デジタルマーケティングを成功に導く
意識・接点・組織の3つの改革とは?
- コミュニケーションデザイン本部
- 兼 エンゲージメントサービス本部 本部長
- 梅川 健児
近年、企業のマーケティング活動は、「もっと、デジタルを活用しよう」との声がますます大きくなっています。お得意先様と商談させていただく際、マーケティング担当者様から、自社の取り組みについて、お話をお聞かせていただく機会があるのですが、みなさん一様に、「顧客接点のデジタル化を推進している。だが、しかし…」とおっしゃることが多いように思います。本コラムでは、そのあたりの実情について、お話させていただきたいと思います。
※所属企業名・部署名は2021年9月時点
顧客接点のデジタル化を推進してはいるものの、PDCAが回らない‥
2017年1月に富士通総研さまが発表された「デジタル化への認識とデジタルマーケティングの実態調査」をご覧になられた方もいらっしゃるかと存じますが、そのデータによると、全体で約半数近い(47.4%)の企業が、マーケティングのデジタル化をかなり意識しているとのこと。もちろん、業種によってその温度差はあります。BtoCの小売・外食業では、約7割(69.7 %)もの企業がデジタルマーケティングへの取り組み意識が高い半面、BtoB商社・卸業は3割にも満たない(25.2%)状態です(図1)。
しかし、デジタルマーケティングに取り組んでも、成果が出にくいというのが実情のようです。同じ調査によると、成果を上げられていると答えた企業はわずか37%。その理由として、図2のように「顧客データが統合されていない」「分析できるようにデータが整備されていない」「実績に基づいてPDCAを回していない」ということが挙げられていますが、デジタルマーケティングの成果が上げられた企業とそうでない企業で最も差がでるのは、「実績に基づいてPDCAを回していない」ということのようです
実際弊社の事例でも、「PDCAが回せない‥」というお得意先からのご相談をよくいただきます。そこでこのコラムでは、うまくPDCAを回していくための3つの改革のポイント(意識改革、接点改革、組織改革)をご紹介しましょう。
ポイント1:意識改革
データ重視から、シナリオ重視への転換を図る。
これまでのマーケティングは、過去のデータを徹底的に分析。顧客をグルーピングし、それぞれに最適と思われるコミュニケーションを発信するという「静的」なやり方が王道でした。デジタル社会になると、スマートフォンやIoTを通じて、ユーザーのアクセス情報や位置情報など「顧客の今の行動」がリアルタイムに手に入ります。あらかじめ用意しておいたたくさんの発信情報を、顧客の「今の行動」をみながら、出し分けたり組み合わせたりして、顧客にアプローチし、顧客の反応を見ながら、情報内容やタイミング、回数‥などを複眼的な視点でチューニングしていくという「動的」なやり方に変わってきています。
これまでは、どういうデータを持っているかが重要であり、その分析手法にも注目が集まっていましたが、現在はそれだけでは不十分です。自社が手にしている限られたデータから、どんな情報をどのように発信できそうかという「シナリオ開発力」がデジタルマーケティングの成果の勝敗のカギを握っています。デジタル社会では、マーケティング施策を実行した結果がデータとして次々に返ってきますので、そういった顧客の反応を分析し、新たな戦略やシナリオをつくるといったPDCAが求められます。これまでのようなデータを貯め、分析することに重きを置いている経営者やマーケターの方は、データからどんなシナリオが描けるか?というところに意識を変えていく必要があります。
ポイント2:接点改革
顧客接点のデジタル化も同時に推進。
昨年末に、某ファーストフードチェーンに長い待ち行列ができ話題になりました。携帯キャリアが無料のクーポンを発行して店舗に送客したためです。そのチェーンは決済をデジタル化していたことで、送客されたスマートフォンユーザーの電子クーポンを受け取ることができたのです。
あらゆる顧客接点をデジタル化することで、顧客接点がつながり、顧客からの反応を“データ”として受け取ることができます。さらに、リアルやWebなどの媒体にとらわれずに商品・サービスの内容や目的に応じて、販促施策の組み合わせも立案・活用できるのも大きなメリットでしょう。
たとえば、TOPPANが提供している「電子マネーASPサービス」や電子チラシサービスの「shufoo!」も顧客接点をデジタル化したサービスです。小銭をスマートフォンの電子マネーとして置き換えることができると、顧客のリアル店舗での購入情報やクーポン、ポイントプログラムの利用状況がわかり、それに合わせたチラシ情報の提供、ECサイトでのおすすめ商品情報の提供などがサービスを導入することでできるようになります。このように顧客接点をWebだけ、アプリだけに限定することなく、デジタル活用で広く結び付けていくと、改善の打ち手がどんどん広がってきます。これこそ、顧客接点におけるデジタル化の成果です。こうした接点のデジタル化には、初期・運用コストがかかりますが、数値で結果が見える分、投資計画をつくりやすいというメリットもあります。何にどのくらいコストをかければ、どんな改善施策ができそうか?デジタル、リアルを問わず、顧客視点で、全ての接点を洗い出してみることが、成功への近道だと思います。
ポイント3:組織改革
外部スタッフとの連携がしやすい組織づくり。
最後はそれを実行するための社内組織の改革です。デジタル接点の構築やその運用体制の構築コストを、企業の1部門や1事業部で回収することは困難です。多くの企業は、部門を横断したデジタルセンターを構築し、各部門を支援することで、全社的なデジタルマーケティングを実施できる体制へ移行しようとしています。自社の各部門と連携し、PDCA運用することこそがデジタルセンターのミッション。そこに求められる人材は多岐に渡り、分析、制作、メディア、システムなどの専門家を集めて組織化されることが多いようです。
問題は、選抜されたメンバーとはいえ、全員がはじめての取り組みであること。高度で複雑化した運用は、品質維持が大変なことです。それが故に、課題として認識されているものの、デジタルセンターの立ち上げに二の足を踏む企業もいらっしゃるほどです。チームで足りない専門性や、自社組織内では人材育成が難しい領域については、優秀な運用パートナーに任せることで、立ち上げをスムーズに推進できます。フルアウトソースではなく、今後コアとなる重要なプロセスは内製化し、それ以外の定常プロセスはアウトソースするなど、任せ方はいろいろですが、最初から柔軟に外部と組んでいくという意識が重要です。
【参考】
2023.06.01