インタビュー・会談

【お客さまインタビュー】
より良い行政サービスを目指し実証実験を敢行。「ふれあいサポート券」のICカード化で課題を解決
「ふれあいサポート券デジタル化実証実験」
―ICカードタッチで実現する、市民・事業者を巻き込んだ自治体DX

神奈川県南東部、三方を海に囲まれた三浦半島の北半分を占め、37万人以上の人口を擁する都市でありながら、豊かな自然と盛んな漁業・農業でも知られる横須賀市。明治以降軍港都市として発展した独自のカルチャー・グルメを堪能できる観光地としても人気を集めています。
横須賀市では2020年4月に経営企画部内に「デジタル・ガバメント推進室」を設置、2023年4月には日本で初めて生成AIを全庁で導入するなど、業務や市民サービスのデジタル化に先駆的に取り組んでいます。
その一環として同市では2026年の4月から6月にかけて、現状は紙券で運用している「ふれあいサポート券」のデジタル化の実証実験をTOPPANと共に実施しました。「ふれあいサポート券」とは、65歳以上のひとり暮らしの方に、地域交流や孤独感の解消等を目的として、市内の公衆浴場の入浴料や一部の市施設の利用料等を補助するために横須賀市が配布しているものです。従来は紙の回数券で運用されていたこの助成事業を、TOPPANのクラウド基盤を活用してデジタル化しました。
今回の実証実験の背景や経緯、導入実感や将来展望などについて、板井さん、村田さん、菊川さんにお話を伺いました。

左から、インタビューにお答えいただいた板井さん、村田さん、菊川さん
神奈川県横須賀市
人口:372,770人(令和8年4月1日現在)
担当部署:経営企画部 デジタル・ガバメント推進室
ふれあいサポート券デジタル化実証実験時期:2026年4月〜6月

「現場密着」から生まれる真のデジタル・ガバメント

ー 横須賀市は、デジタル行政サービス関連のニュースや記事に登場することも多く、DX推進にたいへん積極的に取り組んでいる印象がありますが、なにがその源泉となっているのでしょうか?

板井さん:民間企業を含めた一般の尺度に照らした場合、横須賀市のDXが特段進んでいるという自覚は決してありませんが、デジタル・ガバメント推進室設置以前からDX推進の意識が高く提案力のある職員が多くいたこと、またその提案を前向きに受け入れる風土のようなものは育まれてきたのかもしれません。

教育委員会事務局教育総務部 教育政策課 課長補佐 板井 健一郎さん
※ 2026年4月よりデジタル・ガバメント推進室より現部署へご異動

ーTOPPANと共同でのデジタル・ガバメント推進への取組も長く続いていますね

板井さん:そうですね。2019年12月に横須賀市とトッパンフォームズ(現TOPPAN)さんは「デジタル・ガバメント推進に関する包括連携協定」を締結し、現場のDXを推進する人材の育成を目的としたBPM※実践ワークショップ研修を行ってきました。実際の業務を題材に、業務の可視化や課題の分析に取り組む8日間にわたる研修で、大きな成果が得られましたので翌年度からも実施計画に載せて、デジタル・ガバメント推進室のメンバーも事務局に入り、現在に至るまで延べ50名程度が受講しています。そうした実績も先ほど申し上げた「提案を受け入れる風土」の醸成に一役買っているかと思います。 

※BPM(Business Process Management)=業務プロセスや業務システムを見直し、PDCAサイクルを回して最適なプロセスに統合・制御・自動化しながら改善を続けていくためのアプローチのこと

村田さん:私も昨年度までTOPPANさんと現場密着型のプロジェクトに就いていて、現場の課題をヒアリングしたり、業務フロー図を作ったり、TOPPANさんにも相談しながら必要なツールの導入支援を行ってきましたが、現場との距離が近いことで業務への理解も深まりますし、課題も実感でき、リアリティーのある提案が可能になったと感じています。

経営企画部 デジタル・ガバメント推進室 推進担当主査 村田 遼馬さん

ー今回の実証実験もそうした現場との関わりから生まれたのでしょうか?

板井さん:はい。福祉こども部という部署で業務を精査したところ、在宅の重度障害者の住民に向けたタクシー料金助成事業や、あん摩・マッサージ等の施術費の一部を助成するシニアリフレッシュ事業など、金券に相当するものを交付する複数の福祉サービスにおいて、職員の負荷や発生するコストが大きいことがわかりました。そこで、それらの事業の中で比較的少数の端末機器の設置で検証が可能な「ふれあいサポート券」でデジタル化の実証実験をTOPPANさんと共に実施してみようということになったのです。

紙券での運用における課題

ー 「ふれあいサポート券」は現状、紙券で運用されているのですね?

板井さん:そうです。65歳以上でひとり暮らしの約2,700人の対象者に、市内10箇所の銭湯や、市の健康増進センター、生涯学習センター、温水プールなどを月4回、年間最大48回お使いいただける紙券を地域の民生委員を通じて交付しています。

ー 職員の負荷が大きいと伺いましたが具体的にどのような作業が発生しているのでしょうか?

板井さん:紙券運用では、次のような膨大な手間が発生していました。

①紙券交付時に、送付先と券整理番号の紐付け・二重チェック
サポート券には4桁の整理番号が印字してあり、交付する際にはどの方に何番の紙券を送るかを控えておくのですが、その時点で入力作業が生じますし、金券ですので間違いのないよう、複数人数で照合も行っています。

②事業者から2か月に1回、約1万枚の利用済み紙券が市に送られる
各施設・事業者さんは使用された際に紙券を回収し、枚数を数え、請求金額の集計を行った上で2か月に1回、市に提出するのですが、市側でも手作業による使用枚数と請求金額の確認が必要になっています。現状の「ふれあいサポート券」の利用状況で、市に届く紙券の数は銭湯分だけでも1回約1万枚、年間の総数は8万枚近くになり、その作業量は膨大です。

③事業者・市役所の双方で、膨大な枚数の紙券を手作業でカウントし請求審査
どういった属性の対象者が、どのような施設をどの程度の頻度で利用しているのか、といった分析を行おうとした場合も、データを抽出するためには回収した紙券の整理番号を全て入力する必要があり、これにも多くの手間とコストがかかっています。

村田さん:加えて、取り扱うのが金券になりますので、金庫で保管する必要があるなど運用には神経を使います。事業者さんも同様だと思いますので、デジタル化による恩恵は大きく、今回の実証実験への期待値は高かったです。

予想を大きく超える応募者数と業務負荷の軽減

ー実証実験に向けて、協力事業者さんや利用者はどのように募集したのですか?

村田さん:市が委託管理している施設の事業者さんのほか、銭湯の組合にお願いしてご参加いただける店舗を募っていただきつつ、銭湯のない市の西側地域については、温浴もできる複合レジャー施設に協力をお願いしました。利用者については現在「ふれあいサポート券」をお使いの約2,700人の皆さんに手紙を送って参加を募ったところ、予想を大きく超える756人からご応募をいただき、抽選で100人に絞らせていただきました。応募者が足りないという可能性も考えていたのですが、我々が思っていた以上に市民の皆さんにもこうした取組への関心があったのだと感じました。実証実験後のアンケートでも利用者の約60%から「新しい取組(ICカード)に興味があった」との回答を得ています。

ー実証実験を行ってみて感じた率直な感想や手応えを教えてください

※EBPM(Evidence Based Policy Making)=統計や調査データなどのエビデンスに基づき、施策の立案・実施・評価を行い、限られた財源で効果の高い行政サービスを実現する取組

菊川さん:紙券の代替となるICカードとシステム管理はTOPPANさん、決済端末は京セラさんにご協力いただき、100名の利用者と11箇所の利用可能施設で2か月間の実証実験を無事に完了しました。上司に結果を報告した際にいちばん驚かれたのが「お問い合わせの少なさ」でした。もちろん事前に施設側にも利用者側にも丁寧に説明したことが貢献しているとは思いますが、マイナンバーカードや交通系ICカードの普及に伴う高齢者のICカードへの受容性の高さが実証できたと思います。アンケートでも、利用者の約80%が「最初の利用でもスムーズに(簡単に)できた」、約70%が「(紙券よりも)ICカードのほうが使いやすい」と答えています。そして請求業務の完全なデジタル化を実現できました。

経営企画部 デジタル・ガバメント推進室 推進担当 菊川 諒さん
精算データの確認画面

菊川さん:先ほど紙券運用時の業務フローの説明がありましたが、今回の実証実験では市側で利用実績を管理して、各々の事業者さんへそれぞれの実績と請求書のベースまで作ってメールで送ることができました。事業者さんも送られて来た実績を確認・承認するだけで請求が完了しますので、紙券の回収保管と集計から解放されることになります。業務負荷が大幅に減ったことで紙券運用時には2か月に一度しか行えなかった支払いも毎月できることを確認できました。

板井さん:利用実績や積算データはリアルタイムに集積され管理画面で確認できます。属性分析なども改めて入力する必要なしに、すぐに取り掛かれるようになりました。今回実証した方法が全ての行政サービスのデジタル化に転用できるわけではありませんが、紙券のICカード化という大きなテーマはクリアできたと実感しています。

左:今回の実証実験で使用した京セラ製のスマホ型決済端末。
右:京セラ製のタブレット型決済端末。画面内にタッチ箇所が青枠で表示されます。

デジタルデバイドを生まない仕組みとデータの利活用がもたらす将来像

ー今後の、ICカードなどを活用した住民サービスのより積極的な展開に向けての課題や、将来像のイメージなどがあればお聞かせください

板井さん:TOPPANさんともお話ししていることなのですが、今回の実証実験を通じて、サービスをデジタル化するに際しては、市民の皆さんに新たなデジタル端末機器や、その機器を使いこなすための技術を要求しないことがとても重要だと感じました。

村田さん:いわゆる「デジタルデバイド」を発生させない、ということですね。例えばICカードを端末にタッチする動作ひとつをとっても、そのUIにはユニバーサルデザインの発想が必要になるのだと思います。その観点では、事業者さんとお客さまがサービスの残数を一緒に確認できる、大画面のタブレット型決済端末は使いやすそうですね。

菊川さん:今回の実証実験の利用可能施設の中には、営業開始時に既に何人もお客さまが並んで待っているところもありましたし、やりとりする中で、決済の作業になるべく時間をとられたくないと施設の事業者さんが考えていることもわかりました。極力簡単に操作でき、決済が完了したことと残数が事業者さんとお客さまにすぐ伝わることが望ましいため、双方の負担を軽くするための工夫は、TOPPANさんや京セラさんとも協力しながらこれからも追求していきたいです。

村田さん:デジタル化すると省力化やコスト削減だけでなくデータの蓄積も容易になります。EBPMの重要性が叫ばれて久しいですが、集めたデータを活用することも今後一層大事になっていくと考えています。今回実証実験を行った「ふれあいサポート券」の事業は、高齢者の外出を支援し、健康や幸福の向上を目指すものです。利用者がいつ、どの施設を利用したかというデータを活用することで、例えば要介護状態になりにくくするような仕組みにつなげることが可能になるかもしれませんし、現在進めているヘルスケアデータを活用したスマートシティの取組への展開も考えられます。こうしたデータの活用を通じて、市民の健康を支え、福祉サービスや健康施策をあるべき姿に近づけていくことが可能になると感じています。


取材を終えて:行政手続きの破却から始める自治体DX

横須賀市役所本庁舎

横須賀市役所では行政サービスにおける「市役所」「利用者」「事業者」3者の利用手続きの「めんどくさい」を破壊するプロジェクト、略称「めんはかPJ」に取り組んでおられ、今回の実証実験はその一環でもあります。
TOPPANも様々な形でこれからも横須賀市の「めんはか」のお手伝いをさせていただくべくソリューションの開発・提供を続けてまいります。
また京セラ株式会社様の決済端末なしに今回の実証実験の成功はありませんでした。この場を借りてお礼申し上げます。

※所属・役職、本事例の内容は執筆当時のものです。
※記載された製品名などは、各社の登録商標あるいは商標です。

2026.09.07

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