コラム

IP(知的財産)を活用したブランドの
CX向上で抑えたいポイント

  • エクスペリエンスデザイン本部
  • CXプランニング部
  • 奈良 泰秀

『鬼滅の刃』の大ヒットにより昨年来、アニメなどIP(知的財産)のプロモーション利用が活性化しています。コロナ禍の景気冷え込みを吹き飛ばす救世主が求められているのでしょう。
 しかし販促キャンペーンにIPが用いられるようになって20年以上、起用されるIPも、またその手法もマンネリ化しているのが現状。正直なところ、多くの消費者はすでに食傷気味であると推測できます。
 では、今後IPを用いて企業や商品・サービスのエンゲージメントを高めていくには何が必要となるのでしょう。ここでは、「腑落ち」と「身の丈」という2つのワードをもとに、IPビジネスの可能性を探っていきます。


「腑落ち」するIP活用

IPは多くの採用企業にとって売上を向上させてくれるツールに過ぎません。よって、そのIPが今どれだけ人気があるか、可能なかぎりの定量データを用意し念入りに検証、またいかにファンに商品を買ってもらうか知恵を絞ります。
 特に昨今は、目に見えて人気のあるごく一握りのIPを企業が取り合い、同時に、短期で起用し、一時的な売上向上を得る「IPの消費型起用」が多くなっており、本来あるべきIPビジネスの姿からかけ離れている状況に違和感を覚えます。
では、消費者たるファンが望んでいるのは何でしょうか。
 たとえば、ライブ会場ではアーティストの限定グッズが飛ぶように売れます。アニメグッズの物販イベントも同様で、ファンは長い行列を作ってでも手に入れようとします。しかし、同じIPを起用したキャンペーンでは応募がさっぱり、ということがよくあります。関係者は首を傾げますが、ここで明らかなのは「ファンはモノを求めているわけではない」ということ。限定感、ライブなどのリアルな接点、ファン同士の一体感、といった、モノの先にある体験やストーリーを楽しんでいるのです。
 体験とストーリー。これは、定量よりも定性、消費でなく創造、といった価値転換の先に見いだされるものであるような気がします。
「売らんかな」に寄りすぎず、ブランドとIPとの相性や、そこで生み出されるメッセージにこそ重きを置き、できるだけ中長期でIPを採用してみてはどうでしょうか。IPに愛情をもってファンに発信を続けていけば、IPファンだけでなく一般消費者もブランドの味方にすることが可能だと考えます。
「あー、だからこのブランドとコラボするのか」「なるほど、面白い企画だな」とファンが腑落ちする、“説得力ある親和性”がこれからの企画に求められています。

「身の丈」を意識したIP活用

 いま人気のあるパワーIPを追い求めたくなるのは分かります。しかし鵜の目鷹の目の「背伸びする」土俵にはあえて上らず、ブランドに適した、相乗効果の期待できるIPを探す、つまり「身の丈」に合ったブランド発信を志向するのも一つの手ではないでしょうか。むしろ、エンゲージメントの向上においてはその視点が重要になります。
 たとえば、企業PRにおいてSDGsへの目配りが必須の時代となってきました。今後SDGsにつながるコンセプトを持たないIPは採用しないと表明している企業もあります。絵本で昔から環境保全を訴えてきた『バーバパパ』、森林保護の姿勢を明確に打ち出している『ピーターラビット』などは今後、企業採用のニーズが高まるかもしれません。
 さて、「身の丈」視点で、IP側のビジネスの現況を見てみますと、こちらも消費型のビジネスモデルから抜け出せない印象です。常に売場で新しさを保つため、季節ごとに新たなテーマやメーカーの依頼に応じて素材を提供し、新商品との掛け合わせで流通の棚を確保するという消耗的な活用手法が続いています。これは人的労力の消耗だけでなく、IPの作品としての価値消耗にもつながります。
一方、稀有な存在として頭に浮かぶのはスタジオジブリ。商品化はごく一部のみ、プロモーションライセンスは映画公開期を除き一切行わないという方針が業界では有名ですが、その方針と、今も変わらぬ高いブランド力とは無縁でないと皮肉にも思えてくるのです。
 ここで注目したいのが『ムーミン』のビジネスの在り方です。北欧ブランド『アラビア』のムーミンマグは代表的な定番アイテムですが、1990年の発売以来、年に2つ程度の商品の入替えや限定柄の投入で新しさは担保しつつ、ほぼ変わらぬデザインとラインナップの安定感を特長としています。流通やファンへのおもねりとは無縁で、独自の販売方針を貫いています。それでもファンから支持され続け、いまも売れ行きは堅調と聞きます。爆発的なヒットを狙わず長く愛される商品を作る、ここに「身の丈」の心意気を感じます。
 IPビジネスもそろそろ、大量投下と大量投棄をともなう盛大な消耗戦から解き放たれるべき時代がきています。
 企業とIPの幸運な出会い、そのエンゲージメントが、IPファン、消費者からのエンゲージメントにつながり循環していく、そのような“持続可能な”IPビジネスの成立を願ってやみません。

2021.05.11

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