ブランドロイヤルティの高め方|
よくわかる!顧客体験のはなし
- 青山学院大学経営学部マーケティング学科 教授
- 小野 譲司さん
CXの向上のためにどのようなデータを収集し、どのように活用することが重要なのでしょうか。また、商品のもつ機能的価値だけではなく、情緒的価値や社会的価値の重要性を青山学院大学経営学部マーケティング学科教授 小野譲司先生に解説いただきます。
「行動データ」と「インサイト」を偏りに注意して把握することが大切
実際にCXを考えていく上で、「行動データ」と「インサイト」の二つの情報が、大きく分けて必要とされます。
「行動データ」は、現実の顧客の行動を可視化するための情報です。いつ訪問し、何を閲覧し、最終的に何を購入したかといった購買までの一連のデータで、POSデータもその一種です。
顧客の行動データとともに、より良いCXを検討するためには顧客がなぜ購入に至ったかという「インサイト」の把握も必要不可欠です。店頭での行動観察も、隠れたインサイトを把握するための一つの方法ですが、それだけでは取得できるデータが限定的です。そこで活用したいのが、日常的に集まってくるお問い合わせやコメントといったVOC(顧客の声)です。
VOCを扱う時に注意したいのは、声を上げてくれる顧客の意見が少数の限られた顧客の声である可能性があるという点です。もちろん、商品・サービスの改善や創造に向けての仮説を発見するヒントになり得ますが、その声が顧客全体の意見を反映しているとは限りません。また、自社内部で独自で行う来店客調査も偏りが出ることもあります。
一つの考え方として、物事の全体像や実態を把握するためには、適切な調査方法を用いて母集団に近い形の縮図からデータをあぶり出していくことが大事です。
情緒的価値と社会的価値の向上が事業継続を盤石にする
体験価値を強調するマーケティングでは、「情緒的価値」にも注目が集まります。それは、ポジティブ・ネガティブに関わらず、感情が高ぶった経験を伴う出来事は記憶に残りやすいという特徴をもつからです。
例えば、海外旅行で絶景を目にして感動した経験はその後何年も記憶に残り、「またあの場所を訪れたい」というふうにプラスの記憶として残り続けます。反対に、ツアーガイドのミスで飛行機に乗り遅れた、体調を崩した、といったネガティブな経験をすれば「二度と行きたくない」と思うでしょう。楽しい、うれしい、いい意味での驚きなどといった経験をした顧客は、ブランドロイヤルティが高まりやすい傾向にあります。
私たちは、旅行で体験した一つひとつの出来事を詳細に思い出して、良い旅行だったとか、酷い旅行だったと振り返るというよりは、印象に残った出来事を想起して判断してしまうから、と考えられます。裏返して考えると、顧客が特に不満に感じた経験やトラブルがあったら、企業ができるだけ早く、適切にリカバリーをすべきなのは、そうした顧客経験の特徴を踏まえれば、合理的な対策と言えます。
また「社会的価値」についても注視しておくべきでしょう。社会的価値とは、企業が社会の持続可能な発展に寄与する事業を行うことによって、社会全体が享受できる価値のことを指します。創造する社会的価値が高いほど、企業ブランドが高まり営業利益を拡大できるというものです。
従来から言われているCSR(企業の社会的責任)や昨今のサステナビリティは、広い意味で社会的価値に関わることです。例えば、ホテルに宿泊した際のシーツやタオルの取り替え、プラスチック製の歯ブラシやクシは使い捨てされます。ファストフードでドリンクに使うプラスチック製ストローと同じです。
人々が商品・サービスを実際に使う場面も顧客経験の一部ですので、地球環境にマイナスの影響を及ぼしそうな行為をできるだけ控え、プラスの影響をもつような行為をすることで、顧客はその商品・サービスを通した社会的価値を体験していると考えられるでしょう。
小野 譲司(おのじょうじ)さん 青山学院大学経営学部マーケティング学科 教授 明治大学商学部、慶應義塾大学大学院経営管理研究科博士課程単位取得後、2000年、博士(経営学)。明治学院大学経済学部などで教鞭を執り、2011年より現職。サービス産業生産性協議会JCSI(日本版顧客満足度指数)アカデミックアドバイザリーグループ主査。著書に『顧客満足[CS]の知識』(日本経済新聞出版)、小野譲司・小川孔輔編著『サービスエクセレンス:CSI診断による顧客経験[CX]の可視化』(生産性出版)。 |
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2022.06.27