大林組 社史制作チーム×TOPPAN
130年史制作プロジェクトを通じて考えるこれからの社史制作のあり方と新たなる価値[前編]
TOPPANと各社との対談で、日本企業のデジタルマーケティングの課題解決と未来を探るシリーズ。今回は、株式会社大林組130年史制作プロジェクトを担当した城裕子氏をお迎えして、コーポレートブランディングと連動したこれからの社史制作のあり方とその価値について、そして、オーディエンスの拡大とグローバル展開という新たな成果を創出した、協働プロジェクトの詳細をご紹介します。
※所属企業名・部署名は2022年10月時点
スピーカー紹介
株式会社大林組 技術本部 技術企画室 知的財産管理部 担当部長 城裕子 氏(当時、社史プロジェクト・チーム 部長) |
TOPPAN株式会社 デジタルマーケティングセンター コミュニケーションデザイン本部 インタラクティブ一部 3T 主任 宮内祐樹 |
TOPPAN株式会社 情報コミュニケーション事業本部 マーケティング事業部 エクスペリエンスデザイン本部 プロデュース部 2チーム 谷口千絢 |
大林組は2021年12月、大林組130年史スペシャルサイト「OBAYASHI CHRONICLE 130 1892-2021」を公開しました。TOPPANが制作を担当したこのサイトは、創業からの130年の歴史を2011年からの10年にフォーカスして紹介するとともに、Webならではの動きのある特集記事など、見るだけで分かりやすく、興味を持っていただける社史となっています。また、大林グループが事業を展開する北米、英国、アジア、オセアニアなどの皆様にも理解いただくため、英語だけでなく中国語(繁体字)、タイ語、ベトナム語、インドネシア語によるコンテンツも制作、2022年3月に公開されました。
【背景・課題】同社初のWebメイン・グローバルコンテンツとしての社史制作を決断
―今回の130年史制作は、どのようにスタートされたのですか?
城氏:プロジェクト・チームは私を含め3名のタスクフォースで、2020年4月から取り組みがスタートしました。その中で私は、10年前の120年史編纂の経験者でした。まさにコロナ禍の真っただ中で、ほぼテレワーク、リモートで進めなければならない点が、過去とは大きく異なりました。
―今回の130年史プロジェクトで目指されたことは?
城氏:当社に限らず建設業界における社史は、産業および建築の文化史といった側面もあり、周年事業として経営の歩みと共に、施工実績を集約した工事史を掲載した記念誌や写真集が刊行されます。当社でも最近はほぼ10年おきに制作しているのですが、今回、創業130年を迎えるにあたっての社史は、これまでとは異なり、Webメインの制作となりました。10年前の120年史の際にもWeb化を行いましたが、発行形式がDVDであったため、Web特性を最大限生かせるものにはできませんでした。しかし今回は世の中の流れを踏まえて、どこからでもさまざまなデバイスから閲覧可能なWebサイトとして構築することとして、検索性やコーポレートサイトへのリンクなど、デジタルコンテンツとしての機能の充実を目指しました。さらに多言語化も行い、初めてグローバルにも展開しました。
【選定プロセス】熱量と本気度を評価し、パートナーとしてTOPPANを選定
―本プロジェクトで、パートナーにTOPPANを選定した経緯と理由をお聞かせください
城氏:最初は2020年の4月半ばにTOPPANさんほかにお声がけして、一般的な社史のトレンドや、Web社史制作の場合の留意点などをヒアリングしました。並行して社内で方向性を固め、素材集めなどを進めて、簡単な仕様書を提出して正式にご提案をお願いしたのが6月です。今回はTOPPANさんを含めて2社に提案を依頼したのですが、TOPPANさんのプレゼンを見て、その熱量というか本気度に圧倒されました。ものすごく我々のことを勉強してくれていると感じました。
宮内:今回我々は初めての参加でチャレンジャーの立場でしたので、まず建設業界について勉強するところから始まり、大林組という企業の歴史を学び、その上で今回目指されるところは何なのか、そして我々でしかできないことって何だろう、ということを何度も社内の社史チーム、Web制作チームと集まって話し合いました。一般的に世の中で社史というと、読ませるものが主流です。しかし今回は最初からデジタルで、さらにグローバル展開も考えておられるとのことでしたので、「読む社史から魅せる社史へ」というコンセプトを考えました。もう一つ大きなヒントになったのが、大林組さんがちょうどその時期、リブランディングを計画されている、という情報でした。
城氏:リブランディングについて両社にお知らせはしましたが、社外公開前の情報でしたので、今回の社史サイト構築のRFPには載せていませんでした。目ざといですね(笑)。
谷口:チーム全員、とにかく必死でしたから(笑)。提案に向けて勉強している中で、東京スカイツリーをはじめ、大林組さんが手掛けた建築物には魅力的なものがたくさんあるなと。そしてそれ以外にも、「宇宙エレベーター建設構想」とか、未来に向けてワクワクするような情報も発信しておられる。こういった活動をもっと広く世の中の人に知ってもらいたいと考えていました。
宮内:まさにコンセプトを立案している最中に、営業サイドからリブランディングの情報が入りました。そして、単に周年記念としてではなく、企業ブランディングツールのひとつとして年史サイトを位置付けるべきでは?と考えたのです。近年、多くの企業でコーポレートサイトや周年告知のあり方が変わってきていることも踏まえてのご提案でした。
城氏:確かに、ご説明の際にリブランディングの一助となるような年史を作りたい、とは伝えましたが、正直、チーム内では社史サイトとリブランディングをそこまで結び付けて考えていませんでしたので、なるほど、と。社史サイトのオーディエンスを取引先だけでなく、一般の方々にまで広げるという発想はリブランディングの目的とも合致しますし、よく考えていただけたと思いました。そして、動きまで分かるサンプルサイトまで作って来てくれましたよね。あれには一同、感動しました。
宮内:「魅せる社史」として、取引先以外の一般の方が見ても面白いコンテンツは?を考えたら、やっぱり宇宙エレベーターだろうと。これをスペシャルコンテンツとして取り上げたいと考えました。そしてアニメーションなどの動き、ポップアップなどの機能をご理解いただくにはサンプルサイトを作ってお見せしないと伝わらないと考えました。プレゼン資料もですが、サンプルサイトも何パターン作ったかわからないくらい、見た目も動きも試行錯誤を繰り返しながら何度も何度もやり直ししました。提案まで2か月弱と時間も限られている中で、まだ正式に素材をご提供いただく前の段階でもあり、デザイナーをはじめスタッフにはずいぶん無理を言いましたし、これで受注できなかったら?という不安もありましたが(笑)、皆が一丸となって良いものをお見せできたかなと。
城氏:はい、あれを見せられて、我々は『これはどんな形になるのか最後まで見届けたい、完成して公開されたものが見たい』という気持ちになり、全員一致でTOPPANさんに決まりました。
【開発プロセス】週次の定例でサンプルサイト提出とフィードバックを繰り返し、アジャイル型で進行
―正式に受注した後の進め方について、お聞かせください
谷口:ご発注後にキックオフを開催いただき、すぐに大量の素材をご提供いただけたのには驚きました。通常、その部分にすごく時間がかかるものなのですが、さすがだなと思いました。
城氏:前回の120年史制作時に、当時の社史担当役員の発案で、いつなんどき社史を作ることになってもよいように、アーカイブシステムを作っていたのです。後からまとめて10年分となると大変なので、毎年自部門の手がけた業務の実績と、関連するデータを残していくようにしていて、今回それがすごく役立ちました。発案した当時の役員は、先見の明があったなと思います。また120年史の制作後、徐々に社内報などの刊行物もオールデジタル化していったことで、データとして集めやすかったこともありました。実際使おうとすると不備もあって、ご迷惑もおかけしたと思いますが。
谷口:いえいえ、とても助かりました。まずは提供いただいたそれらの資料をひたすら読み込んで、並行して当社の新入社員とか、大林組さんをよく知らないメンバーも含めて広くヒアリングして、どういうコンテンツがあれば読みたくなるかを考えました。特に若い子たちからは経営史は難しそうだから読まない、という声も聞かれました。でも社史として外せない部分ですし、当社の年史チームとWeb制作チーム、デザイナーたちが集まって、どう魅せるか?をひたすら考えました。社史は歴史や当時の社会情勢なども踏まえる必要がありますし、格式を踏まえて守らないといけないこともたくさんあります。普通のWebサイト制作とは違いますから、バランスを考えました。
城氏:我々はこれまでBtoBの意識でいたのですが、今回TOPPANさんからリブランディングを機に一般の方々にも見てもらう、知ってもらうことを目指しましょうと提案いただき、その現れがスペシャルコンテンツになっています。プレゼン時の宇宙エレベーター建設構想のプロトタイプが素晴らしかったので、我々から『あのネタも取り上げたら?』というアイデアがどんどん出てしまい、大変だったと思います。
宮内:そうでしたね。当初は宇宙エレベーターだけの予定が、チームからアイデアをいただいて、最終的にBIM、ODICT、「LOOP50」建設構想、東日本大震災、熊本地震の計6つに増えました。毎週サンプルサイトを作ってお見せして、また意見をいただいて、というアジャイルな進め方をしたことも大きなチャレンジでした。毎回、週次の定例会が終わるたびにチームで集まってどう魅せるか、どうすれば実現できるか?を話し合っていました。その甲斐あって、すごく見ごたえのあるコンテンツになったと思います。
後編では、印刷物や多言語対応といった追加要件への対応、プロジェクトを通じて見えた両社の強み、そしてこれからの社史制作に求められることについてご紹介します。
2023.11.30