イベントレポート

なぜダイナミックプライシングは
広がっているのか?~ AI活用による
価格変動ビジネスへの挑戦【DATA CAMP 2019】

※所属企業名・部署名は2020年3月時点


登壇スピーカー メトロエンジン株式会社 小阪 翔氏
※所属部署は2020年3月時点

ダイナミックプライシングが急速に普及し始めた要因

本日お話ししたいことは、3つあります。1つ目は、ダイナミックプライシングの領域で何が起きているのかということ。2つ目は、ダイナミックプライシングの未来。今後、どのようなサービスがダイナミックプライシング化していくのか、という未来像です。3つ目は、その中でわれわれメトロエンジンがどのような取り組みをしているのか、です。

まず、ダイナミックプライシングについてですが、古くから飛行機のチケットやホテルの宿泊は、予約する日によって価格が変わる仕組みが取られてきました。2019年1月以降、急激にダイナミックプライシングが盛り上がりを見せていまして、テーマパークではUSJ、スポーツではJリーグの各チームがダイナミックプライシングを導入しています。

ダイナミックプライシングが急速な拡がりを見せる背景には、3つの要因があります。

1つ目は、AIの進化です。最適な価格を算出する上で、AIは必要不可欠なものになります。2つ目は、オンラインマーケットプレイスの普及です。色々なモノやサービスがオンラインで購入されたり、予約されたりする今、価格がデジタルで表示されているからこそ、容易に価格を変えることができるようになっています。3つ目は、APIエコノミーの広がりです。ダイナミックプライシングでは様々な要因を元に価格を算出する必要があるため、競合価格、天気、周辺地域でのイベント開催、現在の予約状況といったデータの取得が欠かせません。


4象限で捉えるダイナミックプライシングの種類

続いて、ダイナミックプライシングの未来についてです。ダイナミックプライシングの中身にも色々なものがありまして、われわれは4つの象限に分けて考えています。上に行けば行くほど、よりダイナミックな価格変動を見せ、下に行くほど固定的な価格を意味しています。左側は、誰に売るか・誰が買うかによって価格が変わるプライシング。右側はいつ買うかによって価格が変わるプライシングです。

「パーソナルプライシング」は、誰に売るかによって価格を変える、というものです。そのアカウントが過去にどういう購入履歴・検索履歴があるのか、というところから価格を算出します。

「完全市況価格」は、株価やガソリンのように「秒単位」で価格が変わるものを指します。ダイナミックすぎるためダイナミックプライシングと呼ばれていない、といえるかもしれません。

「属性別プライシング」には、映画館のレディースデイやシルバー割引といったものがあります。それほどダイナミックに価格を変動させているわけではありませんが、「誰が購入するかによって価格が変わる」という意味ではダイナミックプライシングの一つとして捉えることができます。

「稼働率駆動型」は、飛行機やホテルのように、昔から普及しているダイナミックプライシングです。稼働率が大きな要因となっているため、予約が多く入っている時には価格が高くなり、空いている時には安くなります。

「競合価格追随型」は、家電量販店が採用しているモデルです。従来は、競合価格を常にウォッチしながら「自社はどういう価格にするのか」という判断を人間が行っていましたが、ダイナミックプライシングではここを自動化することで効率化を図っています。

「売切期限ベース段階値下げ」は、売り切り期限までにどんどん値下がっていくというものです。アパレルでは、夏物の服は秋が近づくほど、お惣菜では、賞味期限が切れそうなときや閉店間際ほど値下げされていきます。

「時間帯別料金設定」は、ジムや駐車場のように、平日の昼・夜、休日によって異なる料金が設定されているものです。

この中で今、ダイナミックプライシングと呼ばれているのは、「パーソナルプライシング」、「稼働率駆動型」、「競合価格追随型」、「売切期限ベース段階値下げ」です。このあたりが人手ではなく、自動化されることで、ダイナミックプライシングと呼ばれることが多くなっています。


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特性や段階に応じて変化するダイナミックプライシング

では、今後はどういうものがダイナミックプライシング化されていくのでしょうか。短期的には、レンタカーや高速バスは、「稼働率駆動型」で価格が変動的になると予想できます。既に、お盆やGWには値段を高くする、ということを人手でやっているため、これらが自動化されていくでしょう。

アパレルとお惣菜のように、売り切り期限でどんどん値下げをするもの関しては、「値札のデジタル化」が必要になってきます。これは、これまでのように人手で対応していたのでは、価格変更の手間が大きくなりすぎてしまうからです。ここでは、TOPPANが提供している電子棚札の活用が考えられています。

電力・物流費・電車・美容院・マッサージ・レストランといったものは、まずは「時間帯別料金設定」になっていくと考えられます。繁忙期と閑散期がわかりやすいため、これに基づいて料金設定を時間帯別に変えることで収益を最大化したり、混雑の緩和を実現したりすることができます。

続いて、近い未来に起こるであろう「価格変動制の変化」をご紹介します。より遠い未来について考えると、「時間帯別料金設定」は、おそらく「稼働率駆動型」に移っていきます。「時間帯別料金設定」を採用しているものは、基本的にキャパシティに制限があります。それに対して需要が上がったり下がったりするため、時間帯別に変えるだけではなくて、リアルタイムで稼働率に応じて価格を変えていく「稼働率駆動型」に変わっていくと予想されます。


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理想の「ブッキングカーブ」を実現する推奨価格を算出

われわれは現在、ホテル向けとレンタカー向けのダイナミックプライシングのアプリケーションを提供しています。例えば、ホテルでは「シングルはこの日に何円で販売することを推奨します」といったことがわかります。そして、「何故、この価格を推奨しているのか」という根拠を見ていただいて、納得感を持っていただいた上でその価格を反映する、という具合です。

推奨価格の算出は「ブッキングカーブ」という概念に基づいています。これはホテルにとって、「宿泊日までにどれくらいのペースで予約が入っているか」を示すカーブです。収益を最大化する上では、少しずつ予約が入っていて、宿泊日直前に100%になることが理想的です。需要があまりないのに値段を下げずにいて結局予約が入らず、部屋が稼働しない、ということは望ましくありません。一方で、値下げしすぎて、すぐに稼働率が100%になってしまうことも望ましくありません。こういった予約ペースを毎日リアルタイムで見ながら、理想的なオレンジ色のカーブに近づけていく、ということが推奨価格を出すためのロジックになっています。


全国のイベント情報と組み合わせて、宿泊需要を予測

われわれの強みは、「独自データ」を持っていることにあります。推奨価格を出すためにはまず「需要予測」をする必要があり、いかに精度よく予測できるかが鍵となります。

多くのホテルが「イベントによる影響を読み切れない」という課題を持っている中、われわれは「日本全国のイベント情報」を保有しているので、周辺で開催されるイベントの規模や影響度に応じて、需要予測をすることが可能です。そして、今の時点で「3ヶ月後にこのホテルにどのくらい予約が入っているか」を予測しています。これが正確にできると、他の色々なサービスの需要予想ができるようになります。これは、われわれが高い需要予測の精度を誇る強みとなっています。

「予測モデルを1個つくれば、それがどのタイプのホテルにも使えますか」というご質問をいただくことがありますが、どうしてもある程度のチューニングは必要になります。例えばレンタカーでは、ベースとなるモデルは共通していますが、店舗によって若干モデルが異なります。そこでわれわれのAIでは、「どのイベントが、どの程度影響を及ぼすのか」を読み解くモデルを自らチューニングしています。レンタカーでは、「当該店舗から近すぎず、遠すぎない場所で開催されるイベントが需要に影響を及ぼす」ということがわかっています。エリアによって影響範囲も異なるため、それらの考慮も必要です。例えば、北海道と都心の店舗では、需要に影響を及ぼすイベントの開催地との距離感が変わってきます。


「人の移動の未来予測」に向けた新たな挑戦

今後、われわれが挑戦しようとしているのは「人の移動の未来予測」に関するものです。ホテル、レンタカー、高速バス、イベント開催、といったデータを蓄積することによって、人の移動に関する予測精度が上がってきています。「この日、このエリアに、このくらいの人が来そうだ」ということがわかれば、「交通サービスをどのくらい供給することがベストか」、「どのくらいの在庫が最適か」といったことがわかるため、フードロスの削減にもつなげることができます。

新規事業に取り組まれている企業様も多いのですが、ダイナミックプライシングはなかなか裏側が複雑なところがあるので、色々ヒアリングをさせていただきながら、PoCの設計を一緒に取り組ませていただいています。どういう形でPoCを行い、どのような効果検証を行っていくのか、効果が出たときにはどのように実施すべきなのか、というところまで含めて、PoC設計に力を入れて取り組もうとしているところです。

われわれのミッションである「需要予測とダイナミックプライシングでよりよい世界へ」の実現に向けて、企業の収益最大化、利用者の混雑緩和、より安い価格でサービス提供、といったポジティブな影響を与えるものにしていきたいと思います。

【参考資料】

2023.07.13

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