイントから59ポイントまで大きく改善することができました。
最後に本日の講演のポイントを3点、振り返りたいと思います。
1点目は、顧客のロイヤリティ醸成において、デジタルチャネルへの対応が求められていること。
2点目は、非対面は時間や場所の制約がなくなり、顧客も情報へのアクセスが容易になること。
3点目は、企業側は非対面での顧客接点の強化、スピーディかつ一貫性のある対応を継続的に実現し、顧客体験、及び、従業員体験を高め続けることが求められていることです。
【参考】
2021.12.03