コラム

CXとは|
よくわかる!顧客体験のはなし

小野 譲司(おのじょうじ)さん
  • 青山学院大学経営学部マーケティング学科 教授
  • 小野 譲司さん

そもそもCXとはどのような考え方で生まれ、どのような効果を生むものなのでしょうか。 CXの成り立ちと基本を青山学院大学経営学部マーケティング学科教授 小野譲司先生に解説いただきます。


CXを向上させたいのですが、何から始めれば良いでしょうか?

顧客と企業との関係性が多様化

CXについてはオンラインとオフラインの顧客接点での一貫した経験をデザインし、実行すること、その経験の中で機能的な価値と情緒的な価値をどう顧客に提供するかといった課題を中心に議論されることが多いと思います。それ以外にも、さまざまな角度から議論がされてきた経緯がありますが、少し高い視座から見ると、「カスタマーセントリシティ(顧客中心主義)」の流れをくむ考え方と言えます。

さらに、その歴史をたどると1970 年代の消費者問題や苦情処理などの「消費者不満の解消」にさかのぼることができます。1980〜90年代には「CS(顧客満足度)経営」や「ロイヤルカスタマー」といった考え方が広がり、単に顧客の不満を取り除くだけでなく、ロイヤルカスタマーやリピーターといった収益の最大化につながる顧客をいかに育てるかという考え方が生まれました。

顧客中心主義の歴史・流れ

2000年代に登場した「CRM(顧客関係管理)」により、マーケティングの世界では一つの転機を迎えました。主に通販企業や金融といった、当時から顧客との取引データを保有している業種の中から広まった手法で、さまざまなデータからロイヤルカスタマーの中でも自社に利益をもたらしてくれる「優良客」を可視化できるようになりました。また、スマートフォンの登場により、売場はリアル店舗だけでなくオンラインへと急速に広がり、企業と顧客の接点が多面的に拡大していきました。

その流れを受けて2010年代には、顧客との新たな関係性をつくる「CXと共創」がテーマになりました。顧客がどのような経験を経て優良客に育っていくかを分析する仕組みが生まれ、顧客が製品やサービスの購入に至るまでのプロセスを旅に例えた「カスタマージャーニー」や、顧客との関係を深めて付加価値が高い良好な顧客関係を築く「カスタマーエンゲージメント」といった概念が知られるようになります。また、ソーシャルメディアの登場によりクチコミの威力が可視化されました。自社商品をSNSに投稿したり、拡散してくれたりと、企業にメリットをもたらしてくれる顧客の存在です。大切なのは単にたくさん購入してくれる顧客だけではないことに気づき、ソーシャルメディアを通した人々のクチコミや推奨によって新規客を育てることにも、力が注がれるようになりました。

以前は単に苦情として捉えていた声も、今では企業に新しい気づきや改善点などを与えてくれる貴重な存在と捉えられています。最近ではユーザーの声を取り入れた商品開発に取り組む企業が増えています。


顧客の評価は機能的価値から情緒的価値へ

時代の変化により顧客との関係性は多様化し、顧客との接点を点ではなく面で捉える必要があります。そのためには各部署が保有しているデータを統合し、顧客にとってシームレスな体験をどう構築していくかが重要になると考えられています。

また、商品やサービスを機能的価値のみで考えると、他社との差別化が難しくなるだけでなく、模倣されてしまう可能性もあります。機能的価値の差別化・強化が競争優位の源泉につながりにくい今、情緒的価値に紐づく体験を提供することは大切な視点です。

情緒的価値とはその商品やサービスから受ける印象のうち、うれしさ、楽しさ、驚き、安らぎなどといった顧客のポジティブな感情を刺激する価値です。サポート体制の良さや問い合わせへのレスポンスの速さ、商品が顧客の手元に届くプロセスなど、その関わり方や関わる人も複合的なものとなっています。そのため昨今では、商品やサービスに関わる一連の経験=CXを多くの企業が見直し始めています。

小野 譲司(おのじょうじ)さん
青山学院大学経営学部マーケティング学科 教授

明治大学商学部、慶應義塾大学大学院経営管理研究科博士課程単位取得後、2000年、博士(経営学)。明治学院大学経済学部などで教鞭を執り、2011年より現職。サービス産業生産性協議会JCSI(日本版顧客満足度指数)アカデミックアドバイザリーグループ主査。著書に『顧客満足[CS]の知識』(日本経済新聞出版)、小野譲司・小川孔輔編著『サービスエクセレンス:CSI診断による顧客経験[CX]の可視化』(生産性出版)。

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2024.07.03

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