コラム

空中ディスプレイの原理と特徴

空中ディスプレイは、空中に映像を生成し、この空中映像を操作パネルとして利用できるデバイスです。空中映像によりデバイス本体に触れることなく操作を行えます。スクリーンや特殊なメガネ等が不要で立体的な映像が目で見えるといったメリットもあり、さまざまな業界で大きく注目を集めています。

非接触操作であることから、高いレベルの衛生管理が求められる医療現場や食品・医薬品の工場において、既存のタッチパネルを空中ディスプレイに置き換えることで衛生レベルの維持と感染予防に活用できます。

また油や薬品などで汚れた手で作業することで操作盤を汚損・破損してしまう恐れのある製造現場、更に粉塵・オイルミスト環境など、操作盤をガラスやアクリル板などの透明な仕切り板で囲う必要がある特殊な環境においても、仕切りを通して空中映像の操作盤が生成できる空中ディスプレイは有効な装置となります。

本記事では、空中映像技術の原理、およびTOPPANの空中ディスプレイ「La⁺ touch™」(ラプラスタッチ)の特長について解説します。


目次
1. 空中映像技術(先行4方式の解説)
 1-1. 2面直交リフレクタアレイ方式
 1-2. 2面コーナーリフレクタ方式
 1-3. 3面リフレクタ(再帰反射)方式
 1-4. マイクロレンズ方式
 1-5. 先行4方式の長所と短所のまとめ

2. TOPPAN空中ディスプレイ「La⁺ touch™」について
 2-1. TOPPAN空中ディスプレイ「La⁺ touch™」の特長
  2-1-1. 小型化(薄型化)
  2-1-2. 広視野角
  2-1-3. 高品質な空中映像
 2-2. センサ素子

3. 先行方式の空中ディスプレイに対する「La⁺ touch™」の特長まとめ

4. 空中ディスプレイ「La⁺ touch ™ 」の導入シーン

5. まとめ

1. 空中映像技術の原理

空中映像の手法には「2面直交リフレクタ方式」、「2面コーナーリフレクタ方式」、「再帰反射方式」、「マイクロレンズ方式」の4方式があります。本項目では、これらの先行する4方式について説明します。

1-1. 2面直交リフレクタ方式

【原理】
2面直交リフレクタ方式は、2枚のスリットミラーを直交させた「2面直交リフレクタ」をアレイ状に配置した光学素子「2面直交リフレクタアレイ」を 用いるものです。
本方式は、表示素子から出射される光は光学素子に対して斜めの方向より入射されます。
入射した光は直交リフレクタに2回反射して出射されます。
出射される光は光学素子に対して180°反転した方向になります。
このことから表示素子から出た光は、光学素子に対して面対称な位置に空中映像を表示することができます。

【特徴】
〇長所
・レンズのような焦点距離がなく収差や歪みも生じないため、空中映像を生成するシステム設計が比較的容易です。

〇短所
・直交リフレクタでの反射が2回以外(1回、3回)の光は迷光となり、ゴースト像(虚像)が発生するため、空中映像の視認性が下がるという課題があります。
・2面直交リフレクタは微細なミラーアレイで構成される素子であるため、微細成形技術が必要です。その技術的難易度は高く、その構造から後述の2面コーナーリフレクタと比較するとコストも高価となる問題があります。

1-2. 2面コーナーリフレクタ方式

2面コーナーリフレクタ方式は、キューブ状の「2面コーナーリフレクタ」をアレイ状に配置した光学素子「2面コーナーリフレクタアレイ」を用いるものです。
構造および光の挙動は2面直交リフレクタアレイ方式と同様です。
このことから、2面直交リフレクタ方式と同様、表示素子から出た光は光学素子に対して面対称な位置に実像である空中映像を表示できます。

【特徴】
〇長所
・2面直交リフレクタ同様、レンズのような焦点距離がなく収差や歪みが生じないため、空中映像を形成するためのシステム設計は比較的容易です。
・2面直交リフレクタに比べると2面コーナーリフレクタは技術的難度が低いため、2面直交リフレクタ方式よりも量産性とコスト面では優れます。

〇短所
・2面直交リフレクタ方式と同様、2面コーナーリフレクタでの反射が2回以外(1回、3回)の光は迷光となり、ゴースト像(虚像)が発生するため、空中映像の視認性が下がるという課題があります。
・2回反射する光の角度から、空中映像が表示される視野角が狭いという課題もあります。

1-3. 3面リフレクタ(再帰反射)方式

【原理】
3面リフレクタ(再帰反射)方式は再帰反射素子とビームスプリッタで構成されます。
表示素子からの光を、ハーフミラーや偏光素子などのビームスプリッタと再帰反射素子で反射させるものです。その反射光はビームスプリッタに対して面対称な位置に実像である空中映像を表示します。

【特徴】
〇長所
・空中映像が認識される視野角が広くレンズのように焦点距離をもつものではないため、空中映像を生成するためのシステム設計は容易であり、空中結像方式の中では比較的安価で実現可能です。

〇短所
・ビームスプリッタで2回反射されることから明るさに課題があります。
 例えば、ハーフミラーの透過率を50%とすると、空中映像の輝度は表示素子の表示像の輝度に対して25%程度の輝度となります。
・空中映像の観察方向はビームスプリッタ面に対して斜め方向からであるのでシステムとしては大掛かりになる傾向があります。

1-4. マイクロレンズ方式

【原理】
マイクロレンズ方式は多数の微小レンズを同一平面上にアレイ状に配置したマイクロレンズアレイを用いて、空中映像を形成する方式です。表示素子から出射された光線は微小なレンズアレイにより集光され、空間に実像として結像されます。空中映像は、光学素子面に対して正面方向から観察されます(光学素子面に対して平行表示します)。

【特徴】
〇長所
・輝度が高い。
・コスト面では、比較的安価で実現可能です。
・システムは比較的コンパクトにできる。

〇短所
・マイクロレンズアレイに入射する光線は、焦点距離の制約やレンズの 開口数(NA) の制限から空中映像が表示される視野角は狭いという課題があります。
・レンズを使用するため焦点距離の制約があり、空中映像を生成するためのシステム設計は、表示素子とマイクロレンズの距離等に留意する必要があります。

1-5. 先行4方式の長所と短所のまとめ

・システムが大掛かり(既存タッチパネルから置き換えが難しい)。
・ゴーストの発生(空中映像の視認性が低い)。
・視野角が狭い(利用者の身長によっては空中映像が見にくい場合がある)。
・空中映像の輝度が低い(空中映像が見えにくい)。
→上記の空中ディスプレイの課題をクリアする方式の開発をTOPPANは目指しました。

2. TOPPANの空中ディスプレイ「La⁺touch™」について

2-1. TOPPAN空中ディスプレイ「La⁺ touch™」の特長

本項目では、先行技術4方式に対するTOPPANの空中ディスプレイ「La⁺ touch™」の特長について解説します。

2-1-1. 小型化(薄型化)

La⁺ touch™は、設置の省スペース化を実現しています。
La⁺ touch™は、空中映像を正面方向(法線方向)から認識できるという特性を持っています。

「La⁺ touch™の概略図」にLa⁺ touch™の光学系を示します。表示素子と光学素子は一定の間隔で平行に配置されています。

表示素子に表示される映像は、光学素子を介して光学素子(及び表示素子)の上面(ここでは法線方向)に平行な位置に空中映像として表示されます。すなわち、一般的な表示装置と同様に正面方向から表示像を認識可能です。

また、表示素子からの空中映像の表示距離は表示素子と光学素子の配置間隔の設計により調整可能です。
現行のモデルを例に説明します。
「レイアウト模式図」は、各要素(表示素子、光学素子、空中映像)のレイアウトを示したものです。
表示素子~光学素子間を距離a、光学素子~空中映像間を距離bとすると、
     a:b = 1:1.5   
の配置関係を実現しています。
これらの特性を示すレイアウトにより、空中映像生成距離を確保しつつ従来にない小型パッケージングを可能としています。(図「先行方式の他社品とLa⁺ touch™のサイズ比較」)

この小型化により、既存操作パネルから置き換えしやすくなります。

2-1-2. 広視野角

La⁺ touch™は、一軸方向(ここでは垂直方向)の視野角が広い特性を有しています。

コンビニエンスストアのセルフレジなどのような幅広い年齢の人々が利用する入力端末等では、
利用者の身長差による視点の高さの違いを考慮する必要があります。

図「配光分布(左:水平方向、右:垂直方向)」は、空中映像を生成する光の水平方向、垂直方向のプロファイルです。
空中映像が表示される視野角は、水平方向±30°、垂直方向±60°を確保しています。
これらの特性により、特に垂直方向については、利用者の身長差によらず快適な表示を提供できます。(図「視点の高さと視野角の関係」)

2-1-3. 高品質な空中映像

La⁺ touch™はゴースト像を生成する光成分を減少させつつ、空中映像生成光成分を増加させる光学設計となっています。(図「La⁺ touch™の光学設計のポイント」)

先行方式とTOPPAN方式の光学系の比較を図「 光学系の改善ポイント」に示します。
表示素子は特別な光源などを備えたものではなく、一般的な液晶ディスプレイモジュール等の表示素子を使用しています。
光学素子により制御される光の利用効率は高く、高輝度、低消費電力化が狙えます。
光学素子の製造技術面でも比較的難易度は高くはないため、大型化も狙うことが可能です。

光学素子の光制御機能の最適化により、空中映像は表示素子の映像と遜色ない精細度での表示を実現しています。(図「ゴースト像の比較」、「輝度、精細さの比較」)

2-2. センサ素子

非接触センサ素子は、光学方式、静電容量方式、超音波方式の3つの方式があります。
現状のLa⁺ touch™では、省スペースで実装可能な光学方式の一方式であるTOF方式距離センサを採用しています。

TOF方式距離センサの要素部は、光学部(赤外線発光素子、検出素子)、コントローラ部からなります。
TOF方式測距センサは、光の飛行時間に基づいて距離を計測します。図「 TOF(Time Of Flight)方式原理」にその基本的な原理を示します。光の速度は一定であるため、TOFセンサモジュールに搭載したレーザ等の光源で測距対象物に照射した光が、対象物に反射して戻ってくるまでの時間差を計測することで、「距離=速度×時間」の単純な計算から距離を取得することができます。(ただし、光が往復するので、1/2にする必要がある)

これらの光学要素を複数ライン状に整列配置したセンサをコントローラで制御します。
このライン状センサは、複数の素子で検出されたデータを組み合わせることで2次元平面上の位置、速度、サイズなどを正確に低遅延で検出することができます。例えば、ボタン入力等の操作であればTOF方式で充分であると考えられます。一般的な接触型タッチパネルと遜色のない操作性を実現しています。

・センサの選択
TOPPANの光学方式は、多方式のセンサと高い親和性を有します。
La⁺ touch™は、先に述べた通り、表示素子、光学素子、空中映像が並行で配置され、一般的なディスプレイと同様のレイアウトをとります。
このため、透過型の静電容量式非接触型センサもLa⁺ touch™表示面側に実装してセンシング可能です。
使用目的や表示サイズにより最適な非接触センサを選択することができます。図「各種非接触センサの特徴」に非接触センサの種類を示します。

3. 先行方式の空中ディスプレイに対するLa⁺ touch™の特長まとめ

✓世界初!独自開発の光学系が実現する平行表示、薄型化
 ⇒ 平行表示により、既存のディスプレイと同じ感覚で利用可能。
 ⇒ 薄型化により、筐体デザインによらず既存品からの置き換えも容易で自由度が高い。

✓30度以上の広い上下視野角
 ⇒ 身長の高い人から子どもまで幅広い層が快適に空中映像を視認可能。

✓独自開発の光学技術に支えられた映像品質
 ⇒ 『高輝度』『高精細』『ゴースト像の抑制』により鮮明な空中映像体験を提供。
 ⇒ 独自開発の映像結像プレートが高い光源利用効率を実現! 従来方式と比較し、約50%の低消費電力化。

4. 空中ディスプレイ「La⁺ touch ™ 」の導入シーン

空中ディスプレイは製造現場や飲食店などさまざまなシーンで実際に活用されています。
タッチパネルなど既存の操作端末を空中ディスプレイに置き換えられることも多く、手術室内等の衛生レベルを維持する為に医療現場へ導入されることもあります。
また、感染予防の為に多くの患者が触れる受付の操作端末を空中ディスプレイに置き換えるケースもあります。

5. まとめ

本コラムでは空中ディスプレイの原理と特徴について紹介いたしました。
La⁺ touch ™ をご検討いただける企業様は下記よりカタログをダウンロードいただくか、お問い合わせフォームよりご相談ください。

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2024.04.03

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