イベントレポート

“顧客体験”をアップデートする
デジタルストアの未来

登壇スピーカーAWL株式会社 土田 安紘 氏
ファシリテーター凸版印刷株式会社 畑 幸一

「AIカメラ」で小売店の顧客体験を変えていく

畑:「“顧客体験"をアップデートするデジタルストアの未来」というテーマで講演させていただきます、凸版印刷の畑です。今回ご登壇いただきます、AWL株式会社(以下、AWL)の土田さんより、自己紹介をお願い致します。

土田氏:AWLの土田と申します。私は、北海道大学を2001年に修了し、その後17年間、Panasonicに努めておりました。Panasonicを出た後、私の大学の時の先輩にあたる、北海道大学(以下、北大)AIラボラトリの川村秀憲教授に声掛けをいただきまして、AWLに入りました。現在は、これからお話をさせていただく「AIカメラ」を活用したビジネス構築に取り組んでいます。

畑:私は自動車や流通といった業界で、デジタル系の業務に20年近く取り組んでおりまして、デジタルマーケティングやコミュニケーションプランニング支援を担当しております。

土田氏:それでは最初に、AWLについて簡単にご紹介させていただきます。AWLは、北大の川村教授が3年前に立ち上げたベンチャー企業です。初めの頃は「AI受託事業」が中心でしたが、主に北海道でドラッグストアチェーン展開しているサツドラHD(以下、サツドラ)のグループ会社になってからは「小売のオペレーション」や「顧客体験」の課題をAIで解決する、という方向へ舵を切りました。

その後、凸版印刷の畑さんと一緒に「AIカメラを使って、小売店の顧客体験をいかに変えていくか」という取り組みをしてきました。社員数は約70人で、このうちの大多数を外国人の「AIエンジニア」が占めています。AIを開発できる人材を獲得することが非常に難しくなってきている中で、AWLではベトナムとインドを中心に、優秀なAIエンジニアのメンバーを獲得し、彼らと一緒に最先端の技術に挑戦しています。


リテールストアが直面する危機をテクノロジーで解決

土田氏:リテールストアチェーンは日本に55店舗あるといわれていますが、事業の継続性に重大な課題を抱えています。その課題は「労働力不足」です。

リテールストアチェーンはこれまで、新しいところに出店して売上を増やし、その売上の中から利益を出す、という形で出店攻勢を行ってきました。しかし、労働力不足によって今までのような成長ができなくなってきています。そうした中、AWLでは「AIカメラ」という技術を活用して問題を解決していこうとしています。

「AIカメラ」は、AIが人間の代わりに目となって、「万引き」や「拡販につながった」という瞬間を見つけます。このように店舗の中で何が起きているのかを把握することで、リテールのオペレーションを多方面からサポートすることが可能となります。

AWLのAIエンジンでは最先端の「ディープラーニング」を活用しており、店舗に設置されている防犯カメラが撮影した映像をAIの目で分析できるようになっています。ある人物が店員なのか、お客様なのか。お客様であれば、どういった商品を手に取り、興味を持たれているのか。店員であれば、どういった形で仕事をされているのか、ということ判別できます。

ここで得られたデータは様々なことに活用できます。例えば、20代の男性がいきなりコスメコーナーに行って商品接触をしたとします。20代男性の行動様式としては珍しいため、「もしかすると、この方は万引きを働こうとしているのではないか」といった推測を立てることができます。

あるいは「奥さんから化粧品を買ってきて、と頼まれただけかもしれない」ということであれば、コスメコーナーで長く滞在している状況をリアルタイムに察知することで、このお客様に声がけを行い、拡販につなげることもできるわけです。


来店から退店までの一連の行動履歴をデータ化

畑:このような高い技術力を持つAWLさんと弊社は、去年のDATA CAMPから共創させていただいておりますが、今回のテーマである「顧客体験をアップデートする」について、土田さんはどのように考えていますでしょうか。

土田氏:そもそも顧客体験のアップデートとは何か?と考えてみました。スマートフォンの新しいOSや新しいアプリケーションは、最初は不具合・バグがあったり、使いづらさが目立ったりするものです。

そこで何かしらのアップデートがなされて、アップデートされたものは元々のソフトウェアにあった不具合が解消されて、使い勝手が非常に良くなっている。あるいは、新しいサービスに対応している、という形になっています。

では、「顧客体験のアップデート」とは何でしょうか。実店舗ではなく、例えばECの場合、全てはログデータとして残っていきます。これを使って分析をすると、「こういうところのサービスは陳腐化して使ってくれなくなったんだな」、もしくは、「こういったところに不具合があり、うまくサービスを提供できなかったんだな」というところに気付くことができます。それによってECサイトをどんどんアップデートしていくわけです。

そう考えると、「ECサイトと同じことが、リアルのリテールでもできるのではないか」、ということが今回の私たちの挑戦だと思っています。私たちはこの技術を使うことによって、お店に入ってから出ていくまでのあらゆる行動履歴をデータ化し、「お客様が本当はこういう行動を取りたかったのではないか」「お客様はこういうことにお困り事を抱えていたのではないか」、ということを分析できるようにしていきます。


実証実験で得られた「3つの気付き」

畑:弊社が今回の実験を通して重要だと気付いたことは、リアルタイム、パーソナライズ、データ活用の3つが重要ということです。

1つ目の「リアルタイム」についてですが、店頭での購買の決定率は「80%」と一般的に言われています。ということは、店舗に滞在する時間があまり長くないと考えられます。これを「AIカメラ」で実施しようとすると、「即時性」が重要になります。

土田氏:AWLが開発していたエンジンは当初、「リアルタイム性」にはあまりこだわらず、店内で起きていたことを分析するための装置、ということで開発を進めていました。しかし、これでは今来店されている方に対して「リアルタイム」で新しい顧客価値を提供していくことはできませんでした。

そこで実証実験店舗にAWLの試作機を配置し、試行錯誤しながらリアルタイム化を進めることで、最初は数分かかったレスポンスを数秒といったところまで短縮することができました。こうなってくると元々、数分という処理ではなかなかできなかった「お客様の性年齢属性に合わせたサイネージを適切に切り替える」といった取り組みや「お客様が何かの行動をした瞬間」「その食べ物を手に取った瞬間」に、その食べ物と併売をかけることができるような商品をクーポンでアピールする、といった取り組みができるようになります。

畑:お店に来店される方は頻度も高く、数千人レベルの話になってくるので、エッジ処理化をするためには大きなサーバーが必要になってくるかと思います。このあたりはいかがでしたでしょうか。

土田氏:まさにそこがAWLとしてのチャレンジでした。最初に持ち込んだ端末が金庫大で40kgと非常に大きくて、大人2人でなければ持ち運べない、というものでした。しかし、小売のバックヤードは予想以上に狭く、巨大な端末は設置できないことに気づきます。その後、色々と開発を進めて現在は、片手で持てるサイズまで小型化することができました。また、単に小さいだけではなく、「5年経っても壊れない」という状態を目指して作ってきました。対故障性に優れ、頻繁に店舗へメンテナンスに伺う必要がない、こうした要素も重要であるためです。


複数アングルで撮影した人物映像を紐付ける

畑:2つ目の「パーソナライズ」は、コンセプトにあった通り「共感する」といったところです。元々「AIカメラ」としては、防犯・万引き防止や生産性向上といった活用をされていましたが、販促として利用するにはどういった点が異なりますか?

土田氏:個人情報の取り扱いといったところに触れずに、どれだけそのお客様に特化したサービスを提供することができるか、ということで、私たちは店内に設置されているカメラを「入口に現れた方が初めにどこへ行って、次にどこに行った」という形で、それぞれの場所でどういう行動を取ったか、トレースを行い、それによってそのお客様像を具体化しています。

例えば、30代の男性がビールを手に取ったのであれば、「何かおつまみのようなものをご提案しよう」という具合です。技術的には「Person ReIdentification」というもので、それぞれ違うアングルから設置された人物の映像を紐付けしていく、というものになります。まだまだ学術レベルでもなかなか解かれていない高度な技術ですが、こちらの技術を今回の取り組みを通じて開発してきました。

畑:3つ目は「データ活用」についてです。実は「店外」で起きていることも、この技術を使って行えるのではないか、と考えています。

お昼時に「ランチは何にしようかな」と思って、近くにあるコンビニに立ち寄ろうとするとき、そこではおそらく「近くにある」という時間的な制限も含めて、実はもう一つ他に優先すべき優先条件が存在するのではないかと考えています。そういった部分で「AIカメラ」を使って推測ができれば、リアルタイムに店外でもお店に誘導する、という技術をつくれるのではないか、と考えています。

土田氏:まずはこのリテールストアチェーンと一緒に取り組みを進めながら「何がリテールの課題に効くのか」を解き明かし、現場で本当に使える技術開発につなげていければと考えています。また、AWLが開発している技術はリテールではないと活用できないものではありません。カメラが付けられた現場で映像分析を使って、より深く、様々なことができるものです。これからどこまで突き詰められるかと、という挑戦を通じて、さらに技術力を高め、より広範な分析ができるようにしていきたいと思っています。

2020.03.10