非財務情報とは?
定義・具体例・メリットをわかりやすく解説

- TOPPAN CREATIVE編集部
2023年度より、上場企業に対して「非財務情報」の開示が義務付けられたことを受け、企業活動における非財務領域への関心が一層高まりを見せています。これまで企業価値の評価は主に財務情報を基盤として行われてきましたが、近年では、環境・社会・ガバナンス(ESG)といった非財務的要素が中長期的な成長や持続可能性を左右する重要な指標として位置付けられつつあります。
しかし、「非財務情報とは具体的にどのような項目を指すのか」「開示の際にどこまでの範囲が求められるのか」など、明確に理解できていない企業担当者も少なくないでしょう。
本記事では、非財務情報の基本的な定義に加え、代表的な開示項目や開示のメリットについて解説します。
【この記事で分かること】
・非財務情報の概要が分かる
・非財務情報が注目される理由が分かる
・非財務情報を開示するメリットが分かる
非財務情報とは
非財務情報の定義は、企業における「経営成績や財務情報以外の、数値で測れない情報」全般を指します。簡単にいえば、数値化が難しい企業の資産や活動に関する情報であり、企業の将来の価値を支える「見えない資産」ともいえるでしょう。
非財務情報は、企業が投資家や株主、債権者などに開示する情報のうち、財務情報以外のものをまとめた概念です。投資家や債権者は、財務情報だけでは企業全体の評価ができないため、非財務情報の公開は自社の価値を正しく知ってもらうためにも重要で、企業は統合報告書やサステナビリティレポート、CSR報告書などを通じて、自社の非財務情報を自主的に発信しています。
非財務情報の具体例
財務情報(貸借対照表・損益計算書・キャッシュフロー計算書など)とは異なり、非財務情報は必ずしも決まった様式で報告されるものではありません。しかし、公表する項目は国際統合報告フレームワークにより提示されています。
代表的な非財務情報の具体例を下表に紹介します。
非財務情報の項目 | 内容 |
---|---|
経営理念・経営方針 | 企業の使命や価値観、長期ビジョンなど |
経営戦略・経営課題 | 将来の成長戦略や現在直面している課題 |
ESGやCSRに関する取り組み | 環境対策、社会貢献活動、人権への配慮、コンプライアンス状況など |
ガバナンス体制 | 企業統治の仕組みやリスク管理体制、取締役会の構成・役割 |
人的資本 (ヒューマンキャピタル) |
従業員の技能や知識、従業員満足度やエンゲージメント、社内のノウハウ |
知的資産 | 特許や技術力、商品開発力、ブランド価値、優良な取引先ネットワーク |
製造物・インフラ | 自社が保有する設備やインフラなど(財務諸表上は固定資産ですが、その稼働状況や効率性といった定性情報) |
社会・関係資本 | 地域社会との関係性や評判、顧客・取引先との信頼関係 |
自然資本 | 事業に関わる環境資源の利用状況や生物多様性への影響 |
具体例に挙げたような情報を、社外向けにアピールできるよう、まとめて公表しましょう。
非財務情報とESGの関係
ESGは非財務情報のひとつです。
ESGは以下の3つの言葉の頭文字をとっています。
● Environment(環境)
● Social(社会)
● Governance(ガバナンス)
ESGは企業の環境配慮や社会貢献、ガバナンス体制を表す概念です。
ESGの取り組み状況は、そのまま企業の持続可能性やリスク管理力を示すため、投資家は企業がESGにおいてどのような取り組みを行っているのかを重視します。企業のESG度合いを測る指標としてESGスコアがあります。
ESGスコアは、第三者評価機関が企業の環境・社会・ガバナンスへの取り組みを総合的に評価して数値化したものです。
ESGスコアの算出には、企業が開示する非財務情報が欠かせません。評価機関は企業のIRサイトやCSRレポート、アンケート回答などから環境データや社会的指標を収集し、スコアを算出しています。
そのため、企業がESGに関する非財務情報をしっかり開示しているかどうかで、スコアが大きく左右されます。自社の評価を下げないためにも、非財務情報の開示はしっかり行いましょう。
非財務情報が注目されている理由・背景
非財務情報が注目されている理由や背景について、以下の3つの観点で紹介します。
● 財務情報だけでは測れない企業価値の指標になる
● ESG投資の拡大とステークホルダーの関心の高まり
● TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の台頭
財務情報だけでは測れない企業価値の指標になる
従来の財務指標だけでは企業の将来性を判断することが難しいため、非財務情報の公開が必要です。
例えば、現在は利益が出ている企業でも、石油や石炭、木材などの環境資源をメインで浪費していれば、将来資源が枯渇した際に事業継続が危うくなるかもしれません。
財務諸表に表れる数字は過去から現在までの結果でしかなく、その結果を生み出す背景(ビジネスモデルや資源の持続可能性など)が見えなければ、長期的な企業価値の判断はできません。
上記の理由から、企業の見えない価値やリスクを知る手がかりとして、非財務情報の重要性が高まっています。
ESG投資の拡大とステークホルダーの関心の高まり
2000年代後半から、環境・社会・ガバナンスに配慮した経営(ESG経営)が世界的に注目されるようになりました。特に2008年の金融危機以降、短期的な利益だけでなく企業の長期的な存続可能性に注目する投資家が増え、ESG要素を考慮した投資(ESG投資)が拡大しています。
日本におけるESG投資の市場規模は、2020年に310兆円に達し、2016年と比較して約5.8倍に伸びています。企業がどれだけESGに取り組んでいるかを、投資家や金融機関が重要な判断基準とし始めたため、企業側でも自社のESG情報(非財務情報)を積極的に開示する動きが加速しました。
TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の台頭
ESG投資やSDGsなどの取り組みに加え、近年はTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の提言への対応が企業に求められています。
TCFDは、気候変動が企業の長期的な財務リスクや機会に直結するとして、企業に対しガバナンス・戦略・リスク管理・指標と目標を開示(TCFD開示)するよう推奨しており、これへの対応に投資家・金融機関からの関心が高まっているのです。
TCFD開示するためには気候変動のリスクを知ったうえで、自社の短期から長期にわたる企業経営の方針を示さなくてはなりません。そのためには、人的資源や知的資産、自社で行えるESGへの取り組みなども把握する必要があり、非財務情報の取りまとめが不可欠です。
非財務情報を開示する具体的なメリット
非財務情報を開示する具体的なメリットは以下の3つです。
● 企業評価の向上
● 経営リスクの軽減
● ブランドイメージ向上と信頼獲得
順番に解説していきます。
企業評価の向上
非財務情報の開示は、ESGスコアの向上、ひいては投資家からの企業評価向上に直結します。
環境・社会・人材に配慮した経営をアピールできれば株式市場での評価が高まり、結果として株価の安定や上昇、資金調達の円滑化につながるからです。
実際、ESG経営を推進している企業ほど、長期的に見ると株価パフォーマンスが良好との分析もあり、「良い会社は株主にも報いる」といわれています。
経営リスクの軽減
非財務情報を意識した経営は、企業の潜在リスクを低減する効果があります。短期的な利益だけを追求すると環境破壊や不祥事のリスクを見逃しがちですが、ESGの視点を取り入れることで中長期的なリスクに備える経営が可能です。
例えば気候変動対策を怠れば、将来規制強化で製造コスト増となるリスクが考えられます。労働環境をないがしろにすれば、優秀な人材が定着せず常に労働者雇用のためのコストがかかり続けるリスクがあります。
非財務情報を開示すれば、上記のようなリスクの軽減が可能です。非財務情報を開示しながらリスクを洗い出し、対策を講じていきましょう。
ブランドイメージ向上と信頼獲得
社会や投資家に対し透明性の高い情報開示を行うことで、企業への信頼感が増します。特にコンプライアンスや社会貢献に積極的な企業は消費者からの支持も得やすく、結果としてブランドイメージの向上が図れます。
企業として社会に貢献する姿勢を示せば優秀な人材の応募が増えたり、取引先との関係を強化できる可能性も高まるでしょう。こうした良好なステークホルダー関係は事業の安定や拡大をもたらし、ひいてはキャッシュフローの強化や企業価値向上に資すると期待されています。
非財務情報を開示することへの課題
非財務情報を開示するための課題は以下のとおりです。
● 指標や定義の標準化が不十分
● 情報開示の目的が不明瞭になりやすい
● データ収集・取りまとめが難しい
順番に解説していきます。
指標や定義の標準化が不十分
非財務情報の評価手法はまだ発展途上であり、財務情報のように明確に統一された指標が確立されていません。気候変動や人的資本といった注目分野以外では、評価基準が十分に整備されていないのが現状です。
そのため企業側も「何をどこまで開示すべきか」手探りになりがちで、開示内容が抽象的・曖昧になってしまう恐れがあります。ESGスコアの算定基準も評価機関ごとに異なるため、自社のどの取り組みがどう評価されるか目途が立ちにくいのです。
初めて取り組む企業にとっては、取りかかりにくいと感じてしまい、非財務情報の開示をあきらめるきっかけになります。
情報開示の目的が不明瞭になりやすい
経営者や担当部門が非財務情報開示の意義を正しく理解していないと、「とりあえず流行だから開示してみたが自社の価値向上に結びついていない」という事態にもなりかねません。非財務情報を開示する目的は、自社が持続可能なビジネスに取り組み、環境などに配慮した施策を行っている(行う予定がある)という事実を知ってもらうためです。
社内で開示の目的や重要性が共有されないまま作成された報告書は、単なるPR資料の寄せ集めになってしまい、投資家からも評価されません。
開示の目的や意義を経営トップと担当者で共有し、企業価値との関連付けを明確にすることが重要です。
データ収集・取りまとめが難しい
非財務情報は、企業内のさまざまな部署にまたがる情報を統合する必要があります。環境データは環境担当部門、人事データは人事部門、ガバナンス情報は総務・法務部門と管轄が分散しているため、情報を集約して一貫性のある形でまとめるのに手間がかかります。
数値化しにくい定性的な内容も多く、客観的な指標を設定するのも容易ではありません。非財務情報を取りまとめるルール作りを行い、各部署の担当者にルールを伝えたうえでデータ収集を行うとスムーズに進めやすくなります。
非財務情報を活用して企業価値を高めよう
非財務情報には、自社の数値化できない人的資源や知的財産、経営理念が含まれます。自社のESGへの取り組み状況をステークホルダーに開示することで、企業価値の上昇やESG投資による株価上昇を期待できます。
TOPPANではサステナビリティ経営支援サービスを提供しており、非財務情報を含めた情報開示の相談を受け付けています。非財務情報の管理について課題を感じている場合は、ぜひご相談ください。
2025.06.02