PHR(パーソナルヘルスレコード)とは?
管理システムの導入メリットや課題を紹介
医療分野でのデジタル化やデータ活用が急速に進む中、病院や検査機関が持つ診察・検査データや個人の健康にまつわるデータを集約する「PHR」を管理するシステムの整備が進められています。
今回は、PHRの概要から管理システムの導入メリット、課題についてご紹介します。
<目次>
■PHRとは?
■PHRデータの種類
■PHRの市場規模
■PHRとマイナポータルとの違い
■PHRサービスの分類
■PHR/EMR/EHRの違いとは
■PHRの利活用を推進するメリット
■PHRのデメリット
■医療領域におけるPHR活用事例
1|母子手帳アプリ
2|電子処方箋
3|健康診断結果を活用する健康管理アプリ
■PHRの課題
■まとめ
■PHRとは?
PHRとは「Personal Health Record(パーソナルヘルスレコード)」の略です。
日本語では「個人健康記録」や「生涯型電子カルテ」と呼ばれています。
日本では個人の健康や医療、服薬にかかわるデータは、病院や薬局ごとに保存・保管されています。その各所にバラバラに存在するデータと、個人で記録する日常的な健康関連データを、本人が管理することを前提として1か所に集約したものがPHRです。
具体的なデータには、個人が病院・診療所や検査機関で受診した診察・検査データ、特定健診データ、薬局の処方データ、自分で測定した血圧や血糖、体重、食事や運動、睡眠、服薬記録といった健康にまつわるデータなどが挙げられます。
PHRは本人が自由にアクセスできることを前提としています。個人が、PHRを生涯に渡って自分自身で管理・活用することによって、自己の健康状態に合った優良なサービスの提供を受けることができる状態が目指されています。
PHR管理システムの導入が推奨される背景
PHRは現在、国によって急速に整備が進められています。その背景として、急激な少子高齢化と人口減少が進んでいることから、さらなる健康寿命の延伸に向けた取り組みを進める必要があることが挙げられます。
そのため、PHRに活用できる、健康に関するデータを電子データの形で円滑に提供でき、適切に管理できる仕組みの構築とともに、効果的な利活用が検討されています。
すでに自治体からは「母子手帳アプリ」や「学校健診アプリ」、「介護防止アプリ」といったPHR活用システムが提供されており、今後も開発が期待されています。
■PHRデータの種類
PHRは先で述べたように個人の健康に関するデータになりますが、大きく分けて個人で収集するデータと医療機関で管理するデータの2種類に分類することができます。
個人で収集するデータ
個人が自分自身の健康状態や生活習慣に関するデータを主体的に収集したデータです。
ウェアラブルデバイス、スマートフォンのアプリ、手帳などで個人が取得し管理するものとなります。
具体的には以下のようなデータが含まれます。
-日々の健康状態(体重、体脂肪、血圧、心拍数、睡眠の質など)
-運動記録(歩数、運動量、消費カロリーなど)
-食事記録(食事の時間、摂取カロリー、栄養素など)
-健康履歴(アレルギー、既往症など)
-服用している薬やサプリメントの情報
医療機関で管理するデータ
医療機関や医療専門家から提供される個人の健康に関するデータです。
医療機関からのデータはEMR(電子カルテ)やHER(電子健康記録)を通じて提供されることが多く、正確性や信頼性が高いデータとされています。(EMRやHERの説明は後述します。)
具体的には以下のようなデータが含まれます。
-診断情報(医師による診断結果、病名など)
-治療記録(処方された薬、手術歴など)
-検査結果(血液検査、レントゲン、MRIなど)
-免疫記録(ワクチン接種歴)
■PHRの市場規模
PHR(パーソナルヘルスレコード)の市場規模は、近年急速に拡大しています。
株式会社グローバルインフォメーションの調査によると、PHRのソフトウェアの市場規模は2027年には1,320万米ドルに到達すると予測されています。
市場成長の要因としては主に以下の3つが挙げられます。
1.デジタル技術の進歩
デジタル技術の進歩により、患者が自分自身の健康情報を管理することがより容易になりました。スマートフォンやウェアラブルデバイスなどのモバイルテクノロジーを使用することで、PHRの作成や更新ができるようになりました。
2.政府による取り組みの促進
ヘルスケアのペーパーレス化は各国地域で活発化しており、市場の成長を後押ししています。
また、ヘルスケア分野でのデジタル化が政府により推し進められていることから、PHRの市場が拡大しています。
3.健康意識への高まり
健康に関する情報が広まる中、自身の健康に関心を持つことが増えていることでPHRへの需要も高まっています。健康に関する情報に手軽にたどりつくことができるようになったのも理由の一つです。
■PHRとマイナポータルとの違い
PHR(パーソナルヘルスレコード)は個人の健康情報を電子的に管理するシステムである一方、マイナポータルもマイナンバー制度を利用して、個人の健康・医療情報を一元管理することができる仕組みとなります。両社の違いについてご紹介いたします。
目的
PHRは、個人の健康情報を一元管理するためのシステムであり、主に医療機関や保険会社などとの情報共有を目的とし、より積極的に健康情報を活用して、疾病予防などにつなげる側面が強いです。一方、マイナポータルは、個人の公的情報を紐づけることで、行政の手続きや管理をしやすくすることを目指しており、国や自治体との情報共有を目的としたインフラのような仕組みとなります。
管理主体
PHRは、個人が自身の健康情報を管理するためのシステムであり、個人が情報の登録・更新・閲覧を行います。一方、マイナポータルは、国や自治体が個人の公的情報を管理しているので、新たに利用者が健康情報を記録したりすることはできません。
情報の種類
PHRは、個人の健康関連のデータ(受診データ、処方データ、検査結果など)を管理するのに対し、マイナポータルは、健康情報のほか、年金データ、世帯情報、雇用保険など国や自治体が管理するあらゆる個人データが管理の対象となります。
■PHRサービスの分類
昨今、民間企業からはさまざまなPHRサービスが展開されています。PHRサービスは利用目的に応じていくつかのカテゴリーに分類することができます。
1.医療情報の管理
個人の治療履歴、薬の処方履歴、アレルギー情報、予防接種歴など健康情報をデジタル形式で保存、管理します。
2.健康モニタリング
体重、血圧、血糖値などの生体データや食事量、運動量などを追跡し健康の維持や改善に役立てます。
3.医師とのコミュニケーション
医師や看護師に健康情報を提供することで受診時により効果的なコミュニケーションを図ることができます。
4.緊急時対応
事故や災害時においてPHRに保存された情報を提供することで緊急時における適切な対応を支援することができます。
■PHR/EMR/EHRの違いとは
ヘルスケア事業でよく使われる、「PHR」「EMR」「EHR」のそれぞれの語句についてご説明します。
PHR(個人健康記録)
PHR(個人健康記録)は、患者自身が自分の健康情報を管理するためのシステムです。患者が自分で入力した情報や、医師が提供した情報を含みます。PHRは、患者が自分の健康管理を行うために必要な情報を提供することができます。
EMR(電子カルテ)
EMR(電子カルテ)は、医療機関が患者の健康情報を管理するために使用するシステムです。EMRには、患者の診療履歴、処方箋、検査結果、手術記録などが含まれます。EMRは、医療機関内での情報共有を促進し、医師や看護師が患者の健康状態を正確に把握することができます。
EHR(電子健康記録)
EHR(電子健康記録)は、EMRと同様に医療機関が患者の健康情報を管理するために使用するシステムですが、EMRよりも広い範囲をカバーしています。EHRには、患者の健康情報だけでなく、健康保険情報や請求情報なども含まれます。EHRは、医療機関間の情報共有を促進し、患者の健康状態を総合的に把握することができます。
■PHRの利活用を推進するメリット
これからますます、自治体や医療機関、その他の民間企業から、PHRに関連するシステムが提供されていくことでしょう。
ところで、PHRの利活用を推進するメリットにはどのようなことがあるのでしょうか。提供される側である個人、そして社会にとっては次のようなメリットが期待できます。
個人のメリット
・適切な医療を受けられる
個人の健康データは、すべてPHRに記録されるため、医療機関にかかる際にはPHRを通じて正確な医療データを医者や看護師に共有することで、適切な医療を受けられます。従来よりも早く正確な診断と治療がなされる可能性があります。個人にとっては何より安心感が得られるでしょう。
・健康増進・セルフケアの促進
PHRアプリなどを使って自身で健康を管理することで、健康に対する責任を感じるようになり、健康への取り組みを自発的に行うようになります。その結果、疾病や怪我などの予防意識も高まると考えられます。
医療機関のメリット
・緊急時にPHRから医療関係者へ迅速にデータを提供できる
たとえば個人が救急搬送されるような緊急時に、救急隊員や医師らは本人に問診しなくとも、PHRのデータを確認するだけで本人の持病や治療履歴などの正確な健康データを知ることができます。これにより正確で迅速な応急処置を選択することができます。
PHRはデータ共有のスピードと正確性を高めることで、医療の質とスピードを向上させられる可能性があります。
社会全体のメリット
・予防医療につながる
国内においては、高齢者の割合が増加する中、医療費削減の課題が高まっています。このようななか、健康寿命をいかに伸ばせるかが重要です。予防医療を推進することで、健康寿命を伸ばすことができます。
予防医療を推進するためには、個人一人ひとりの予防のための健康意識が重要です。PHRを活用して健康管理を行うことによる予防医療の推進は、社会にとってもメリットがあります。
■PHRのデメリット
PHR(パーソナルヘルスレコード)は導入メリットが多い一方で以下のようなデメリットもございます。
個人情報流出の懸念
PHRには個人の健康情報が含まれているため、情報漏洩や不正アクセスが生じた場合、大きな被害が予想されます。適切なセキュリティ対策が求められます。
情報の不正確さ
PHRは個人で情報を入力し、管理を行うので、誤った情報が入力された状態ですと、医師や薬剤師が誤った診断や処方を行ってしまう可能性があります。
ネット環境やITリテラシー
PHRは電子的に情報を管理するため、インターネット環境やデバイス機器が必要となります。しかし、一部の地域ではインターネット環境が不十分であったり、高齢者などではデジタルデバイスの操作に慣れていないケースも考えられます。
■医療領域におけるPHR活用事例
PHRの活用は各所で進んでいますが、なかでも医療領域における活用事例を3つご紹介します。
1|母子手帳アプリ
ある自治体で提供されている母子手帳アプリは、自治体や医療機関が保有している予防接種や乳幼児健診の結果をスマートフォンのアプリに連携する仕組みを持ちます。
また、母子手帳アプリの中には、医療機関での検診結果やエコー画像をアプリ上で確認しながら医師のアドバイスを受けることができるものもあります。
母子手帳アプリを活用することにより、従来よりも正確かつ質の高いケアを受けられるでしょう。
2|電子処方箋
電子処方箋とは、従来の紙の処方箋を通信ネットワークを使ってペーパーレス化を実現する仕組みを持つ処方箋です。医療機関・薬局はクラウド上の「電子処方箋管理サービス」を通じて、処方箋データを相互参照できます。また患者はPHRシステムを通じて処方箋サーバからの調剤実施結果の参照を行うことができます。
直近で処方・調剤されたデータを含む医療データが、全国の医療機関と保険薬局で共有されることから、よりの質の高い医療の提供が受けられるというメリットがあります。
電子処方箋は令和5年1月26日から、全国の準備の整った医療機関・薬局で利用ができるようになりました。今後、徐々に全国に広がっていきます。
3|健康診断結果を活用する健康管理アプリ
個人の健康管理に役立てられるアプリの提供を行う自治体もあります。食事や歩数、睡眠などの生活データと、健康診断の結果をデータベース化したもので、ダイエットや健康増進、栄養管理に役立てられます。
同時に、利用する個人は食事や運動に関するデータの入力や健康目標の達成、健康診断の受診など、健康増進に寄与する行動を行うと、その行動に対してポイントが貯まり、さまざまな特典と交換できる仕組みも備わっています。
ポイントを貯めるために利用意識が高まりやすくなるにつれて、健康増進につながるアプリといえます。
■PHRの課題
PHRの整備や普及が進められる一方で、なかなかスムーズには進んではいないという現状もあります。課題の中でも大きいといわれているのが、個人データがあらゆる場所に点在している点です。
これにより、データの統合・分析や、医師による総合的な判断がむずかしい状況が起こっています。
特に医療の臨床現場におけるデータとの連携については課題が大きく、連携を取る仕組みの構築が急がれています。個人データをはじめとしたPHR構築のためのデータ連携を実現するためには、共通化された仕組みの構築が求められています。
■まとめ
PHRは、健康寿命延伸のために、社会にとっても、個人にとっても期待が大きい仕組みです。PHRを活用する仕組みの整備のために、各所でできることに取り組んでいきたいものです。
個人の健康に関するデータは、各個人で入力してデータ化できる仕組みもどんどん開発されています。たとえばTOPPANの「cheercle(チアクル)」はその一つです。
cheercleは、住まいの生活動線上で得られるPHRを収集・蓄積・管理できるIoTヘルスケアサービスです。住まいの中で身体データを計測し、可視化することで健康管理の習慣化をサポートします。
収集したデータは、独自開発のハイセキュリティなクラウドに蓄積され、解析した結果やアドバイスのコメントを洗面空間のミラーやスマホアプリを介してユーザーへ届け、健康増進に向けた活動を促します。
cheercleは今後、幅広いデバイスやサービスとの連携により、住まいだけでなく日々の活動データを含めたヘルスケアデータの一元管理や医療データとの連携を予定しており、一人ひとりにカスタマイズされたアドバイスサービスの拡張も可能です。
詳細に関しましては、ぜひサービスページをご覧ください。
2024.08.28