コラム

導入事例|
大日本塗料株式会社様
世界初のイムノクロマトキット伸展へ、
カラーマネジメントシステムが貢献
~エクソソーム研究の加速化に向けた課題と展望~

大日本塗料株式会社様は、エクソソームをイムノクロマト法で検出する世界初のキット「Exorapid-qIC - 細胞外小胞用イムノクロマトキット(CD9)」を2023年7月に発売し、各研究機関から多くの反響を集めました。そこで課題として浮かび上がってきたのは、定量分析を行う場合、手順に時間がかかってしまうこと。2024年2月、TOPPANは、デジタル画像のカラーマネジメント技術を活用し、短時間で正確な測定をする手法を構築。現在、大日本塗料様ではこの技術に適応するキットの開発をはじめ、エクソソーム定量検出キットのラインアップ拡充を進めており、エクソソーム研究の加速化に貢献しています。


大日本塗料株式会社様 髙山暁生 様 須川哲夫 様 山本基弘 様 宮澤雄太 様 宗芳和 様(左から)
(左から)
髙山 暁生 様(スペシャリティ事業部 機能材開発グループ 副主任技術員)
須川 哲夫 様(スペシャリティ事業部 事業部長)
山本 基弘 様(取締役執行役員 スペシャリティ事業部門長)
宮澤 雄太 様(スペシャリティ事業部 機能材開発グループ チームリーダー)
宗 芳和 様(スペシャリティ事業部 機能材開発グループ 副主任技術員)

今回は、大日本塗料様がエクソソーム研究にかける思いや、解析におけるTOPPANのカラーマネジメントシステムの使用感について、山本様、宮澤様、宗様にお話を伺いました。

大日本塗料株式会社様

「塗料の総合メーカー」が、ライフサイエンス分野へ進出したわけ

――貴社の主な事業内容について、お聞かせください。

山本:大日本塗料は“塗料の総合メーカー”として事業を展開してまいりました。社会インフラである橋梁、鉄塔、水道管などの防食を目的とした塗料をはじめ、ビルのアルミ建材に使用する塗料、戸建て住宅の外装や内装、車両、家電製品など、それぞれの用途に適した様々な塗料を開発、製造、販売しています。

塗料の開発においては、その原材料を混ぜ合わせて小粒径まで分散し安定な状態を保たせる技術がキーになります。当社は、培ってきたこの分散技術を用いて様々な機能や付加価値を持つ塗料を開発し、事業を展開しています。さらにこの分散技術は、カラフルなデザイン性を持つ「インクジェットインク」、金属酸化物粉を分散させたコート材で帯電防止や反射防止性などの機能を付与する「ナノコーティングシリーズ」、防錆、耐水などの機能を持つ塗料で下地をつくり、その上にデザイン性の高いインクで印刷を施す「デジタルコーティング」などの事業にも活かされています。また、グループ会社では、蛍光色材事業や蛍光塗料技術の研究から発展した照明機器事業も行っています。

大日本塗料株式会社 山本様

――技術をベースに、多角的に事業を展開されているのですね。新事業としてライフサイエンス分野に取り組まれることになった理由や、「Exorapid-qIC - 細胞外小胞用イムノクロマトキット」発売までの経緯をお聞かせください。

山本:20年ほど前、当社は赤外線吸収コーティング剤として、金や銀といった貴金属を水中で還元し、異方性形状のナノ粒子を合成し、安定に分散させる技術を開発しました。しかし、その後ターゲット市場の需要が変化したため、何かほかに活用できないだろうかと調べていったところ、妊娠検査やインフルエンザ検査などに使われるイムノクロマト法で、金ナノ粒子、銀ナノ粒子が使われていることが分かったのです。

ちょうどその頃、当社のルーツでもある島津製作所さんから、当社がつくり上げた貴金属ナノ粒子の技術を診断技術に活用できないかというお話をいただき、ライフサイエンス分野への進出を意識するようになりました。

宮澤:島津製作所さんとの共同研究が2017年にスタートし、私が出向するかたちで、研究機関に駐在しました。そこでターゲットとなったのが、がんの診断で活用されるエクソソーム研究です。

エクソソームとは、ヒトの細胞から分泌される細胞外小胞の一種で、分泌元の細胞の情報を含み、血液や尿などあらゆる体液中に存在しています。体液からエクソソームを検出することで、がんや認知症などの早期診断につながるのではないかと、検査技術の開発が期待されていました。そこで、まずは試験研究用にエクソソームをイムノクロマト法で検出するキットの開発を目標とし、島津製作所さんとの共同開発により、2023年7月、「Exorapid-qIC - 細胞外小胞用イムノクロマトキット」を発売するに至りました。

がん診断や再生医療に貢献するエクソソーム研究

――エクソソームの研究・開発が進むことで、どのようなことが可能になるのでしょうか。

宮澤:エクソソームはもともと細胞の単なる排出物と思われていたのですが、近年になって、エクソソーム自体に機能があることや、分泌元の細胞の情報を持ち、細胞間の情報伝達にも使われていることが分かってきました。そこから一気に研究が加速し、論文の投稿数はここ10年で約10倍に膨れ上がっています。医療や美容など、様々な分野で研究が行われており、たとえば医療では、がん診断の可能性のほかに、新しい治療方法として、エクソソームを薬や試薬として使っていく流れや、 再生医療の一環として肌を若返らせる技術の開発などが進められています。

大日本塗料株式会社 宮澤様

特にがんの検査が血液や涙、尿などに含まれるエクソソームでできるようになると、患者さんの負担はかなり軽減されます。現状では「生検」といって、身体から細胞を採ってきてがんを検査、診断する必要がありますが、血液検査であれば短時間かつ低侵襲*な検査が可能です。たとえば、乳がんの精密検査を行う場合のプロセスは、マンモグラフィーによる画像診断→超音波検査→生検と段階があって、結果が出るまで1ヶ月以上かかることがあり、患者さんはその間とても不安ですし、負担もかかります。そんなとき、早い段階で陽性・陰性の目安が分かりますと、どういった結果であったとしても精神的な負担はかなり軽減されるはずです。エクソソーム研究が進むと、そうしたがん検査のプロセスの補助的な役割を担う可能性があると予想しております。

また、未病対策として、行政はがん検診を積極的に推進していますが、そもそもこういった検診に行かない方も少なくありません。たとえば職場などで一般的な血液検査の中にエクソソーム検査の項目も入れられるようになれば、「陽性」が出た段階で、ちゃんと病院を受診する人が増えるはずです。

問題は、エクソソームの検出と解析は、高額な機器を導入しているごく一部の研究機関以外は、非常に手間がかかってしまっていることです。私は、実際に研究機関で、エクソソーム研究の難しさや、手間と時間がかかることを目の当たりにして、なんとかエクソソーム研究を加速させたいと思い、キットの開発を進めてきました。



*低侵襲(ていしんしゅう):身体の負担が少ないこと。

世界初・イムノクロマトキットの好評と課題

――「Exorapid-qIC-細胞外小胞用イムノクロマトキット」の特徴と、発売後の反響、見えてきた課題などをお聞かせください。

宗:「Exorapid-qIC - 細胞外小胞用イムノクロマトキット」は、当社が開発した青色の貴金属ナノ粒子「金ナノプレート」を使用し、イムノクロマト法によりエクソソームを短時間で安価に検出できるものです。これまで、エクソソームの分析には丸1日から2日かかるものがほとんどでした。短期間で分析できる機器もありますが、機器の購入に高額な費用がかかるので、簡単に導入できるものではありません。その点、このキットは45分ほどで分析ができ、テストに必要なものが全て含まれていて、1テストあたり約2500円で販売しています。

Exorapid-qIC-細胞外小胞用イムノクロマトキット

解析作業としては、展開した試験紙を台紙に貼り付け、スキャナーで取り込んでいただくか、スマートフォンなどで撮影していただいた上で、画像解析していただきます。特別な機器がなくても、エクソソームの検出から解析までが比較的短時間で行えることが、このキットの最大の特徴です。

宮澤:2023年の7月に発売以来、世界初のイムノクロマト法によるエクソソーム検出キットということで、各分野の研究者の方々から多くのお問い合わせをいただきました。10月に北海道で開催された日本細胞外小胞学会でブース出展した際もご注目いただき、購入数も徐々に増えています。

そんな中、課題として見えてきたのが、検査結果の定量化(数値化)手順の改良でした。実際にお使いいただいた方から、うまく定量化できない、評価がしにくいというお声をいただいたのです。そこで、我々が課題解決に向けて動いていたところ、TOPPANさんのご協力が得られることになり、定量化技術を構築していただきました。

大日本塗料株式会社 宗様

カラーマネジメントシステムによる定量化で、検査結果がより正確に

宮澤:そもそもTOPPANさんとは、キットの開発・販売にあたって特許技術の使用許可をいただいたのをきっかけに、キットのプロモーションなどもご協力いただいていました。その中で、特許のライセンス契約締結のリリースを読まれたカラーマネジメントシステムのご担当の方が、何か一緒にできることがあるのではと、申し出てくださったんです。それから2ヶ月足らずでカラーマネジメント技術を活用した定量化の技術をご提案いただき、テストを実施して非常に良好な結果を得られたところです。

イムノクロマト試験の定量測定 カラーマネジメント×定量化

宗:定量化技術確立による一つ目の改良点は、解析作業の大幅な効率化です。検査結果を定量化するためには、溶液を展開した後の複数の試験紙を台紙に並べて貼りこみ、スキャナーでスキャンして、まずは画像データをパソコンに取り込みます。現状では、このデータをアメリカの国立衛生局が出している「imageJ」という画像解析ソフトで一つひとつ画像解析していく必要があり、テスト数が増えると作業にかなりの時間がかかってしまいます。今回ご提案いただいたシステムでは、画像データを取り込んでしまえば、解析作業は解析ソフトが自動的に行うので、すぐに完了します。

宮澤:もう一つ大きな改良点は、専用のカラーチャートが入った台紙を使うことで、撮影画像にカラーマネジメント処理が行われ、撮影時の照明の違いや影などの影響が最小限に抑えられるようになったことです。我々は画像の取り込みにスキャナーを想定していたのですが、スマートフォンで写真を撮ってデータとして取り込むケースもあるようです。ただその場合は、撮影時の照明の違いや影の影響などがあったり、撮影機材の違いによる差が出たりして、うまくいかないことも多かったんです。新しいシステムでは、写真を撮るときに不具合があると警告が出て撮り直しを促すこともできますし、アプリで一度写真を撮れば全部数値化されて、エクセルに抽出することもできるようになりました。現在、TOPPANさんとご相談しながら、このシステムに適応した新しいイムノクロマトキットの開発や、サービス提供方法の改良などを進めているところです。




カラーマネジメントシステムによる定量化判定ツールの使用イメージ


エクソソーム研究の加速化に向けて

――最後に、イムノクロマトキットの今後の展望をお聞かせください。

宮澤:実はエクソソームは分泌元の細胞により異なる特徴があり、現状の商品は たとえるなら、検体に含まれるエクソソームの中のAという特徴を有するエクソソームを評価するものです。それ以外のエクソソームBやCも評価できると、エクソソームの検出・測定の信頼度がぐっと上がるんですね。ですから、エクソソームBやCを検出するキットのラインアップを増やし、エクソソーム研究を網羅的にカバーしていくのが第一の目標です。さらに次の段階として、試験研究用に限らず広く、ライフサイエンス、さらにはメディカル分野に知見のある企業さまと共同研究というかたちで進めていきたいと考えています。

大日本塗料株式会社 宮澤様

山本:今後、試験研究用に限らずに展開していくとき、塗料の総合メーカーとしてやってきた我々だけでは簡単に踏み込めないところがあると予想しています。その点におきまして、必要な知見を有している企業さんにご協力いただくことが近道だと考えていますので、TOPPANさんには、そのあたりのコーディネートも含め、ぜひ今後もご協力いただきたいと思っています。また、海外のエクソソーム研究は日本の約10倍と聞いていますので、そちらへ向けてのプロモーション活動のご相談にも乗っていただきたいと考えています。

大日本塗料株式会社 山本様

宮澤:エクソソーム研究自体、まだ発展途上と感じております。エクソソーム研究のガイドラインが国際細胞外小胞学会(通称ISEV)から発行されており、エクソソームの定義についても議論されており、皆さん試行錯誤しながら研究を進めていらっしゃいます。将来的には、このイムノクロマトキットがISEVのガイドラインに掲載され、標準とされるようになれば、安価でシンプルな手法として、エクソソーム研究の促進のお役に立つものと考えております。

山本:我々は、昨年のイムノクロマトキット発売にあたって、大学の研究室などからの引き合いが多くを占めると想定していました。ところが実際には、再生医療や美容関連など、様々な民間企業さんからお問い合わせを受けており、エクソソーム研究が幅広い分野で行われていることを実感しています。今後我々は、さらにイムノクロマトキットの改良・拡充を重ね、エクソソーム研究の加速化に貢献していきたいと考えています。

前列左から勝亦 優(TOPPAN)、髙山 暁生 様(大日本塗料)、宮澤 雄太 様(大日本塗料)、宗 芳和 様(大日本塗料)、高山 慶典(TOPPAN)、後列左から小川 泰由(TOPPAN)、明神 美都(TOPPAN)、鈴木 秀明(TOPPAN)、松田 隆太郎(TOPPAN)

▲前列左から勝亦 優(TOPPAN)、髙山 暁生 様(大日本塗料)、宮澤 雄太 様(大日本塗料)、宗 芳和 様(大日本塗料)、高山 慶典(TOPPAN)、後列左から小川 泰由(TOPPAN)、明神 美都(TOPPAN)、鈴木 秀明(TOPPAN)、松田 隆太郎(TOPPAN)

ご協力:大日本塗料株式会社様(https://www.dnt.co.jp/

2024.03.25

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