【オンライン会談】顧客の真意を読み解く、攻めのアンケート。NPS調査×ナッジ活用で顧客感情の可視化と行動変容を両立
「自社のサービスや製品に、顧客はどれくらい満足しているのか?」
顧客ロイヤルティーの把握は、今後の課題やサービスの強みを知るうえで最も重視すべきポイントです。
今回お話を伺った北海道ガス株式会社さまは、省エネ情報や使用量・料金が確認できる北ガスマイページ「TagTag」の運用にあたってNPS調査アンケートを進めていたものの、より深い知見の獲得や、顧客情報の分析にお悩みでした。
そこで、トッパンフォームズ(現 TOPPANエッジ)がアンケートのNPS設問設計や結果分析をお手伝い。
これまでの分析では見えなかった"顧客の感情"を明確にすることで、TagTagの強みや改善の方向性の発見につながりました。さらに、アンケート内で顧客の省エネ行動を促すナッジ理論を活用し、顧客が宣言した省エネ行動による年間削減金額は、のべ4,000万円相当にもなりました。
今回は、北海道ガスの橋本さんと安岡さんに、自社でNPS調査や分析を行う課題やアンケート結果を経ての新しい気づき、調査設計時の思いなどについて、弊社の田代と中島がお話を伺いました。
新型コロナウイルス感染拡大の情勢を考慮し、オンラインでのインタビューを実施しました。
・NPS調査とは
NPS(Net Promoter Score)※は「友人や同僚に勧めたいか?」という究極の一問への回答から算出できる指標。顧客満足度や、具体的な不満点の内容、ブランド評価を上げるための要素を抽出することができます。収益性との相関が高く、プロジェクト内の共通指標として活用できるため、国内の導入企業が増加しています。
※ ネット・プロモーター、 NPS、NPS関連の絵文字、 ネット・プロモーター・スコア、およびネット・プロモーター・システムは、ベイン・アンド・カンパニー、サトメトリックス・システムズ、フレッド・ライクヘルドの商標またはサービスマークです。
・ナッジとは
選択の自由を残したうえで、より望ましい選択肢に気づかせる誘導。人間の意思決定に関するバイアスを考慮して望ましい選択ができるように手助けします。
ゲスト
北海道ガス株式会社
エネルギーサービス事業本部
スマートエネルギー推進室 主査
橋本 佳季さん
エネルギーサービス事業本部
スマートエネルギー推進室 主任
安岡 弥生さん
インタビュアー
トッパン・フォームズ株式会社
企画販促統括本部 販売促進本部 リージョン企画販促部 リージョン企画グループ
田代 良太郎
営業担当
営業統括本部 東日本事業部 北海道営業本部 第2グループ
中島 大翔
※ 所属・役職、本事例の内容は執筆当時のものです。
※ トッパン・フォームズ株式会社は2023年4月1日付でTOPPANエッジ株式会社に社名変更いたしました。
NPS調査を自社サービスの客観的評価の指標に
中島:弊社に発注いただく前から、NPS調査を実施されていたんですよね。
安岡さん:はい。私たちが担当する以前の担当者が数回行っていました。これからTagTagの改善を進めるうえで、まずはお客さまにどう認識されているのかを知ることが重要。NPS調査なら自社サービスを客観的に評価するための指標になると知り、継続していきたいと考えてはいましたが、どうすればいいか分からなくて困っていたんです。
橋本さん:そうしたら、ちょうどトッパンフォームズさんからご提案いただいて。
安岡さん:今までアンケートというと、回答がイエスなのかノーなのか、件数はどのくらいだったのかということに意識がいきがちでしたが、トッパンフォームズさんに設問の設計から助けていただけるなら、よりお客さまの真意を引き出すアンケートを作成することができるのではないかと考えました。
橋本さん:プロの方から学び、私たちも知見を蓄えたいという思いもありましたね。
NPS×ナッジで行動を促すアンケートに
田代:最初に北海道ガスさまが作成したアンケート設問を共有いただいたとき、狙いや意図を詳しく記載してくださっていましたよね。
橋本さん:私たちの部署は実験や分析を行うことを重視しており、何か施策を行う際にも、仮説を立てること、その仮説が検証できることを大切にしています。設問の狙いが明確でないと「やった意味あるの?」という結果になりかねないので、設問の背景ははじめから詰めていたんです。
中島:なるほど。そこまで検討されていたんですね。
橋本さん:ただ、仮説を立てるうえでお客さまが何を考えているのか、どんな思いでTagTagを利用しているのかなどは想像するしかなく、はっきりした答えがないものがたくさんありました。
田代:NPS調査はその答えを見つけるためのものでもあるわけですね。とても丁寧にまとめてくださっていたので、助かりました。
橋本さん:齟齬なく意図を伝えたくてお送りしたので、喜んでいただけて良かったです。
中島:ご共有を受けて弊社から新しい設問を提案させていただいた際に、ナッジも組み込ませていただきました。具体的には「この1年にどんな省エネ行動をしたか?」という設問の次に、同じ回答選択肢で「これからどの省エネ行動を実践したい?」と尋ねることで、お客さま自身に省エネ行動を宣言してもらう手法になります。
安岡さん:弊社は環境省の「省エネ行動を促すナッジ実証事業」に参画していたので「ナッジ」についてはよく知っていましたが、このようなアンケートにも活用できることは初めて知りました。
田代:アンケートは、人から意見を聞く以外にも、知らせたいことを知らせることもできるんですよね。自分で行動表明をしてもらって省エネ行動につなげることができるナッジは、北海道ガスさまの狙いとも合致すると考えて追加しました。
橋本さん:ナッジはもちろん、お客さまが日頃どういった省エネに取り組んでいるのか「こういう聞き方をすれば答えやすいのか」と思ったことも印象に残っています。設問を通して省エネに関心を持っていただけるきっかけにもなりました。
中島:回答選択肢には「この省エネ行動をすれば年間最大〇〇円の節約」といった明確なメリットを北海道ガスさまに追加していただいたので、よりお客さまの関心を引いたんじゃないでしょうか。
安岡さん:ナッジのご提案を見たときに、TagTagに掲載している省エネアドバイスや節約金額情報がそのまま活かせるなと考えてご相談しました。
橋本さん:お客さまが「あ、じゃあこれ実際やってみよう」って思いやすいですよね。
田代:「省エネ行動だけでなく、省エネ換算金額も入れたい」ってご相談いただいたとき、もう絶対面白いと思って!こちらが提案したことが20倍くらいになって返ってきた感じでしたね。ナッジに金額まで入れたのは初めてです。
安岡さん:省エネ効果を算定できるのは、エネルギー会社である私たちの強みですからね。
新しい試みにチャレンジする、不安と覚悟
田代:今回、「TagTagを友人や同僚にどれくらい勧めたいと思いますか」というNPS設問をアンケート先頭に置くご提案をした際、最初は戸惑われていましたよね。
安岡さん:これまで作成したアンケートでは性別や年齢などお客さまが回答しやすい設問を最初に、回答に悩みそうなNPS設問は最後に置いていました。なので今回ご提案いただいたようにNPS設問を先頭に置くのは私たちにとっては今までと真逆の取り組みでした。回答するお客さまの心理も考えると、最初にNPS設問を置くのはどうしても唐突な感じがしたんです。
田代:そうですよね。お気持ちは痛いほど分かりましたが「NPS設問を最後にもってくると、それまでの設問や回答にバイアスを受けてしまって正しいNPSが測れなくなる」と、かなり力説した記憶があります(笑)。
橋本さん:お話を聞いて納得して、先頭に配置することにしたんです。
安岡さん:せっかくお願いしたので、ご指摘いただいて「良いな」と思ったことはすべてやろうという覚悟もありました。
中島:覚悟(笑)。
弊社への発注に関して、お二人がかなり熱意を持って上司の方に話していただいたって伺ってますし、熱意がすごいですね。
田代:たしかに、ほかのクライアントとの商談でも、同じように「先頭NPSは見慣れない」という意見が多いんですよ。ですが、分析をする立場からすると、実際に先頭にあった方が良い結果になることが多い印象もあったので、強くお願いしてしまいました。結果として、従来のアンケート回収率と大きな差異もなかったようで良かったです。
中島:社内での反応はいかがでしたか?
安岡さん:アンケート公開直前に部署内でテストを実施したときにも、「最初にこの設問?」って驚かれたんですけど、そこは田代さんに聞いた話をそのまま話して納得してもらいました。
橋本さん:設問の順番以外にも、今まで見逃しがちだった接続詞や言い回しなどの表現について、意図が間違って伝わることのないよう、公開の直前まで何度もご相談させていただきました。
安岡さん:第三者である田代さんに見ていただくなかで、設問をもっと良くする過程を踏んでくださっていることをしっかり実感できていたので、最後は不安なくお客さまにアンケートをお届けすることができました。
田代:打ち合わせがリモートになったり、対面でのコミュニケーションが難しいなか、現地営業の中島さんのフォローがあったからこそですよ!
中島:ありがとうございます!
“攻めのアンケート”で得られた想定外の新発見
田代:アンケートの結果、NPS数値とともに、本当にいろいろなことが分かりましたね。
橋本さん:そうですね。最も知りたかったことの一つとして、70%以上の方から「TagTagが省エネの役に立っている」という回答が得られました。さらにTagTagを省エネに活用している方はNPSが高い推奨者であることが分かり、とてもうれしかったですし、大きな励みになります。
安岡さん:今まではTagTagへの訪問者がどういう方か、その意思や気持ちなどの感情面を読み取ることはできませんでした。これまでアクセス件数という数字だけの評価だったものが、アンケートを通して感情の部分が表れて、評価に奥行きや深みが加わった気がします。今後も省エネコンテンツの改善を進めてTagTagに満足していただければ、NPS向上につながることに気づけたのもとても大きかったです。
田代:最初に仮説を立てるとおっしゃっていましたが、想定内でしたか?
安岡さん:TagTagを知ったきっかけを問う設問で、一番多い回答ではなかったんですが、弊社の営業担当者やご友人から人づてにTagTagを知った方は推奨度が高いという結果がでました。これはまったく想像していませんでしたね。
中島:ナッジを活用したことで「新しい省エネの気づきになった」というご意見も届いたそうですね。
橋本さん:意図したことがちゃんと伝わっているのが本当にうれしかったです。今回、アンケートと省エネ訴求を両立させた、これまでにない“攻めのアンケート”を実現できたと考えています。今後の省エネ戦略としても、一つの武器として取り入れていきたいです。
田代:“攻めのアンケート”と言っていただきましたが、私もこんなに攻めたのは実は初めてで…。その後の集計分析中もどんどん面白い結果が見つかって、報告書が想定の倍ほどになってしまいました。
橋本さん:アンケート結果同様、報告書も想定を超えてきてくださいましたよね(笑)。感謝しかないです!
田代:とても役立つ結果が得られたので、しっかり多角的に分析しておきたかったんです。アンケート結果は時間がたつと振り返る機会が少なくなってしまうので、御社内で共有していただけるよう意識しながら、分かりやすく、面白くという観点でつくりました。
安岡さん:色分けなど、とても見やすく構成していただいていたので、別の分析資料をまとめる際に参考にさせていただいています(笑)。
アフターコーディングで回答の真意を読み解きたい
中島:今回、アンケート回答締め切り後に自由回答欄のアフターコーディング(回答を人間が見て、意味分類フラグをつけて集計できるようにする作業)をご発注いただきました。
安岡さん:もともと社内で分析しようとも考えていたんですが、どんどん届く回答を読み進めるうちに「一つも取りこぼしてはいけない」「真意を見極めたい」という思いが強くなりました。そこで、もう一度トッパンフォームズさんの力を借りたいと思ったんです。
中島:この分析には、テキストマイニング(頻出単語の機械集計)という選択肢もありましたが、アフターコーディングを選ばれたのはどうしてですか?
安岡さん:テキストマイニングも集計方法として有効だと思うんですが、同じ単語でも複数の意味を持つ場合があるので、その文意をきちんと読み解いてほしかったんです。
橋本さん:特に自由回答欄は何%がどうっていう明確な結果が出るものではないですよね。数は少なくても本質的な課題を表すこともありますし、改善点の宝庫だと考えていたので、「読み解く」ことが重要だったんです。
田代:これまでは、納得できるところまではできていなかったということでしょうか?
安岡さん:そうですね。過去施策で、部署内で自由回答をカテゴライズして分析して…という経験はありましたが、約1,000件規模のもの。今回は回答数が7,000件を超えているので、私たちだけではまとめることも、要点を抽出することもできなかっただろうと思います。
橋本さん:私たちが分析すると、結果を読み解く際に無意識に偏りが出てしまう危険性もあると思っていて。第三者に見ていただく方が、客観的な視点で分析していただけるだろうと。さらに、アンケート結果を受けてソリューション提案をしていただけるのも、トッパンフォームズさんの強み
でしたので、こちらへの期待もありました。
改善点が明確になり、方向性が定まった
中島:今施策の結果はいかがでしたか?
橋本さん:アフターコーディングをお願いしたことで、同じ単語を使っていたとしても推奨者にはポジティブな感情があることが分かりました。これまでは感情まで判断できなかったので、その違いに気づけたのはとても意味がありました。
安岡さん:お客さまにもっとポジティブな印象を与えるためにはどういったアクションが必要なのかを考えるうえで、非常に参考になりますよね。
田代:「たまったポイントを使って、大切な方にプレゼントを贈ることができた」と、ステキなエピソードもありましたね。
橋本さん:そうなんです。単語の抽出だけでは気づけない、うれしい発見でした。
安岡さん:あとは、NPSクロス集計をしていただいたことで、NPSが高い方は省エネコンテンツにご満足いただけているとか、年代や住居の形態によっての回答の違いなどにも気づくことができました。
田代:今後もNPS調査やナッジを組み込んでアンケートを作成していく予定ですか?
橋本さん:はい。NPS調査の方法や知見を蓄えることができたので、TagTagについてはNPSを定点的に計測していこうと考えています。
中島:定点的というと、タイミングはもう決めているんですか?
橋本さん:基本的には半年、もしくは年に一度ですね。その間にも省エネやポイントに関する施策など能動的にアクションを仕掛けて、その取り組みがお客さまの行動や感情、NPSにどうつながったのかというところまで分析していきたいです。
安岡さん:TagTagもリリースから5年目。環境の変化やお客さまのニーズの変化にあわせてコンテンツも改善していく必要があります。アンケートで集めたお客さまの声を大切に進めていきたいですよね。
中島:お客さまがTagTagに求めているものが、アンケートで見えてきましたもんね。
田代:改善の進め方はもう決められましたか?
安岡さん:まだ具体的なことは決まっていませんが、お客さまが定期的にアクセスしたくなる要素をもっと設けたいですね。TagTagでは少なくとも月に一度は、電気とガスの使用量と料金をお知らせすることで必ずお客さまとつながるチャンスがあります。その機会に「TagTagにまたログインしよう」と思っていただけるような仕組みをつくりたいです。
田代:インフラ業界は「生活に必要だから関わる」という立場の消費者が多いので、アクセス増加は業界全体の課題でもあると思います。簡単な改善だと、「使用量確認」を「一緒に使用量を確認しませんか」というように、コピーライティングを変えるだけでも与える印象は大きく変わりますよね。「北海道ガスを利用していて良かったな」とお客さまが感じられる瞬間づくりに、これからもサポートさせていただければと思います。
橋本さん:先ほどお話ししたように、TagTagを人づてに紹介されたほうが推奨度が高いという結果があったので、社内外問わずTagTagの良さを共有する周知活動にも力を入れていきたいです。TagTagの改善だけでなく、今後やってみたいことがどんどん増えました。
安岡さん:幅広く今後の施策を考えられるのも、今回のアンケートでTagTagの強みを明確にできた結果です!
中島:そう言っていただけると励みになります!本日はありがとうございました。
※ 所属・役職、本事例の内容は執筆当時のものです。
※ トッパン・フォームズ株式会社は2023年4月1日付でTOPPANエッジ株式会社に社名変更いたしました。
2021.07.27