バーチャルヒューマンとは?
TOPPANの事例を交えて解説
未来の予測が難しい現代において企業を存続させるためには、既存の事業を時代に合ったかたちで発展させることはもちろん、それまで取り組んでこなかった事業を開発し、新たな価値を生み出すことも重要になってきます。しかし、新規事業開発といっても、どこから手をつけたらよいのかわからない、という方が多いのではないでしょうか。
TOPPANでは近年、印刷で培ってきた技術とノウハウを土台に、さまざまな新規事業開発に取り組んでいます。今回はTOPPANの事例を交えて、企業はどのように新規事業開発に取り組むべきかについて解説します。
企業はなぜ新規事業開発に取り組むべきなのか?
現代は不確実性が高く将来の予測が困難なVUCA※の時代と呼ばれています。社会状況や市場のニーズはめまぐるしく変化するため、製品やサービスのライフサイクルは非常に短く、それまで順調だった事業が、急速に悪化することも珍しくありません。技術の進歩や暮らしの変化によっては、事業そのものがなくなる可能性すらあります。
こうした中で、企業は既存の事業を続けるだけではなく、中長期的な視点で新規事業の開発や創出に取り組み、収益の柱を増やすことが不可欠となっています。
新規事業を検討する上で重要なのは、以下の2点です。
1つ目は、既存事業の強みを生かすことです。既にあるリソースを生かせる新規事業は、競合他社に対して優位性を発揮することができるため、より大きな収益につながる可能性があります。
2つ目は、社会や企業の課題に目を向けることです。なぜその課題が生じているのかを検討することで、すでに顕在化している需要を見極めることができます。新規事業だからといって、ただ新規性のあるものを作り出すだけでは意味がありません。事業を継続していくためには、顧客から求められるサービスを作り出し、適切な市場で受け入れられることが重要です。
※VUCA:Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の略。
TOPPANが新規事業開発に取り組む理由
これまでの技術を、これまでにない社会のために
近年は新型コロナ感染症によるライフスタイルの変化や、デジタルシフトの加速、グローバル市場の拡大や世界的な環境意識、SDGs意識の高まりなど、社会が加速的に変化しています。TOPPANはこれまで印刷を起点にさまざまな領域に事業を広げてきましたが、こうした時代の変化に対応し、さらなる変革を進めるべく、中期経営計画の中で「新事業の創出」を事業ポートフォリオ改革の取り組みの一つとして位置づけています。
新事業の主な注力分野は「DX(Digital Transformation)」「SX(Sustainable Transformation)」の観点から、ヘルスケアやセンシング、メタバースやエネルギーソリューションなどが挙げられます。これらの分野に挑戦できる背景には、あらゆる課題解決を可能にしてきた、TOPPANの強みがあります。
TOPPANの事業領域は主に3つに分けられます。印刷物の情報取り扱いノウハウを起点とした「情報コミュニケーション」、パッケージの成型や建装材の加工から派生した「生活・産業」、印刷で培った高度な技術力で半導体関連の製造などを行う「エレクトロニクス」。これらの3つの事業で培われた「印刷テクノロジー」を5つのコアテクノロジーとして体系化し、幅広い事業領域とコラボレーションさせることで、さまざまなお客さまの課題を解決へと導いてきました。新事業の注力分野は、これらのシナジーを最大限に生かすことができる分野として選定されているのです。
それでは、実際にどのように新規事業開発に取り組んでいるのでしょうか。ここからは、TOPPANが現在注力している「バーチャルヒューマンプロジェクト」についてご紹介するとともに、企業が新規事業開発に取り組むポイントを解説します。
TOPPANの新規事業!バーチャルヒューマンプロジェクトとは?
人体情報を一括管理できるプラットフォームを構築
近年、個人の体や健康に関する人体情報をビジネスに活用する動きが出ています。そんな中、TOPPANは個人の人体情報を計測、収集し、研究開発を行う「TOPPANバーチャルヒューマンラボ」を設立。事業開発に活用できる「人体情報プラットフォーム」の構築を通じて、よりパーソナライズされたサービスの開発など、新規事業開発への貢献を目指した「バーチャルヒューマンプロジェクト」を推進しています。
昨今のさまざまな課題に対応するバーチャルヒューマン
昨今のコロナ感染症拡大防止や省人化の観点から、駅や商業施設などの受付や案内業務をロボットやサイネージシステムが担うようになってきました。しかし、高齢者にとってタッチパネル式の案内表示は操作性の不安などから抵抗を感じ、利用を控えてしまったり、アニメキャラクターと自動音声を利用したAI音声案内では、利用者の属性に偏りが見られたりと、さまざまな課題があります。特に公共性が高い場においては、こうした利用者の差をなくし、誰一人取り残されないサービスが求められています。
そこでTOPPANは、フォトリアルなバーチャルヒューマン(VH)と合成音声による対話AIを組み合わせたVHサイネージシステムをバーチャルヒューマンプロジェクト内にて開発しました。
等身大のフォトリアルなバーチャルヒューマンは、人物認識センサーを搭載しているため、前に立った利用者に対して話しかけたり、利用者のほうを向いたりすることが可能です。あたかも目の前に人がいるかのような感覚で日常生活と変わらない自然な対話ができるため、どなたでも抵抗感なくサービスを受けることができます。
「ライトステージ」の活用でさまざまな領域に向けた新規事業や市場を創出
VHサイネージは、「バーチャルヒューマンラボ」に設置された「ライトステージ」を用いて計測した高精度な人体に関する実測データをもとに制作されています。ライトステージとは、南カリフォルニア大学で研究・開発された機器です。球状のドームに配置した光装置をコントロールしながら計測を行うことで、顔の形状だけでなく質感までも高精細に計測。AI生成技術と掛け合わせることによって、フォトリアルなバーチャルヒューマンの生成を可能にします。
バーチャルヒューマン生成技術の活用展望
新規事業は、さまざまな分野での応用を前提に開発することで、より大きな事業へと成長することが可能になります。もちろん、TOPPANのバーチャルヒューマン生成技術も例外ではありません。
「TOPPANバーチャルヒューマンラボ」では、バーチャルヒューマン生成技術を、他社の新規事業への貢献や新たな市場を創発するソリューションの一つとして位置づけています。例えば、実在しない人物を安価に作成し、できあがった肖像権フリーのコンテンツを広告代理店などに提供することで、新たなモデルエージェンシービジネスが可能になります。
ここからは、そんなバーチャルヒューマン生成技術の多様な活用展望をご紹介します。
❶化粧品分野への活用
顔を映すだけで、画像から肌の油分・水分まで分析して、その日の自分に合った化粧品を紹介できるようになるでしょう。
❷セキュリティ分野への活用
顔の画像データで、正確な認証システムを実現。安全な個人情報データベースと連携させることで、特定の手続きを必要とせず、認証が可能な未来が実現するかもしれません。
❸遠隔体験分野への活用
高精細な3Dで好きなアーティストのライブが病院や自宅など、場所を問わず楽しめるようになる可能性もあります。
❹メタバース分野への活用
1枚の写真から短時間でフォトリアルな3Dアバターを自動生成できるサービス「メタクローン™アバター」と連携することで、より高精細でリアルなアバターの生成が可能に。
まとめ
加速的に社会が変化する現代においては、あらゆる企業が新規事業開発に取り組むことが求められています。TOPPANは時代とともに事業を広げ、変化してきた技術と経験を生かし、あらゆる課題を解決する「社会的価値創造企業」を目指して新規事業開発に取り組んでいます。今回ご紹介した「バーチャルヒューマンプロジェクト」も、自社の強みを生かし、さまざまな領域での応用を見据えた新規事業開発の一例です。
TOPPANの情報誌「ideanote」vol.151では、そんなTOPPANの幅広い仕事を事例とともに多数掲載しています。自社の新規事業開発の足がかりに、ぜひご一読ください。
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2023.03.27