コラム

空間デザインに企業の想いを込める考え方
〜スペースコミュニケーション〜

  • エクスペリエンスデザイン本部
  • スペースクロッシング部
    間島 大二郎

例えば企業の窓口たるコンセプチュアルなエントランスロビー、例えば企業が提供するターゲット層向けのショールーム…etc. 空間が雄弁に語るスペースコミュニケーション(以下SC)の可能性は無限だ。スペースクロッシング部、プロデューサー/プランナーの間島大二郎が繋ぐSCが目指すものとは。


その空間で何を伝えたいかを具現化する

【スペースコミュニケーション】の存在意義

—スペースコミュニケーション(以下SC)、人によっては聞き慣れない言葉ではないだろうか。『クライアント様がその場所で何を成し遂げたいか』という目的に対して、空間を介して提供できる様々な体験やコミュニケーションを用い、その目的達成に寄与できるよう様々な発想でその空間デザインを行う。そしてそこに企業の想いを込める……それがSCの目指す場所だと間島は言う。

「クライアント様には伝えたいことがあり、その伝えたい相手はクライアント様にとってのターゲットになるわけです。つまり我々もクライアント様と同じ側に立って、その先にいるターゲットを常に意識するのが大前提です。彼らに届けたい何かを確実に伝えるにはどうしたらいいか、そこからコンセプトを導き出し、空間というカタチに作り上げる、それがSCの考え方の骨子となります。

具体的には、コンセプトに沿った空間デザインはもちろんですが、トッパンSCでは、「自社のソリューションを活用」しつつ、「社外の様々な技術や製品、サービス」を柔軟に取り入れ組み合わせた形で運用しておりますので、それらをテーマに沿って活用させるための運用形式を模索していく作業も大きなファクターとなってきますね」

—では間島が考えるSC空間の存在意義とは一体どのようなものなのか。

「実際の空間体験を自分の体験値と照らし合わせて考えみると、例えばワオって感じるものであったり、面白かったり楽しかったり、とにかく興味を引くものでないと記憶に残らないもの。ですから真面目なテーマの施設だったとしても、なにかしら興味を持ってもらうような要素を組み込む。するとその空間を訪れた人は何かを感じ受け取ったその先で、その興味に対しての能動的な行動を起こすようになる。そこまで持っていければSC空間としての存在意義は達成されたと言えます。我々のやるべきことは空間を体感させることで、その先にある行動=コミュニケーションを即すこと。話が概念的過ぎますので、いくつか具体的な例を挙げてお話していきましょう(笑)」

実際にプロジェクトを進めるうえでは幅広いプランニングが必須

エンタメ要素と驚きの中に伝えたいことをこめる

「我々の仕事を振り返ってみると、常日頃どこか出かけたり、旅行したりする中でふとした時に面白いなと感じたり楽しかった経験がダイレクトに反映できるケースが非常に多い。人はエンターテイメント性の強いものには無条件に興味を持つ傾向が強いのです。そんな『面白い!楽しい!』をとことん追求したのがキリンビール様の工場見学施設です。

まずキリンビール様から思い切ってエンターテイメントに振って欲しい、という有難いご要望がありまして(笑)。加えて当時のキリン様はブランドメッセージ "Quality with Surprise”を掲げていました。しかも工場見学ということは直接の消費者層に訴えかけるためのもの。こういった要望や要素を前提とし、『驚き』や『面白い!』といったエンタメ要素を持ち込んで『ビールってどんなノミモノ?』を徹底してわかりやすく表現しよう、というプランニングで進めた事例です。

かなり大胆ですが実際の製造現場にプロジェクションマッピングを導入したり、別のコーナーでは、センシング技術を使ったインタラクティブな映像体験でビールが作られる過程をバーチャルで体験できたりなど、徹底して『楽しく伝える』を実現しています。プロジェクションマッピングは工場が稼働している中で運用できるものになっていまして、とても非日常的な体験を提供できているのではないか、と思っておりますし、インタラクションのある体験もフィードバックがあって楽しめる、といった参加型で記憶に残るような体験を提供できるようになっています。とりわけビールが作られる工程などは、そのまま説明しても仕込や発酵が、といった製造技術や生物学の硬めな話しでしかない。それを興味喚起して楽しんで体験できるような方向性で施設をデザインしました」


事例①:キリンビール横浜工場見学コース/ノミモノ・ラボ

一番搾りのおいしさの秘密を、実際に稼動している工場を媒体としたプロジェクションマッピングやインタラクティブ展示など、先進映像技術を取り入れた体験を通し紐解いていく工場見学施設です。飲み物のワクワクする未来を体験できるギミックや、オリジナルビールをバーチャルでつくることができる体験型ミュージアムも併設。モノづくりにエンターテイメント性をふんだんに盛り込み、来場者に“ノミモノの無限の可能性”を感じてもらうことを徹底的に追及している施設となっています。


言葉を空間に置き換える〜企業理念をカタチにするため

「SCの幅の広さを示すものとしてキリンビール様の工場見学事例と対極にあるといえるのが、花王様の本社ロビーです。こちらは企業の『顔』である本社ロビーということもあり、展示コンテンツの無い、オフィスとしての機能性追求や目指す企業ブランドイメージを空間に置き換えることに注力して計画した事例となります。この場合、いかに企業ブランドを体現するか、というコンセプトでプランニングしています。いわば『企業理念』や『企業の目指すもの』……それらの言葉を空間に置き換えて表現した、といったところでしょうか。

我々の暮らしの必需品である日用品や化粧品をつくるメーカーですから、その企業活動をダイレクトに言語化した「LIFE」と「BEAUTY」という2つの言葉、この2つの要素が融合して昇華していく、そんなイメージをデザイナーと導き出し、そこから空間デザインを煮詰めていきました。

最終的にシームレスで躍動的な2つのラインが円を描きながら交差し合うような人造大理石パーテーションのアイデアが生まれたわけです。そのイメージは、石鹸から始まった企業、という部分もヴィジュアル的に表現しています。

それに加え当時の花王様は『環境に配慮した経営』というメッセージを積極的に掲げつつ、それと同時にグローバルなビューティーケアカンパニーを目指すという方向性もありました。エコロジー的な表現の部分は待合スペース、打ち合わせスペースに間伐材や再生材料を使ったものを取り入れ、グローバルという言葉は、打ち合わせスペースを一部屋一部屋違ったテーマを用いた多様な空間にすることで表現しています。個人的にもとても気に入っている事例の一つです」


事例②:花王本社ロビー

ロビー空間はその企業の『顔』。石鹸のようにどこまでもシームレスで滑らかな白い空間。それはブランドイメージを空間で伝えることで、来場者との『コミュニケーション』を実現できる場所として構築されました。また多様性を感じさせるカラフルで強いアクセントとなるオリジナル家具や、さまざまな会議シーンに対応する機能的かつ個性豊かな会議室は実用的でありつつもそこもまた『企業の理念』がこめられたもの。企業ブランドイメージを体現しつつも機能的なオフィス空間を実現しているのです。


トッパンだからできるSCの『ストロングポイント』とは

トッパンSCの強み、 それは専門分野をマスに落とし込む“視点”

—スペースコミュニケーションの概念が一通り理解できたところで、さて『トッパンのSC』だからこそ、の強みの部分とはどのようなものなのか。SC一筋で現場を切り盛りしてきた間島に水を向けてみた。

「トッパンならではの大きなストロングポイントとして、社内で開発している膨大なソリューションやコンテンツをカスタマイズして組み込める、というのが一つの大きな柱として存在しています。
但し、それらを統合して運用する我々SCのメンバーには、実はある一つの素養が求められています。当然ですが社内で持っているソリューションの類は専門分野に特化した部署が開発及び運用を行っていますが、我々SC部門はそれら全てを包括的に理解、把握できていないと仕事にならない。
つまり構造やシステムを理解していなければ、事例ごとのコンセプトやシナリオに組み込むにはどういったカスタマイズが必要で実際それが可能なのかの判断も出来ない。もちろん何が出来るのか、どんな効果が期待できるのか、まで含めて精通していなければクライアント様へのプレゼンも充分に行えない。そういう意味では我々SC部門はトッパンが持っているソリューション及びコンテンツに対してクライアント側、つまり『使う方』の視点も持っていなければいけない。それにもちろん社外の様々なテクノロジーやサービスなども熟知しつつ、柔軟に取り入れていく姿勢も必須です。そういった視野の広さや感性、そして理解力も求められていますし、それこそが真の強みの部分だと認識していますね」

案件を進めていくうえで一番大切なこととは

「我々の仕事は当然ですが自分一人では何もできません。案件ごとの企画内容に沿ったチーム編成をするのですが、その中での自分の役割は『指揮者』のようなものだと認識しています。手綱を握って全体をコントロールするポジションというわけですが、なかでも仕事を進めるうえで大切にしている部分が『調和』と『調整』です。

クリエイティブな作業になるので、常にチームの風通しが良いように保つ。自由闊達な空気感でないと良いアイデアも生まれませんし、認識の掛け違いからのミスも起こってしまう。心掛けているのは、みんなが気持ちよく仕事ができるような環境と関係性作り、つまり調和です。更に年単位の大きな案件になると、途中で新鮮味が薄れてしまい弛緩することも時にはありますので、和みつつもそこはちゃんと引き締めて調整する。緩急をつける意味でも調和と調整の両軸を大事にしていますね。

企画が動き出した段階にチーム全員でブレストしている時間、様々な角度や視点からアイデアを出し合って皆で精査する作業は、一番創造性を感じる瞬間でもあります。そういったクリエイティビティ、テンションを最後まで維持できるような関係性作りを一番意識しています」

—そんな『指揮者、間島』はチームメンバーからはどのように写ってるのだろうか。彼の部下である吉澤に(本人のいる前で)間島への評価を伺ってみた。

「僕はSC歴3年目で、間島の下には1年程ついているのですが、ご本人の言う通り、調和をとても大切にされている方。例えばミーティングでも基本的にメンバーに自由に発言させつつ、脱線しそうになると要所要所で和ませながらも軌道修正する。自分のような部下にも萎縮させるような行動は一切取りませんし、まだまだ経験値の浅い自分のことを信頼して任せてくれる部分も多い。言い過ぎですが『理想の上司』ですね(笑)」(吉澤)

—余談だが、間島の撮影を行っていた際、レンズを向けられしどろもどろの間島に吉澤が軽くツッコミを入れているシーンがあった。キャリアもだいぶ異なる両者だが、普段から互いに遠慮することなく意見を交わしているであろうことが容易に想像できて微笑ましくなった。この空気感こそが『指揮者、間島』の持つ特質なのだろう。

これからのスペースコミュニケーションはどの方向に舵を取るべきか

より複雑化するコンテンツに適合させる、新たな表現の模索とノウハウの構築が必須

—思うにスペースコミュニケーションという分野には、テクノロジーの進化、そして社会の変化とは切っても切れない密接な関係性が存在する。例えばテクノロジーの進化によって実現した、たった一つのプロジェクトが社会に変革をもたらす、そんな事だって起こり得るかもしれない。そんなイノベーティブな可能性をも内包した『SCの向かうべき方向』とは。最後にそんな質問を間島に投げ掛けてみた。

「現状の課題点として、これまでにも情報が過去形になり価値を失った空間にならないよう、デジタルサイネージなどで情報更新できる仕組みが導入されてきました。ですが結果的にリアル空間であることの制約が現状ではとても強い為、映像投影面等での部分的な対応に留まらざるを得ませんでした。これではSCの持つ潜在的な可能性がスポイルされてしまいます。

解決案として考えられる可能性としては、映像ハードやコンピューター、通信などを革新的に進化させていくことで、固定空間でも、情報発信そのものをウェブサイトのようにパーソナルニーズを先読みさせて可変させていく。つまり空間そのものを来場者一人一人の属性やニーズに合わせてタイムリーに、そしてフレキシブルに提供できるような場所に変化させる必要があると考えます。

それに現時点でのバーチャルな映像体験は、あからさまに"デジタル"であり擬似的なものだと感じてしまうレベルに留まっています。しかし今後は超アナログ(裏側は超デジタル)で本物と錯覚してしまう体験が当たり前になっていくでしょう。運営の在り方もAIの発展に伴い大きく変化するでしょう。結果、さまざまな要素が連動するデジタルコンテンツの仕組みの開発や新たな表現の模索などが複雑に絡み合っていくため、これまでにないコンテンツや体験をつくる高いノウハウや挑戦が最も重要になってくるのではと思います

我々トッパンSCはそこに大きな可能性を見出しています。もちろんそこに到達するため、そして更なるストロングポイントを獲得していくためには社内外の専門家と連携してソリューション力を強化していくべきだと考えていますね」

—スペースコミュニケーションは只の空間設計ではない。想いを、言葉を、そして体験そのものを空間に託す、それがスペースコミュニケーションの本質だ。そしてその本質を実現するために、常に進化を止めず、変化を取り入れ、挑戦し続ける。間島の言葉の裏側にそれだけの気概を感じた気がした。トッパンSCはこれからどんな可能性を見せてくれるのか、そしてどんな未来を見せてくれるのか、楽しみで仕方がない。

2022.12.21

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