英文開示義務化に向けた課題と
機械翻訳活用のポイント
2025年4月から、東京証券取引所プライム市場の上場企業に対し、決算短信や有価証券報告書などの主要情報を英文でも同時開示することが義務付けられました。
ただ、企業側には「体制整備」や「翻訳対応」といった実務面での課題も多く、特に翻訳業務の負荷増大や専門人材の確保が大きなテーマとなっています。こうした背景がある中、実務対応の一手として「機械翻訳の有効活用」が注目されています。
本コラムでは英文開示義務化に向けた各企業の課題、英文開示対応としての機械翻訳の有効性・活用のコツをご紹介します。
また、開示資料翻訳に適切なソリューション、TOPPANの適時開示情報特化型翻訳サービス「FinTra®」概要もご紹介しますので、ぜひ最後までご覧ください。
英文開示義務化に向けた主な課題
英文開示の義務化は、企業のIR活動における透明性と国際的な競争力を高める重要な取り組みです。一方で、現場レベルでは「リソース不足」「翻訳精度」「期日対応」など、様々な課題があります。

課題①:専門対応部署設置の難しさ
英文開示対応を組織的に担う、専門部署の新設は容易ではありません。英文開示対応を行う現場では、IR、経理、法務の担当者が翻訳業務を兼任するケースがほとんどで、結果として人的・時間的負荷が急増しています。
東京証券取引所は「英文開示実践ハンドブック」の中で、専任人材の確保・育成が不可欠であると明示しています。しかし、実際にはネイティブレベルの英語力を持つ人材の採用は難しく、社内翻訳体制の構築に時間とコストがかかっているのが現実です。
課題②:翻訳業務の集中
決算や四半期報告が重なる時期には、開示資料の翻訳業務が一気に集中し、社内対応でも外注でも処理が追いつかない状況が発生しがちです。日本語の原稿が開示直前まで確定しないことも多く、英語版との「同時開示」が間に合わないケースも少なくありません。
東京証券取引所は、英文開示について「日本語と同時、もしくは迅速に行うこと」を求めていますが、これを人手中心の翻訳体制で実現するのは非常に困難です。翻訳会社に依頼する場合も、繁忙期には納期対応が厳しく、品質のばらつきや校正負担が生じやすいという課題も否めません。
また、英文開示資料は財務や法務など高度な専門性が必要であり、単なる英語力ではなく、専門的な知識をもとに訳す力が求められます。
こうした実務上の制約を乗り越えるためには、機械翻訳を使って初稿を素早く作成し、そのあとに専門スタッフが確認・修正を行う「ハイブリッド型」の対応がおすすめです。
課題③:非プライム上場企業での対応の難しさ
現在のところ英文開示義務化は、プライム市場の上場企業に限られています。ただ、資本市場の国際化という流れの中で、スタンダード市場やグロース市場においても、英文開示は奨励されていくでしょう。
しかし、非プライム企業では、IR体制そのものが簡素である場合も多く、英文開示対応の優先順位が低くなりがちです。英文での情報開示が不十分な場合、海外投資家との接点が限られ、資金調達や株式流動性において不利になるリスクもあります。
東京証券取引所では、JPX English Disclosure GATEを通じて、全市場企業に向けた開示事例や翻訳支援コンテンツを提供しています。しかしながら、限られた公式ソースだけで英文開示に完全対応することは難しく、企業独自の体制づくりや専用ツールの導入などが必要になってくるでしょう。非プライム企業こそ、翻訳コストと品質を両立できる手段として、機械翻訳の導入がおすすめといえます。
機械翻訳活用のポイント
作業の時間や誤訳リスクを減らし、効率よく英文開示を進めることは、企業にとって重要な課題です。その点、機械翻訳の技術は大きく進化しており、「早さ、正確さ、安全性」といった点で、IRの現場でも十分に活用できるレベルに達しています。人的リソースに依存せず、機械翻訳を効率的に活用する4つのポイントについても見ていきましょう。

訳質とスピードの両立
英文開示では、翻訳文の品質を担保しつつ、決算発表などの限られた時間内に開示を完了させなければいけません。しかし、原稿の遅れや人的リソースの制約がある中で、訳文の精度と納期対応を両立させるのは容易ではないでしょう。
特に、情報を提供する企業側は「品質を優先したい」という意向があるのに対し、海外投資家は「スピードを重視する」というギャップにも留意する必要があります。
こうした状況において、機械翻訳は有力な解決手段として注目されています。訳出レベルを一定基準まで機械翻訳で引き上げたうえで、専門人材が仕上げを担うことで、高度な訳質レベルとスピードの両立が可能です。特に「金融」や「法務」など、誤訳が許されない分野において、高精度かつ素早い翻訳が可能な機械翻訳ツールを使えば、「社内完結で即時対応できる体制を構築したい」という企業ニーズにも対応できるでしょう。
専門性
開示資料の翻訳においては、金融・会計・法務などの専門用語や表現に対する精緻な対応が求められます。汎用翻訳エンジンでは誤訳が生じやすいため、金融専門翻訳エンジンや適時開示翻訳エンジンなどの「特定の分野に特化した高精度翻訳エンジン」の採用が不可欠です。
英文開示文書の翻訳では、単なる語句の変換ではなく、金融商品取引法、会社法、日本基準(J-GAAP)IFRSや米国基準(US GAAP)などを踏まえた高度な専門性が求められます。特に決算短信、有価証券報告書、適時開示資料においては、会計・財務・法務関連の定型表現や、業界特有の用語を正確に英訳しなければいけません。
高精度翻訳エンジンでは、開示資料に頻出する定型構文や企業特有の用語集にも対応可能で、翻訳の一貫性やトーン&マナーの統一も可能です。さらに、制度改正や開示書式の更新にあわせ、モデルを継続的にアップデートする仕組みが整っていれば、最新の法制度に準拠した正確な翻訳対応もできるでしょう。
例えばTOPPANの金融専門高精度翻訳エンジン「FinTra®」は、汎用的な翻訳エンジンと比較し下記のように翻訳精度の差が見られます。
■汎用エンジンと高精度翻訳エンジンの比較 ※「FinTra®」の場合
項目 |
汎用エンジン |
高精度翻訳エンジン (例:「FinTra®」) |
特 徴 | 幅広い分野の文章に対応 |
金融や法務など専門分野に対応 |
学習データ | 一般的な文書・会話・技術文書など多様な言語データ |
金融庁、業界団体、JPXなどから収集した公式データ |
翻訳精度 (BLEUスコア) |
約35.72(日本語→英語) | 約53.99(日本語→英語) |
品質評価 (Pランク割合) |
約20% (専門翻訳者相当の品質) | 約50% (専門翻訳者相当の品質) |
誤訳率 (Xランク) |
比較的多い | 半減(汎用に比べ大幅に低減) |
用途/活用例 |
一般企業の社内翻訳・簡易用途 日常会話、Eメール、社内資料 など |
上場企業の開示文書、法定開示資料、専門性の高い翻訳が求められる業務全般 適時開示書類、決算短信、有価証券報告書、金融法務関連文書 |
セキュリティ
英文開示に機械翻訳を使う際に最も注意すべきなのが「情報漏えいリスク」です。未発表の決算情報や重要な経営データは、株価に影響を与える可能性があるため、外部に漏れるとインサイダー取引や信用失墜につながりかねません。
そのため、翻訳システムには通常の業務ソフト以上の強固なセキュリティ対策が求められます。基本的な要件としては、以下のような機能が必須です。
●ID・パスワードによるログイン制限
●IPアドレスや端末のアクセス制限
●通信データの暗号化(SSL/TLS)
●翻訳後データの自動消去(例:数時間〜翌日中)
機械翻訳と人手のバランス
英文開示を効率的かつ正確に行うためには、機械翻訳のスピードと人手によるチェックを組み合わせた「ハイブリッド運用」が最適です。決算発表や適時開示のように時間が限られる場面では、まず機械翻訳で原稿を素早く訳し、その後に社内のIR担当者や翻訳者がレビュー・修正を行うことで、全体の作業時間を大幅に短縮できます。
訳文の確認には「逆翻訳」も有効です。これは、訳された英語を再び日本語に戻して、もとの内容と一致しているかをチェックする方法で、誤訳の発見や意味のズレを確認できます。
このように、英文開示では機械翻訳をうまく活かしながら、人手による補正で品質を担保することが欠かせません。
高度な翻訳×処理スピード×セキュリティを求めるなら「FinTra®」
翻訳の精度と対応の素早さが求められる英文開示義務化において、外部委託はどうしても時間がかかるうえ情報漏えい等のリスクも考えられます。とはいえ一般的なAI翻訳ツールでは、翻訳精度、特にIR関連の専門用語が正確に翻訳されるかが不安要素です。
そのようなご担当者様には、ぜひ一度、TOPPANの適時開示情報特化型翻訳サービス「FinTra®」をご検討いただければと思います。
TOPPANは、金融分野の文書翻訳に特化した高精度自動テキスト翻訳システム「FinTra®」を2022年11月より提供しており、公共機関、企業等における金融文書の英訳、和訳に広く利用されています。
適時開示情報特化型翻訳サービス「FinTra®」は、従来の「FinTra®」の機能に追加する形で、大量の翻訳データのAI学習効果により決算情報および適時開示情報の翻訳精度を飛躍的に高めた翻訳エンジンを追加しました。
この翻訳システムを活用することで、英文開示が義務化されたプライム市場へ上場している企業のみならず、東証グロース市場又は東証スタンダード市場に上場している企業の英文化対応を支援します。
「FinTra®」の翻訳モデルは、国立研究開発法人情報通信研究機構が構築しており、日本国内サーバー運用で安心できる高精度AI翻訳システムです。さらに、JPXの開示文書を用いた機械学習により、BLEUスコアやPランクといった品質指標も高水準を記録。A4用紙1ページ相当を約30秒で翻訳できる処理スピードも備え、実務の即戦力として期待されています。

AI翻訳システム(金融専門モデル)の決算短信等に関する翻訳精度向上の成果報告書より
また、「FinTra®」は、機密情報を扱う金融機関などでも安心して使えるよう、以下のような高度なセキュリティ機能を備えています。
●国内サーバーのみで運用:翻訳処理はすべて日本国内のデータセンターで完結し、国外への情報流出リスクを排除
●データ非保持設計:テキストは翻訳完了後すぐに消去し、ファイルは翌日23時に自動削除
●厳格なアクセス管理:ID・パスワード、グローバルIP制限、2要素認証など多層防御を導入
●セキュリティ重視のシステム構成:システム設計段階から「情報保護」を最優先にして構築
これらの仕組みにより「FinTra®」は官公庁や金融機関、上場企業でも導入が進んでおり、翻訳精度だけでなく「安全性が担保された翻訳環境」として、高い評価を得ています。
最後に
機械翻訳の能力はTOEIC900点レベルに達し、その活用範囲は大きく広がっています。生成AIを適切に業務で活用するように、機械翻訳も適切に利用することで、開示文書のスピーディーな英文化に寄与することができます。
金融分野の翻訳に特化し、さらに開示文書の翻訳により特化された翻訳システム「FinTra®」は、「専門性・速度・安全性を兼ね備えた翻訳ツール」です。ぜひ一度、その効果をお試しください。
2025.07.30