コラム

地域や企業の
ブランドの魅力をつくる
コンテンツブランディング

  • エクスペリエンスデザイン本部ブランド戦略部
  • ストラテジックプランナー クリエイティブディレクター  絵本イラスト作家
  • 近藤亜希子

地域や企業が持つブランドパーパス

私は、ストラテジックプランナー、クリエイティブディレクターとして地域や企業のブランド支援をさせていただいております。そして絵本イラスト作家としても、地域や商品ブランドの魅力を伝える絵本制作に携わっています。絵本とは、絵と物語が互いに共鳴しあい受け手に自由な解釈を委ねる絵物語です。古くは平安期の絵巻物があり、時間と空間の推移を鑑賞者に理解させるコミュニケーションデザインの一つです。
また親子三世代以上に受け継がれ、映画、アニメなど全てのコンテンツの中で最も寿命が永いのが特徴です。このように息の永いメディア特性のある絵本は、地域やブランドがもつ課題を解決する力を秘めており、その世界観や登場人物との絵本体験をどうデザインしていくか、そのためには、受け手である生活者に届くよう、絵本のテーマとしての主役、ブランドの価値「パーパス(存在意義)」を意識することが大切だと思います。

絵本コンテンツブランディングとして

ここで言う「絵本コンテンツブランディング」とは、「地域や企業が持つブランドのパーパスを、絵本というオリジナルの世界観で創造し、コミュニケーションさせていくこと」とします。この考え方は、地域や企業の持つ「らしさ」をクリエイティビティに富んだカタチで表現しながら、実は潜在的な課題を絵本ならではの発想と想像性で顕在化させ、解決しながら伝えていくというものです。そのためには受け手である生活者を思いながら、心に残る絵本体験として永く浸透していけるような「ブランディング」の視点を持つことが大切です。


今回は生活者の原体験や土地の歴史にフォーカスし、地域のブランドが持つ課題をユニークなカタチで解決した2つの事例、茨城県桜川市の『さくらがわ市のたからもの』と和歌山県、一般社団法人南紀白浜観光局(現一般社団法人南紀白浜観光協会)の『七湯からのおくりもの』をご紹介します。


地域の宝物をダイナミックに描く『さくらがわ市のたからもの』

「西の吉野、東の桜川」と称される桜の名所、茨城県桜川市。この地域のブランドである野生種、山桜の魅力を小学校低学年の児童と保護者に伝え、地域愛着心の醸成と受け継がれる価値の尊さを絵本で伝えていきました。

市の総合戦略では、桜川市の個性と固有資源を活かした地域づくりを目指し「住み続けたい」「将来は戻りたい」というまちへの誇りや愛着を持つひとを育むことに力点を置き「日本を代表する山桜の里」の再生をうたっています。しかし出生率の減少に伴う自然減、及び若年層の転出超過により、人口の減少が続いています。対するこれまでの取り組みは、山桜の学術的側面や保全にまつわる話など機能的なアプローチが多い印象でした。そこで市の象徴である「山桜」は多くの可能性を秘めた「生きている市民の夢」「守るべきブランド」であると思い、絵本という情緒的なアプローチで伝えていきました。

大切にしたい、素敵な山桜

主役は「山桜」。山桜のパーパスは、永い歴史と野生種であるその個性から雄大な景観を生み出し、人々に強い誇りと穏やかな安心感をもたらすものであるように感じます。絵本の物語は、地元の子供と地域外の子供が一緒になり、桜川市の宝物、山桜の価値を探していきます。原体験の語りを入れながら、平安時代、紀貫之が詠んだ和歌の話や野生種ゆえの多様性もユニークに伝えていきます。子供たちは多くの発見を得ながら、山桜の魅力にはまっていきます。そしてこの絵本を通じて、山桜や里山を守っていくことの大切さを伝えていきます。

壮大な山桜のパステルイラストレーション

今回はイラストを描かせていただきましたが、クリエイティブのこだわりは2つあります。
1つ目は山桜の壮大さ。2つ目は山桜の色彩です。まず1つ目の壮大さ。絵本を手に取った瞬間、ここに行ってみたい、山の中はどうなっているのだろうと想像を膨らませながら読み進んでいただき、クライマックスでは上空から見渡す全景を楽しんでいただけます。
2つ目の色彩。山桜の色出しにかなり集中しました。現地に行き、五感で山桜を体験した後、何十色ものパステルを粉末にし、ミックスしながら約10通りの基調色を作りました。そこから花弁、芽、葉を慎重に描き、野生種ならではのオリジナリティを出していきました。

市の皆様とこだわりをもって制作した絵本をきっかけに、子供たちの笑顔が増え、山桜の魅力を未来へつないでいただけたら嬉しく思います。


お湯のおばけと冒険!温泉歴史ファンタジー『七湯からのおくりもの』

「南紀白浜といえば、ビーチリゾートとパンダ!?」という声をよく聞きます。実はこの白浜温泉は『日本書紀』や『万葉集』にも登場した日本三古湯の一つ。斉明天皇をはじめ、古くから皇族や貴族が訪れた温泉地であり、源泉の保有数も多いのです。しかしその事実は、観光客他、地元民にも浸透しているとは言い難かったため、観光振興及び地域活性化を目的に、小学生に向けた温泉歴史ファンタジーの絵本を作りました。

歴史タイムスリップ!未来への宝。絶対に忘れない

主役は「七つの湯」。この白浜温泉のパーパスは、1360年以上の歴史を感じながら名湯につかる感慨深さと情緒をもたらすものであるように感じます。その個性は火山が近くにないにもかかわらず、高温のお湯が湧く熱源。地下深くに太平洋から潜り込んだプレートからにじみ出た高温の水分だそうです。絵本の物語は、7人の温泉のおばけ(精霊のキャラクター)が子供たちと温泉の歴史を大冒険。温泉の不思議が時間と共に明らかになっていく学びの多い内容です。

碧い海と温泉おばけのクリエイティビティ

ダイナミックでハートウォーミングな展開を描くクリエイティブのこだわりは、3つあります。1つ目は、7人の温泉のおばけ(精霊のキャラクター)。2つ目は、歴史の過去と未来をつなぐダイナミックな構図デザイン。3つ目は南紀の海を象徴するターコイズブルーの碧い色です。まず1つ目のキャラクター。これはそれぞれの温泉と親和性の高い方のお人柄をキャラクターの人格に込め、デザインしていきました。2つ目はダイナミックな描写。うごめく歴史を躍動感あるスケールと、ページ間アップダウンをつけた展開で表現しました。3つ目は碧い海。南紀の海を象徴するターコイズブルーの色彩を絵本全体に取り入れました。


今回2つの素敵な事例をご紹介しましたが、プロデューサー、ディレクター、ストーリーライター含む、多くのスタッフと共に現地に足を運び、その空気や人々の思いを五感で感じ取らせていただきました。これからも地域や企業のブランドの魅力を絵本というオリジナルの世界観で創造し、コミュニケーションさせていくお手伝いができれば光栄です。


企業・地域ブランディング支援サービス
『 EHONDEAR ™』エホンディア

エホンディアとは、地域や企業の持つ大切なブランドを、
絵本という普遍的で高付加価値あるものに創造し、
永続的な価値を創っていくサービスです。

2022.01.12

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