コラム

【最新】介護職の離職率は高い?
介護業界の離職率推移や退職理由を解説

介護業界は人手不足が深刻な問題となっており、その背景には高い離職率が影響しています。介護職は社会的に重要な役割を担う一方で、給与や労働環境、人間関係などの課題から退職を選ぶ人も少なくありません。しかし、近年では処遇改善や働き方改革が進められ、離職率の低下に向けた取り組みも強化されています。

本記事では、介護職の離職率の推移や職種・施設ごとの違いを解説し、離職理由の具体的な要因を掘り下げます。また、離職率の改善に向けた施策や、職員が定着しやすい事業所の特徴についても紹介します。介護業界の現状を把握し、より良い職場環境づくりのヒントとして役立ててください。


■介護職の離職率の実態
1|介護職の離職率の推移と変化
2|職種別・施設形態別の離職率比較
■介護職員の離職理由と背景
1|給与・待遇面での不満
2|職場環境や人間関係の課題
3|キャリアアップの機会不足
4|心身の負担とワークライフバランス
■介護職の離職率改善に向けた取り組み
1|介護職員処遇改善加算の効果
2|働き方改革と労働環境の整備
3|教育研修体制の充実化
■介護職の定着率を高める事業所の特徴
1|成功している事業所のポイント
2|離職率の低い職場環境づくり
3|人材育成と評価制度の整備
4|ICTやAI導入による職員の負担軽減
■まとめ


■介護職の離職率の実態

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公益財団法人介護労働安定センターが実施した「令和5年度介護労働実態調査」によると、介護職の離職率は13.1%となっています。この数値は、全産業の平均離職率15.4%と比較すると2.3ポイント低く、介護職の離職率が特別に高いというわけではないことがわかります。

近年の介護業界では、職員の定着に向けた取り組みが積極的に行われており、その効果が徐々に表れています。職種別、施設形態別、年齢別、法人格別など、さまざまな角度から離職率の実態を見ていきましょう。

参照:公益財団法人介護労働安定センター|令和5年度「介護労働実態調査」結果の概要について

1|介護職の離職率の推移と変化

年度

離職率

前年度比

2019年度

15.4%

-

2020年度

14.9%

-0.5%

2021年度

14.3%

-0.6%

2022年度

14.4%

+0.1%

2023年度

13.1%

-1.3%

2019年度から2023年度にかけて、離職率は2.3ポイント減少しました。特に2023年度は前年度比-1.3%と大幅な改善を見せています。この背景には、介護職員処遇改善加算の拡充や、働き方改革の推進による労働環境の改善が影響していると考えられます。

2|職種別・施設形態別の離職率比較

介護業界の離職率を詳しく理解するには、職種や施設形態などの切り口から分析することが重要です。それぞれの特徴や傾向を把握することで、より効果的な定着支援策を検討することができます。

以下、各区分における離職率の特徴を見ていきましょう。

― 職種別の離職率 ー

施設形態によって業務内容や勤務形態が異なるため、離職率にも大きな差が生じています。

【施設形態別の離職率(2023年度)】

施設形態

離職率

介護老人福祉施設(特養)

11.9%

介護老人保健施設(老健)

11.8%

特定施設入居者生活介護(有料老人ホーム等)

17.8%

認知症対応型共同生活介護(グループホーム)

15.5%

通所介護(デイサービス)

13.4%

訪問介護

12.1%

施設形態による離職率の差は顕著です。特定施設入居者生活介護(有料老人ホーム等)が17.8%と最も高く、介護老人保健施設の11.8%と比べると6ポイントもの開きがあります。また、認知症対応型共同生活介護も15.5%と比較的高い離職率を示しています。

ー 年齢別の離職率 

年齢層による離職率の違いは、キャリア形成や職場定着における重要な指標となっています。

【年齢別の離職率(2023年度)】

年齢層

離職率

29歳以下

20.4%

3039

12.7%

4049

11.8%

5059

11.3

6064

10.7

65歳以上

10.6

年齢層による離職率の違いも明確です。29歳以下の若年層が20.4%と突出して高い離職率を示している一方、年齢が上がるにつれて離職率は低下し、65歳以上では10.6%まで下がっています。この結果は、若手職員の定着支援が重要な課題であることを示唆しています。

― 法人格別の離職率 ー

運営主体の違いによる離職率の差は、経営方針や労働環境の特徴を反映しています。

【法人格別の離職率(2023年度)】

法人格

離職率

民間企業

15.0%

社会福祉法人

12.1%

医療法人

12.0%

法人格別では、民間企業の離職率が15.0%と最も高く、社会福祉法人(12.1%)や医療法人(12.0%)と比べて約3ポイントの差があります。これは、経営の安定性や福利厚生の充実度の違いが影響している可能性があります。

■介護職員の離職理由と背景

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介護職員の離職には、さまざまな要因が複雑に絡み合っています。介護労働安定センターの実態調査によると、離職理由は給与・待遇面の不満から職場環境の問題、さらにはキャリア形成の課題まで多岐にわたります。

これらの要因を詳しく分析することで、効果的な定着支援策を考えることができます。

1|給与・待遇面での不満

給与水準は介護職員の離職を左右する重要な要因となっています。実態調査によると、「収入が少なかったため」を理由に離職した職員は16.6%に上ります。

職員の平均月給は241,296円であり、業界全体としては年々改善傾向にあるものの、依然として待遇面での不満は根強く残っています。特に、賃金に対する満足度は他の項目と比べてマイナス18.0ポイントと最も低い値を示しています。

2|職場環境や人間関係の課題

離職理由の中で最も高い割合を占めているのが「職場の人間関係に問題があったため」で34.3%となっています。その具体的な内容としては、「上司の思いやりのない言動、きつい指導、パワハラなど」が49.3%、「上司の管理能力が低い、業務指示が不明確」が43.2%と、上司との関係性に起因する問題が目立ちます。職場の人間関係の改善は、職員定着の重要な鍵となっています。

3|キャリアアップの機会不足

介護職のキャリアパスが不明確であることも、離職の要因の一つとなっています。職員がキャリアアップの機会について「満足」「やや満足」と答えた割合は21.8%にとどまり、将来の見通しが立てにくい状況が浮かび上がっています。特に若手職員の離職率が高い背景には、このキャリア形成の道筋が見えにくいという課題があります。

4|心身の負担とワークライフバランス

介護職特有の勤務形態も、離職の大きな要因となっています。夜勤や変則勤務による不規則な生活リズムは、職員の心身に大きな負担をかけています。

実態調査では「身体的負担が大きい」が29.3%、「精神的にきつい」が22.5%となっており、特に夜勤がある施設では、生活リズムの乱れによるストレスが離職につながるケースが多く見られます。また、有給休暇の取得のしにくさ(20.5%)も、ワークライフバランスを損なう要因として指摘されています。

■介護職の離職率改善に向けた取り組み

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介護業界では職員の定着率向上を目指し、さまざまな取り組みが行われています。国による処遇改善加算制度の導入、各事業所における労働環境の整備、そして教育研修体制の充実化など、複数のアプローチで離職率の改善が図られています。

それぞれの取り組みの内容と効果について見ていきましょう。

1|介護職員処遇改善加算の効果

介護職員の処遇改善を目的として、厚生労働省は介護職員処遇改善加算制度を導入しています。最高額となる加算Ⅰでは、職員1人当たり月額3万7千円が加算され、賃金改善に充てられます。この制度の活用により、賃金水準が向上したため離職率が低下したと回答した事業所は36.3%に上ります。

加算の取得には、キャリアパス要件や職場環境等要件を満たす必要があり、これらの要件を達成することで職場環境の改善にもつながっています。結果として、介護職員の給与水準は着実に上昇し、待遇面での不満による離職の抑制に寄与しています。

2|働き方改革と労働環境の整備

労働環境の改善も離職率低下に大きな効果を上げています。有給休暇の取得率は年々上昇を続け、2023年度には53.7%まで改善しました。また、残業削減や有給休暇の取得促進、シフトの見直しなどを進めた結果、これらの取り組みが離職率低下の要因となったと回答した事業所は45.6%となっています。

特に効果が高かった取り組みとして、「仕事の内容は変えずに、労働時間や労働日を本人の希望で柔軟に対応している」が52.5%と最も高い評価を得ています。職員のワークライフバランスに配慮した柔軟な勤務体制の導入が、職場定着に大きく貢献しているのです。

3|教育研修体制の充実化

教育研修体制の整備も、職員の定着に重要な役割を果たしています。上司との定期的な面談や意見交換会の実施、介護の質を高めるための価値観や行動基準の共有など、コミュニケーションを重視した取り組みが効果を上げています。

具体的には、「職場のミーティング等で、介護の質を高めるための価値観や行動基準を共有している」という取り組みが33.8%の職員から評価されています。また、定期的な面談による業務上の課題解決や、キャリアパスの明確化により、特に若手職員の定着率が改善している事例も報告されています。

これらの取り組みは、職員の成長実感とモチベーション向上につながり、離職防止に効果を発揮しています。

■介護職の定着率を高める事業所の特徴

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介護職員の定着率を高めることは、介護サービスの質の維持向上において重要な課題です。実際に離職率の低い事業所では、職場環境の整備や人材育成など、さまざまな面で工夫を凝らしています。

ここでは、職員の定着に成功している事業所の特徴と具体的な取り組みについて見ていきましょう。

1|成功している事業所のポイント

離職率の低い事業所には、いくつかの共通点が見られます。まず施設の清潔感が保たれており、職員が働きやすい環境が整備されています。衛生管理が徹底され、利用者にとっても職員にとっても快適な空間が維持されているのです。

人員配置においては、法定基準を上回る職員配置を行い、一人あたりの業務負担を適切な水準に保っています。また、給与面では介護職員処遇改善加算を積極的に活用し、業界水準を上回る待遇を提供しています。

さらに、新人教育からベテラン職員のスキルアップまで、体系的な教育制度を整備している点も特徴です。職員の成長をサポートする仕組みが整っていることで、長期的なキャリア形成が可能となっています。

2|離職率の低い職場環境づくり

職場内のコミュニケーションの活性化は、職員定着の重要な要素です。定期的なミーティングや意見交換会を通じて、職員間の意思疎通を図り、介護の質を高めるための価値観や行動基準を共有しています。これにより、チームワークの向上と職場の一体感の醸成に成功しています。

業務負担の適正化においては、残業時間の削減や有給休暇の取得促進に積極的に取り組んでいます。特に効果を上げているのが、労働時間や労働日を職員の希望に応じて柔軟に調整する取り組みです。

ワークライフバランスの確保も重視されており、育児・介護との両立支援制度の充実や、休暇を取得しやすい職場風土の醸成に力を入れています。

3|人材育成と評価制度の整備

職員のキャリアパスを明確化し、段階的な成長を支援する仕組みづくりが進められています。具体的には、資格取得支援制度の整備や、経験年数に応じた研修プログラムの実施などです。

評価制度においては、公平性と透明性の確保が重視されています。能力や実績を適切に評価し、給与や処遇に反映させる仕組みが整備されています。また、定期的な面談を通じて、職員の目標設定やキャリアプランの策定をサポートしています。

4|ICTやAI導入による職員の負担軽減

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最新のテクノロジーを活用した業務効率化も、職員の定着率向上に貢献しています。例えば、『WAN-かいご』のようなAIを活用したレクリエーション支援システムの導入により、レクリエーション業務の負担が大幅に軽減されています。

このシステムでは、500種以上のレクリエーションコンテンツの中から、利用者の状態に合わせて最適なプログラムをAIが自動で提案します。これにより、レクリエーションの準備時間が短縮され、職員の業務効率が向上しています。

さらに、見守りシステムやケア記録の電子化など、ICT技術の活用により、記録業務の効率化や情報共有の円滑化が図られています。これらの取り組みは、職員の業務負担軽減に大きく寄与しています。

■まとめ

介護職の離職率は、近年のさまざまな取り組みにより改善傾向にあります。介護職員処遇改善加算の活用や労働環境の整備、教育研修体制の充実化など、具体的な施策が効果を上げています。職場環境の改善と人材育成に注力する事業所では、着実に定着率が向上しています。介護業界に携わる方々は、これらの成功事例を参考に、自施設の状況に合わせた取り組みを実践することで、より良い職場環境を築き、質の高い介護サービスを提供することができるでしょう。

2025.04.09

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