コラム

欧州発・包装資材の大転換!
EUプラスチック規制(PPWR他)への企業対応と代替素材の最前線

変化の激しい世界情勢の中、欧州連合(以下、EU)のプラスチック規制は企業にとって新たな課題を投げかけています。2024年12月に公表されたPPWR(包装および包装廃棄物規制)は、今後多くの企業が対応を迫られる中、コスト増や製品設計の見直しに直面しています。(*1)(*2)しかし、これら規制は同時に、サステナブルな事業転換のチャンスでもあります。

本記事では、EUプラスチック規制の詳細から具体的な対応策、さらには競争優位性を築くための戦略まで、プラスチック規制に関わる皆さまが直面するさまざまな課題の解決策を、実践的な視点からご紹介します。


1)迫るEUプラスチック規制、企業が直面する課題

1-1)使い捨てプラスチック製品の禁止と削減目標

EUは、使い捨てプラスチック製品の使用を削減するため、特定の製品に対する禁止措置を導入しています。2021年から、プラスチック製のストロー、カトラリー、食品容器などが市場に出回ることを禁止し、これにより海洋プラスチックごみの削減を目指します。

また、EUは2040年までにプラスチック廃棄物を50%以上リサイクルすることを目標に掲げており、企業はこれに対応するための戦略を見直す必要があります。これにより、企業は持続可能な代替品の開発や、消費者への意識啓発を進めることが求められています。

1-2)リサイクル率向上のための新たな基準

EUでは、2030年からはプラスチック包装におけるリサイクルプラスチックの最低含有率が導入される予定で、これにより企業はリサイクル素材の使用を増やすことが求められます。このような基準は、企業にとってコストや技術的な課題を伴うものの、持続可能な経済への移行を促進する重要なステップとなります。

1-3)企業に求められるサプライチェーン全体の変革

EUのプラスチック規制は、企業にサプライチェーン全体の変革を求めています。特に、使い捨てプラスチックの禁止や再利用可能な包装の義務化により、企業は持続可能な材料の採用やリサイクルプロセスの改善を迫られます。

これにより、製品設計から廃棄物管理までの全ライフサイクルを見直し、環境負荷を低減する必要があります。規制遵守はコストや技術的な課題を伴いますが、長期的には競争力の向上につながる可能性があります。


2)プラスチック削減における重要なEU規制(PPWRとSUP指令他)や政策

EUにおけるプラスチック規制は、環境保護と持続可能な資源利用を目的とした多岐にわたる法令や規則から成り立っています。以下に、特に重要な規則や法令をまとめてご紹介します。

2-1)包装および包装廃棄物規制(PPWR)

EUの包装・包装廃棄物規制(PPWR)は、包装廃棄物の削減と資源循環を促進する新たな枠組みです。2030年までに包装廃棄物5%削減、全包装のリサイクル可能化を義務付けています。その規制内容は、過剰包装の禁止や環境配慮設計、情報提供義務も含まれます。EU域内だけでなく、製品を供給するすべての企業が対象となり、国際ビジネスにも影響を与える重要な規制です。そのため企業は対応の準備が求められます。詳細は、6-1)を参照ください。

2-2)使い捨てプラスチック指令(SUP指令)

EU使い捨てプラスチック指令(SUP指令)は、海洋ごみ問題解決のため、特定の使い捨てプラスチック製品の使用を減らすことを目的としたEUの法令です。

海岸ごみの約8割を占める綿棒、カトラリー、皿、ストローなど10品目の販売を禁止し、代替品の利用を促進します。さらに、プラスチック製の食品容器などの消費を抑制する措置や、生産者に廃棄物処理の責任を課すなど、多角的な規制を設けています。

2030年までにすべての包装材をリサイクル可能にすることを目指し、環境保護と持続可能な経済への移行を推進します。この規制は2021年7月3日から施行され、特定の使い捨てプラスチック製品の市場への流通を禁止しています。

なお、SUP指令で対処されている10項目は次のとおりです。

• 綿棒スティック
• カトラリー、皿、ストロー、スターラー
• 風船と風船用スティック
• 食品容器
• 飲料用カップ
• 飲料容器
• タバコの吸い殻
• ポリ袋
• パケットとラッパー
• ウェットティッシュと生理用品

2-3)EUのプラスチック戦略

欧州委員会は2018年、循環型経済実現に向けたEU全体のプラスチック戦略を発表しました。この戦略は、使い捨てプラスチックの削減、マイクロプラスチックの意図的な使用禁止に加え、2030年までにEU市場に出回るすべてのプラスチック包装をリサイクル可能にすることを義務付けています。

EUプラスチック戦略の主な目的は、2030年までにEU市場の全プラスチック包装をリサイクル可能・再利用可能にすることです。使い捨てプラスチックの消費を削減し、2025年までにプラごみの50%をリサイクルすることを目指します。

2-4)拡大生産者責任(EPR)指令

EUの拡大生産者責任(EPR)指令は、製品の環境責任を生産者に課す政策です。製品の設計から廃棄まで、ライフサイクル全体で環境負荷を考慮させ、廃棄物の削減とリサイクルの促進を目指します。

生産者は、使用済み製品の回収・リサイクル費用を負担し、リサイクル可能な素材の使用や環境負荷の低い製品設計を促進。EU加盟国はEPRに基づいた制度を設け、廃棄物抑制とリサイクル率向上を図ります。消費者の環境に優しい製品選択を促し、持続可能な社会の実現を目指す重要な政策です。

2-5)マイクロプラスチック規制

EUは、環境・公衆衛生保護のため、2023年にマイクロプラスチック規制を導入しました。この規制は、化粧品や洗剤などへの意図的なマイクロプラスチック添加を禁止し、化学物質の登録、評価、認可、制限に関する規則(REACH)に基づき、一定濃度以上の合成ポリマー微粒子を含む製品を制限します。

規制は段階的に実施され、マイクロビーズなどが禁止されました。対象は人工芝、化粧品、洗剤などのマイクロプラスチック排出源となる製品です。

この規制により、マイクロプラスチックの水域や土壌への流出を防止し、食品や飲料水への混入リスクを低減することで、公衆衛生の向上を図ります。この取り組みを通じて持続可能な社会の実現を目指すため、企業には環境に優しい代替素材の開発や製品設計の見直しが求められています。


3)脱プラスチックを加速する代替素材の最前線

3-1)植物由来のリサイクルプラスチックの可能性と課題

植物由来のリサイクルプラスチックは、再生可能でカーボンニュートラルに貢献するため、脱プラスチックの有望な素材です。食品包装から自動車部品まで用途は多様ですが、課題もあります。

石油由来のプラスチックと比べて製造コストが高く、生分解性が限定的な条件下でしか発揮されません。さらに、原料となる植物の栽培が食料生産と土地利用で競合する懸念もあります。これらの課題を解決するには技術革新と政策的な支援が不可欠ですが、これらが実現されれば、環境負荷の少ない持続可能な社会への貢献が期待できます。

3-2)紙や段ボールなど伝統的素材の進化と応用

脱プラスチックの流れの中で、紙や段ボールなどの従来素材も技術革新により進化を遂げています。新しい加工技術により耐水性や耐久性が向上し、食品包装材として優れた鮮度保持効果を発揮しています。特に環境に配慮したコーティング技術を活用することで、プラスチックと同等の性能を実現しながら、高いリサイクル性も維持しています。

さらに、これらの紙製素材の用途は包装材にとどまらず、建材やインテリア製品にまで広がっています。こうした素材は環境負荷を低減できることから、持続可能な社会の実現に向けた有力な選択肢として注目を集めています。

3-3)リサイクルしやすい新素材の開発動向

脱プラスチックに向け、リサイクルしやすい新素材開発が加速しています。例えば、自然に分解される生分解性プラスチック、植物由来のバイオマスプラスチックなどが登場しています。

プラスチック廃棄物のリサイクル技術として、化学的処理により新たな原料を生み出す「ケミカルリサイクル』が注目を集めています。この技術は、さまざまな種類が混ざった複雑なプラスチックごみからでも、新品と同等の高品質な原料を再生できる特長があります。

また、使用済みプラスチックを直接加工して新しい製品を作る「マテリアルリサイクル』の取り組みも進展しています。これらの革新的なリサイクル技術は、増え続ける廃プラスチック問題の解決に向けた重要な一歩として、実用化と普及が期待されています。


4)欧州のフレキシブル包装業界をリードするCEFLEXとは

CEFLEX(Circular Economy for Flexible Packaging)は、欧州のフレキシブル包装業界における循環型経済を推進するための重要なイニシアチブです。このコンソーシアムは、180以上の企業、団体、組織が参加しており、フレキシブル包装の全バリューチェーンを代表しています。CEFLEXの主な目的は、すべてのフレキシブル包装を回収し、リサイクル可能な形で設計することです。

4-1)CEFLEXの目標と活動

●循環型経済の実現
CEFLEXは、欧州全体でフレキシブル包装を循環型にすることを目指しています。これには、使用済み包装の回収、分別、リサイクルのインフラを構築することが含まれます。

●デザインガイドラインの策定
CEFLEXは、リサイクル性を高めるためのデザインガイドラインを作成し、包装材料の設計を改善することに注力しています。これにより、リサイクルされた材料が新たな市場で価値を持つようにすることを目指しています。

●ステークホルダーの協力
CEFLEXには、原材料の生産者、包装メーカー、ブランドオーナー、リサイクル業者など、バリューチェーン全体の関係者が参加しています。これにより、技術的およびビジネス上の課題を共同で解決し、持続可能な包装ソリューションが推進可能となっています。

4-2)EU軟包装市場の成長とその背景

フレキシブル包装は、加工食品、調理済食品、化粧品など多くの業界で広く使用されており、その市場は急速に成長しています。環境への配慮が高まる中、持続可能な包装ソリューションの需要が増加しており、CEFLEXはその中心的な役割を果たしています。
CEFLEXは、持続可能な未来に向けた重要なステップを踏み出しており、業界全体の協力を通じて、フレキシブル包装のリサイクルと循環型経済の実現を目指しています。


5)EUプラスチック規制対応とビジネスチャンスを両立させる戦略

5-1)環境負荷低減とコスト削減の両立

EUのプラスチック規制に対応しビジネスチャンスをつかむには、環境負荷低減とコスト削減の両立が重要です。そのためには持続可能な素材への転換、リサイクルの促進、省エネ化による環境負荷低減が必要となります。また製造プロセスの効率化、サプライチェーンの見直しでコスト削減を行い、リユースやリサイクルを促進する循環型ビジネスモデルを導入することが求められます。これらの戦略で、規制対応と競争力強化を両立できます。

5-2)消費者ニーズに応えるサステナブルな包装

EUのプラスチック規制に対応した環境配慮型の包装は、消費者ニーズを満たすだけでなく、企業の競争力を高める重要な要素となっています。具体的には、リサイクル可能な素材や生分解性素材の採用、さらに無駄を省いたシンプルな設計が求められています。

また、包装の環境負荷低減効果を消費者に分かりやすく説明し、その情報の透明性を開示することで、企業の環境への取り組みに対する消費者の理解と共感を得ることができます。

環境に配慮した包装設計は、リサイクル素材の活用や材料の最適化によるコスト削減も期待できます。さらに、このような取り組みは企業のブランド価値を向上させ、市場での競争優位性の確立にもつながります。

5-3)規制を先取りする企業戦略と成功事例

EUのプラスチック規制に対応しビジネスチャンスを広げるには、先を見据えた戦略が不可欠です。持続可能な素材(再生可能素材やリサイクル素材)を積極的に採用し、製品設計段階から環境に配慮したエコデザインを取り入れましょう。

また、製品の環境負荷やリサイクル情報を消費者に開示し、透明性を確保することが重要です。

成功事例として、ユニリーバ社、ネスレ社は、リサイクル素材の使用目標を設定、リサイクルプログラム強化など、規制を先取りする取り組みで競争力を高めています。

●ユニリーバ社の事例
ユニリーバは、プラスチック汚染を終わらせるという野心的な目標を掲げ、「削減」「循環」「コラボレーション」の3つの柱で活動を推進しています。

「削減」においては、バージンプラスチックの使用量を2028年までに40%削減することを目指し、すでに2019年比で23%削減を達成しました。再生プラスチックの利用率も2025年までに25%に高める目標(2024年実績21%)を掲げ、包装材の軽量化、紙などの代替素材への転換、リユース・リフィルモデルの導入を進めています。

「循環」では、全てのプラスチック包装を再利用・リサイクル・堆肥化可能にすることを目指します(現状57%)。また、販売する量以上のプラスチック包装を回収・処理する目標(2024年実績93%)も設定。リサイクルしやすい設計への変更や、途上国の廃棄物回収インフラへの投資も行っています。

「コラボレーション」としては、業界や政府、NGOと連携し、国連プラスチック汚染防止条約の制定を主導するなど、国際的なルール作りやインフラ整備、拡大生産者責任(EPR)制度の導入を働きかけ、システム全体の変革を後押ししています。(*3)

●ネスレ社の事例
ネスレは、プラスチックを含む全パッケージが埋め立て・投棄されない「ごみのない未来」を目指しています。2025年までにパッケージの95%以上をリサイクル可能またはリユース可能にし、バージンプラスチックの使用量を3分の1削減することを目標としています。現在、全パッケージの85.8%がリサイクル可能/リユース可能で、バージンプラスチック使用量は10.5%削減を達成済みです(2022年末)。

この実現に向け、代替素材(紙、単一素材)の開発、リユース・詰め替えモデルの推進、リサイクル困難なプラスチックの段階的廃止を進めています。再生プラスチック市場の形成支援のため最大20億スイスフランを投資し、ネスレ パッケージング研究所で技術開発にも注力しています。さらに、回収・リサイクルインフラ整備支援や消費者への情報提供も強化し、プラスチックごみ問題解決に貢献しています。(*4)


6)TOPPANの技術力がPPWRをビジネスチャンスに変える

6-1)EU理事会で25年1月に発表されたPPWRについてご紹介

EUのPPWRは、包装廃棄物の削減と持続可能な包装の促進を目的とした新しい法令です。この規制は、2024年12月にEU理事会と欧州議会の間で暫定合意に達し、2025年1月22日に欧州連合官報で公表されました。なお、本規制は2025年2月11日に発効し、かつ18か月後に適用されます。したがって、EU加盟国への適用は2026年8月12日からとなります。

●PPWRの主な目的
・包装廃棄物の削減
2030年までに、EU加盟国は2018年を基準にして包装廃棄物を5%削減することが求められています。さらに、2035年には10%、2040年には15%の削減を目指します。
・リサイクルと再利用の促進
すべての包装が2030年までにリサイクル可能であることを義務付けています。また、包装材のリサイクル率を向上させるための具体的な目標も設定されています。
・過剰包装の禁止
不要な包装を減らすための規制も含まれており、特定の使い捨て包装の制限が設けられています。

●PPWRの規制内容
PPWRは、以下のような具体的な規制を含んでいます。
・包装材の基準
EU市場に流通するすべての包装材は、環境に配慮した設計である必要があります。これには、リサイクルしやすい材料の使用や、再利用可能な包装の開発が含まれます。
・情報提供の義務
製造業者や輸入業者は、包装がPPWRの基準に適合しているかを確認するための情報を提供する義務があります。
・適用範囲の広さ
PPWRは、EU加盟国だけでなく、EU市場に製品を供給するすべての企業に影響を与えるため、国際的なビジネスにも重要な意味を持ちます。

【参考資料】PPWRまとめ

●TOPPANのPPWRへの対応
TOPPANは、EUの新しいPPWRに対応するため、さまざまな取り組みを進めています。PPWRは、2030年までにすべての包装を再利用またはリサイクル可能にすることを義務付けており、これにより環境負荷の低減が求められています。

6-2)TOPPANが進めるPPWR対応の施策

PPWRへの対応ポイントは以下の2点となります。
来たる2030年に向けて、欧州向け輸出製品用パッケージで準備を始めておくべきポイントは以下の2つです。

①プラスチック容器包装のモノマテリアル化
②プラスチックのリサイクル原材料使用に関する国際認証の取得

【参考資料】TOPPANのPPWR対応

6-3)PPWRに対応したバリアフィルムやモノマテリアル商材のご紹介

●TOPPANのバリアフィルム
TOPPANのバリアフィルム「GL BARRIER」は、高いバリア性能を持つ透明バリアフィルムで世界トップシェアを誇ります。独自の技術で、水蒸気や酸素を通しにくく、食品や医薬品の品質保持に貢献します。また環境にも配慮し、CO2排出量削減や焼却時の有害ガス抑制を実現します。電子レンジ対応や金属探知機使用も可能で、幅広い用途に対応しています。

●TOPPANのモノマテリアルパッケージとは
TOPPANのモノマテリアルパッケージは、リサイクル適性向上とCO2排出量削減に貢献する環境配慮型ソリューションです。複数の素材を単一素材に置き換えることで、リサイクル時の分離が不要となり、再生利用を促進します。特にアルミ箔の使用を削減することで、製造時のCO2排出量を抑えます。世界トップシェアの透明バリアフィルム「GL BARRIER」で培った技術を活かし、高いバリア性能を維持したままモノマテリアル化を実現します。

【参考資料】モノマテリアルとは

出典
(*1)レギュレーション - EU - 2025/40 - EN - EUR-Lex
   https://eur-lex.europa.eu/eli/reg/2025/40/oj/eng
(*2)EU理事会、包装・包装廃棄物規則案を採択、18カ月後から順次適用開始へ  (EU) | ビジネス短信 -ジェトロの海外ニュース - ジェトロ
https://www.jetro.go.jp/biznews/2024/12/19efe2cf2d23f7e1.html
(*3)https://www.unilever.com/sustainability/plastics/
(*4) https://www.nestle.co.jp/aboutus/ask-nestle/answers-plastics

2025.06.05

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