イベントレポート

<DATA CAMP 2021>
逆風を越える売上を達成する
組織運用力

※所属企業名・部署名は2021年3月時点


登壇スピーカー:
株式会社ジャパネット ホールディングス
代表取締役社長 兼 CEO
髙田 旭人 氏

コロナ禍にジャパネットを襲った数々の逆風

本日は「逆風を越える売上を達成する組織運用力」というタイトルで、我々がコロナ禍に取り組んだ活動についてお話させていただきます。自宅で過ごす人が増えたので、コロナ禍は通信販売事業者にとって追い風だと考えている方は多いかもしれませんが、実際は、非常に強い逆風状態から始まりました。最も影響が大きかったのは、クルージング事業です。我々は「MSCベリッシマ」という乗客定員数5,600名超の大型客船を年8回分チャーターし、一回あたり約4,000名のお客様に「全船貸切クルーズ」を楽しんでいただく予定でした。このクルーズはコロナ前にチケットを完売しており、年間100億円を売上げる予定でしたが、すべてキャンセルになりツアー料金を全額お戻しさせていただきました。

通販事業では、訪問設置が必要な商品に関してお客様が不安を感じられる事態が起きました。我々はエアコンやテレビなどを販売するだけではなく、お客様のご自宅までお伺いして設置するサービスを自前で行っていましたが、訪問時の感染症対策として全職員へのマスク配布や除菌対策などにも追加投資を行いました。

通販以外にもサッカー、バスケなどのスポーツ事業や地域創生事業も展開していますが、これらの事業も厳しい経営を迫られました。J2リーグの「V・ファーレン長崎」も無観客試合が続いたことと、日程がタイトになった影響で収入減になりました。地域創生事業の長崎県稲佐山の指定管理も、営業自粛に伴いロープウェイ等の運賃収入がほとんどありませんでした。

社内の影響で一番大きかったのはコールセンターの運営です。コールセンターは三密になりやすい職場で、クラスターの発生リスクがあり、感染症の拡大局面で、従業員間に大きな不安が広がりました。


コロナ禍に打ち出した3大方針をもとに全社を挙げて改善策に取り組む

2020年3月末、感染症の影響が悪化したことを受けて、急遽役員・人事担当者と一緒に対策を検討しました。この会議において「社員とその家族の命を守る」、「ビジネスを通して社会に貢献する」、「伝えることを活かして本業以外でもできることを行う」という3大方針を定め、これを全社に共有しさまざまな改善策を実施しました。

第1の方針「社員とその家族の命を守る」の実践においては、まず全従業員約3,000名の状況を全て洗い出し、本人が持病を持っているか、同居人あるいは一緒に住む家族にリスクがあるか、どのような方法で通勤しているか実態調査を行いました。その結果をもとに、電車通勤の従業員は在宅勤務へ切り替る、一人暮らしかつ徒歩通勤で持病のない従業員は出勤も可能など、個人の希望や状況に応じて一人ひとり勤務形態を検討しました。

社内で最も働き方が変わった部署がコールセンターでした。コールセンターには1,700人近い従業員がおり、3密を避けるため人員を減らし、自宅勤務にする方向で検討しました。しかし、自宅では環境面で難しい部分もあったため、福岡に3棟、東京に1棟、ホテルを借り切り1人1部屋で業務を行える環境を整備しました。従業員は毎朝ホテルに出勤し、安心して受注業務に取り組めました。

コールセンターにおいても密の回避策として、ピークを平準化する施策を実行しました。今までは数千万部のチラシを1日で配布し、配布当日はオペレーターを増員して大量の受注に対応していました。このピークを平準化するため、チラシを20%ずつ5日間に分けて配布することにより、コール数を分散しました。コロナ禍を新たな施策にトライする絶好のタイミングと捉え、新たなチャレンジができたことは大きな進化だと感じています。

また、在宅勤務が増えて心の距離が離れ、孤独を感じる従業員がいると考え、在宅勤務の間はほぼ毎日オンラインで朝礼を行いました。月曜日は私が想いを伝え、それ以外の曜日は役員や部長が持ち回りで従業員に語りかけました。ほかにも、料理研究家にお願いして在宅で楽しめるオンライン料理研修を開催したり、週2、3回、人事主催でテーマ別オンライン飲み会(完全自由参加)を開催したり、従業員に寂しさを感じさせない取り組みを企画・実践し続けました。


ジャパネットの強みを生かした社会貢献活動へのチャレンジ

第2の大方針「ビジネスを通して社会に貢献する」取り組みを紹介します。当時、レストランやホテルが休業に追い込まれ、農水産業や畜産業の生産者が販売先を失ってしまう事態が起きていました。当社の通信販売では、これまで食品はほとんど扱わなかったのですが、ニュースで「1年間、手塩にかけて育てた生産物を捨てるしかない」と話す生産者を見て、企画を練り「生産者応援プロジェクト」を立ち上げました。普段はあまりやらない送料無料を取り入れ、赤字になる覚悟もしていましたが、非常に反響が大きく数カ月で約23億円を売上げました。

第3の大方針「伝えることを活かして本業以外でもできることを行う」は、“伝えるプロ”であるジャパネットの強みを活かす取り組みです。現場からの発案によって「#今だからプロジェクト」が立ち上がり、さだまさしさんや西川貴教さん、高橋みなみさんの協力を得て“当たり前の日常”が失われている「今だから気付けること」「今だからできること」をテーマにした企業CMを放映しました。もちろん、売上げに直結するものではありませんが、世の中が前を向けるメッセージを発信することも、“伝えるプロ”である我々の役目であることを示す取り組みとなりました。


「ピンチをチャンスに」を合言葉に、従業員一人ひとりが変革に挑む

第一波が収まったとき、逆風の中、従業員一人ひとりがアイデアを出し、行動したことで、安全が守られただけではなく、本当に会社が成長できたと感じました。
なぜ逆風下で成長できたのか、その理由として「ピンチだからマイナスを抑える発想ではなく、ピンチをプラスにする方法はないのか?」と、ことある毎に問いかけた結果、従業員のマインドが変わったからだと考えています。結果的に、無駄な会議がなくなり、服装がスーツから私服に変わり、毎週水金だったノー残業デーが月水金の3回になるなど、社内のルールがいろいろ変わりました。ほかにも顔認証と検温が同時にできる装置を設置しセキュリティと感染症対策を両立する施策が導入されたり、Zoom専用のオンライン会議室や、1人で集中してオンライン会議ができる専用ブースが導入されたり、社内環境の変革も進みました。

徒歩通勤の拡大も、コロナ禍で進んだ変革のひとつです。第一波が収まった後、東京オフィスでは会社の近くに居住する社員へ交通費の代わりに近距離手当と、2020年内の引っ越し代を会社が負担する施策を打ち出しました。併せて、ホールディングスの12部門を、東京から福岡へ移転することを決めました。これを機に福岡に引っ越しても構わないという従業員は転居することになります。コールセンターも150人規模の施設を4つ増やして、半数の従業員が電車を使わず通勤できる環境を整備します。


日本全国を元気にしたい

続いて、TOPPAN様とジャパネットが、今進めている取り組みをご紹介します。ジャパネットでは、約1,000万名の会員様にカタログやダイレクトメールでコンタクトし、購買履歴がある方にはしつこくならない頻度にアプローチしてきました。これに対し、TOPPAN様はAIを活用すればもっと効率的なマーケティングができると主張されています。そこで、TOPPAN様のAIと、我々のアナログな勘と経験則を同じ土壌で実施し、どちらの成果が高いか勝負をしています。現在1勝1敗1分けとなっており、我々の勘も捨てたものではないと思っていますが、今後も一緒に改善を重ねて生産性の高い効果的なマーケティングに取り組みたいと考えています。

最後に、未来に向けた「スポーツ・地域創生事業の取り組み」についてご紹介させていただきます。
我々はCSR(Corporate Social Responsibility)、いわゆる企業の社会的責任は持続性がないので、CSV(Creating Shared Value)、つまり経済的価値と社会的価値を同時に追求していく必要があると、以前から考えていました。
その考え方が如実に現れるのが、スポーツ・地域創生事業です。これまでCSRの一環としてスポーツ・地域創生に取り組んできた企業は、収益性は二の次、スポンサーにお願いして資金を出してもらうという構図がありました。我々は、その世界には持続性がなく、心理的にもフェアではないと考えており、我々自身がリスクを取り社会的価値と経済的価値を両立させるCSVモデルにチャレンジしたいと考えています。

これを実践するため、我々は2024年の完成を目指し、日本初の民間スタジアムを中核施設として、スタジアムが見えるホテルと、5,000人規模のアリーナ、商業施設、オフィスビルを建てるという「長崎スタジアムシティプロジェクト」をスタートしました。このスタジアムでサッカー「V・ファーレン長崎」がJ1の優勝争いをし、アジアチャンピオンズリーグの試合を開催し、バスケでは「長崎ヴェルカ」がアリーナでB1の優勝争いをするなど、長崎から全国を元気にしたいと考えています。このプロジェクトが成功を遂げ、それをもとに全国の事業者が同様のプロジェクトを立ち上げ、その輪を通じて日本全体を元気にしたい、それがジャパネットの描く未来のビジョンです。

【参考】

2021.12.03

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