Gakken×TOPPAN
AI図鑑アプリ「ナニコレンズ」共創プロジェクトを通じて考える BXとデータドリブン実現への難しさと真の価値とは[後編]
TOPPANと各社との対談で、日本企業のデジタルマーケティングの課題解決と未来を探るシリーズ。
前編に続いて、学研ホールディングスCMO福田晃仁氏と、本件でPMOを務めた山田崇博氏をお迎えして、Gakken×TOPPANが共創した大人気AI図鑑アプリ「ナニコレンズ」開発事例を通じて、いま企業が取り組むべきビジネス・トランスフォーメーション(以下、BX)とデータドリブンの必要性、その進め方とは?について、TOPPANの担当者を交えて語りあっていただきました。
※「ナニコレンズ-学研の図鑑LIVE」アプリ は24年7月末を持ってサービス終了となっております。
スピーカー紹介
株式会社学研ホールディングス 執行役員CMO 福田 晃仁 氏 |
株式会社Gakken マーケティング本部 カスタマーディベロップメント室 兼 マーケティングデザイン室 山田 崇博 氏 |
凸版印刷株式会社 デジタルマーケティングセンター コミュニケーションデザイン本部 カスタマーマーケティング部3T 別府 知幸 |
※所属部署は2023年2月時点
【成果①】広告を打たずSNSで利用者を獲得~顧客エンゲージメントとしての成果
こうして2022年6月にリリースされたAI図鑑アプリ「ナニコレンズ」は、8月にはApp Store無料ランキング「子ども向け全体」「子ども向け6-8歳」「教育」の3ジャンルでそれぞれ1位を獲得。一時は総合でも11位となり、教育エリアでは快挙と言われました。
福田氏:利用者は公開からわずか4か月で9万人に到達しました。その間一度も広告を打たず、SNSの口コミで自然に広まって行きました。よく巷で「広告よりもSNSの方が、拡散効果が高い」などと言われていますが、まさにそれを実感しました。その口コミも、「道端で歩いていたら子どもに何これ?と言われてアプリで調べて、おうちで図鑑を見てみようと言った」という投稿が多く、まさに我々が望んでいた通りのアクションだと。もちろん、マスコミに見つかりやすいWebサイトの箇所に情報を置いておくなどの下地は作りましたが、広告費をほとんど使わないでブレイクさせたのは山田の頑張りです。
山田氏:最初はとにかくダウンロードして体験してもらわないと、と焦って「Amazon券を配っていいですか?」と申請したら福田に「それはダサいんじゃない?」と、却下されました。(笑) 「宣伝を打たない」のはポリシーがあってのこと。ナニコレンズは名前を売りたいわけではなくて、そこにお金を投下するのはやっぱり違う。おそらくはそうした手法で利用者を集めても、ただダウンロードしただけで終わってしまう。これはBXにも通じる部分ですが、自分たちの体験として染みつかせないといけないんですよね。いまの9万人はエンゲージメント性が高いので、イベント案内やアンケートをお願いしたら、ものの数分で凄い数の反応があります。この世界観は、これまでの当社と読者との関係性とは違うと実感しました。
―利用者はどのようなきっかけでアプリを最初に使い出すのでしょう?
山田氏:もちろん図鑑でも案内していますが、アンケート結果では図鑑を持っている方は約4割と意外に少なく、アプリだけの利用者も多いのです。やはりきっかけは、SNSでの投稿で知るようです。ですので、ナニコレンズを使って親子が楽しむ状況をいかに提供できるかを考えて、そういうところに予算を投下しています。
―フェーズ2として、機能強化も計画されているとのことですが。
山田氏:はい、リテンションの部分で生活に溶け込み、もっと継続して使いたくなるような機能を考えています。まだ検討段階ですが、ミッションとかランキングなど。たくさん見つけたら「○○博士」とフューチャーされるとか、楽しいですよね。それから、もう始まっていますが、さまざまな企業とのコラボも強化したいと考えています。ユーザーの楽しみと、企業側の課題解決を一緒にしたステージ。例えば動物園は、夏休みは暑くて来園者が減る。そこにナニコレンズがあれば、来てくれた方は楽しいし、動物園も来場を促進できます。
―すでにさまざまなコラボも実現されていますね
山田氏:はい。高尾599ミュージアムさんとの館内回遊イベント「スマホで生き物あつめ!in TAKAO 599 MUSEUM」、アリオ上尾さんとのモール内回遊イベント「スマホde生き物あつめ!inアリオ上尾」、都内4つの公園との夏休みの自由研究イベント「公園生きものずかんをつくろう!」も大変、好評でした。それ以外にも、学研キッズネットを運営する株式会社ワン・パブリッシングさんとコラボした自由研究企画「“AIずかんアプリ”でワクワク☆自由研究」も話題を呼びました。こうしたBtoBコラボやアライアンスも、次期フェーズではさらに加速したいと考えています。
【成果②】本プロジェクトのデータドリブンとしての成果と、成功の秘訣
―本プロジェクトのデータ活用の視点からみた成果について、教えてください。
山田氏:今回のアプリでは、当社が長く利用しているBIツールと連携させ、デモグラフィックデータがいつでも見られるようになっています。いつどこで、どんなユーザーがどの昆虫や植物を同定したのが分かる。全国マップでトンボのアキアカネとかキク科のマリーゴールドが北上したり、南下したりというのが一目で分かります。耐暑性や耐寒性と照らし合わせると、興味深いデータです。また、海外でも多く利用されていて、ヨーロッパ諸国、アジア諸国、アメリカ、ハワイでも。ダイヤモンドヘッドの脇のバス停でダンゴムシが、エッフェル塔とセーヌ川の向こう側の自然公園で蜂が断続的に同定されている、とか。
―こうしたデータの蓄積は、どのような効果をもたらすのでしょうか?
福田氏:一例ですが、これまで図鑑は監修の先生がいて、見るべきものを体系的に正しく伝えるページ構成でしたが、現場で多く接触され、興味関心が高い植物や昆虫が分かれば、編集も違った視点が得られます。これは今までにない、現場のインサイトに基づいた究極のマーケットインですよね。図鑑の価値を体験としてパッケージングして、現場で起きているインサイトに寄り添ってみると、書店に卸すという従来のビジネスモデルから、デジタルで顧客と繋がり続けるという新たなカタチを実例として示すことができました。ですので、本プロジェクトの真の成果は、BXと共にデータドリブン経営が実行フェーズに進めたことだと思います。
―多くの企業がそのやり方に悩んでいます。データドリブンを進めるコツがあれば、ご教示ください。
福田氏:僕は前職時代から、「データドリブンサークル」というポケモンボールみたいな図を示して実現するためのスキームを説明しています。統合データ基盤、顧客分析、マーケティングアクションの3つを、ぐるぐる回すのがデータドリブン。ツールで言うと基盤がCDP、顧客分析がBI、アクションがMA。たいていの会社にはこの3要素が各部門として存在していて、その多くは右回りの一方通行です。しかしデータドリブンを実現するにはそれではダメで、マーケチームは施策、コミュニケーションプランで何をしたいのか、どんなデータが欲しいのかを分析チームに要請する。分析チームはそのために必要な基盤を、インフラチームに機能要請しなければなりません。ポイントは、設計は右回りで、運用は逆の左回りでやる、ということです。
【両社が感じたお互いの印象と、これからの期待】
―プロジェクトを通じてGakkenサイドから見た、TOPPANの印象をお聞かせください。
福田氏:TOPPANは大企業。とは言え、このプロジェクトはどんな人と仕事できるかにかかっていると思っていました。結果、別府さんがフロントに立ってくれて良かったな、と。別府さんは、思いを引き出す力、仕様に落とし込む力に長けている。TOPPANはいろんな能力のあるタレントを要する、懐の深さみたいなものが魅力じゃないでしょうか。これから「地球の歩き方」のプロジェクトもありますので、TOPPANには引き続き、共創パートナーとしての活躍に期待しています。
山田氏:私はもともと販売セクションにいて、編集部と話をする機会が多かったのですが、編集はユニークな人が多い。密に話をすると、いろんなアイデアを豊富に持っている。TOPPANにはデジタルの知見を分かりやすく教えてくれて、そこに僕らが思っていたことを引き出していただいた。編集の仕事や学研のことを知っていただいていたからこそだと思っています。
―では、TOPPANサイドから見たGakkenの印象は?
別府:Gakkenの皆さんは職人さんなので、こだわりが強く、やりたいことが無限にある方がたくさんいました。ない、というのが一番困るんですね。あるなら、整理の仕方だけです。UIを決めるときも、例えば「茶色をもうちょっと明るく」「鳥のくちばしがちょっと違う」など細かなこだわりの連続。非常に面白かったですし、その結果、とても良いものができたと思っています。
―それでは最後に、BXにおいてポイントになる部分と、TOPPANへの期待をお聞かせください。
福田氏:僕らが推進するBXとデータドリブン。その下にいろんな手段やテクノロジーがありますが、本質を突き詰めると主軸となるのはカスタマーセントリックをいかに実現するのかと、これまで長く根付いているメーカー気質をいかにして脱却するか。大きくはこの2つだと考えています。そして、この命題に悩んでいる企業が、日本全体ですごく多いとも感じています。変わりたいけれど、変われない。変わろうとするけれど、途中で止まってしまう。実装までいかないのが現実でしょう。僕らはそれにいま、取り組んでいます。BXとデータドリブンで、顧客のインサイトに迫りたい。TOPPANはそこをしっかりとサポートしてくれる存在。もっとテクノロジー寄りとか、思想っぽい会社もいれば、もっとこういうビジネスをするとよいと違うアプローチをしてくる会社もあるけれど、TOPPANはちょうどこのBXとデータドリブンの手数の中にフィットする形で入ってきてくれました。これから、「地球の歩き方」プロジェクトも始まりますので、引き続き、共創パートナーとしての支援に期待しています。
2023.03.29