リテールメディアとは?事例、メリット、実現方法を解説
リテールメディアとは、リテール(小売)企業が自社で保有する消費者の購買データなどを活用して広告を効果的に配信する仕組みのことです。そしてこれは同時に、「リテール企業がメーカー向けに自社データを活用した広告メニューを提供・販売する、新たなビジネスモデル」でもあります。
リテールメディアは広告業界、メーカーなど広告主の視点で語られることが多く、実際にその効果も幅広いため、リテール・小売業の方から「仕組みを理解するのが難しい」「どうやればよいのか、よくわからない」との声も聞かれます。しかし、リテールメディアはリテール・小売業界にこそ大きなビジネスチャンスとインパクトを生み出す可能性を秘めた新たなビジネスモデルであり、一刻も早い取り組みが求められます。
そこで今回はリテール・小売業界側から見たリテールメディアが求められる背景から実施するメリット、日本国内での成功事例といった基礎知識から、実現のための具体的なステップと準備すべきポイントについて、TOPPANが提供する「リテールメディア構築・運用支援サービス」を交えて、わかりやすく解説します。
<目次>
■リテールメディアとは?
■リテールメディアが注目される理由・背景
■リテールメディアの市場動向~海外と日本国内~
■リテール・小売企業側だけにとどまらない、リテールメディアがもたらすメリット
01| リテール企業
02| メーカー
03| 消費者
■リテールメディアがもたらす変化
■日本におけるリテールメディアの事例
01| ドラッグストア A社事例
02| スーパーマーケット B社事例
■日本におけるリテール業界の特性と課題~このビジネスチャンスをどう活かすか
■リテールメディアの実現方法~TOPPANが提供するリテールメディア構築・運用サービス
■リテールメディアの実施ステップ
01| 事前分析
02| ターゲティング
03| 広告配信
04| インストアプロモーション
05| 効果測定
■リテールメディア実施に向けて必要な準備
01| 効果測定(来店計測)するためのBeacon設置
02| ターゲティングおよび効果測定のためのID-POS利用許可
03| 広告媒体メニューの作成
■まとめ
リテールメディアとは?
リテールメディアとは、リテール(小売)企業が自社で保有する消費者の購買データなどを活用して広告を効果的に配信する仕組みのことです。大きく分けてオンラインとオフラインの2種類の媒体が存在し、オンラインの媒体はECサイト、専用アプリ、ソーシャルメディアなどが該当し、オフラインの媒体は店舗内のデジタルサイネージやポップ広告などです。
これは同時に、メーカーやブランドなどの広告主からすると、この仕組みを活用して広告を出稿できるともいえます。本来、リテールメディアは広告業界、メーカーなど広告主の視点で語られることが多く、小売企業が有する顧客の一次情報をもとにした高精度の広告配信が可能という特徴があるためです。
小売企業からすると、メーカー向けに自社データを活用した広告メニューを提供・販売が可能となった新たなビジネスモデルといえます。本来、小売企業は商品販売のみで収益を得ていましたが、リテールメディアが広告プラットフォームとして機能することで、新たな収益源を確保できるということです。
リテールメディアが注目される理由・背景
リテールメディアが注目されている理由・背景として、環境変化による購買行動の変容とサードパーティーCookie規制の動きが関連しています。
環境の変化による購買行動の変容
人口減少や消費者生活のデジタルシフト、そして新型コロナウイルス感染拡大などの環境変化によって、消費者の購買行動も実店舗などのオフラインからオンライン購買の割合が増加しました。また、「モノの販売」だけではこれまで通りの売り上げや収益の確保が難しくなり、リテール企業は顧客に対する理解を深めて、より1to1に近いコミュニケーションを行うことで顧客体験の質を高める活動に取り組もうとしています。
そのような潮流に対して、リテールメディアは小売企業が有する顧客の一次情報を活用できるため、消費者のニーズに合った施策を打ち、顧客体験をより高められる優良な顧客接点として注目されているのです。
また、広告主であるメーカーは消費者に対し購買行動に則したより精度の高い広告配信が可能となり、リテール企業はメーカーと効果的な共同販促が行える上に、広告収益を得ることができます。このような「これまでにない収益が得られる」という大きなメリットをもたらすため、積極的に取り組む企業が増えているのです。
サードパーティーCookie規制によるファーストパーティーデータ活用
近年の個人情報保護を目的としたサードパーティーCookie規制の動きも関係しています。ご存じの通り、欧州のGDPR(一般データ保護規則)や米国のCCPA(カリフォルニア州消費者プライバシー法)などの法規制をきっかけとして、国内においても個人のプライバシー保護の動きが加速しています。
これまでWeb広告は、自社Webサイトだけでなく他のWebサイトでのユーザーの行動データ(サードパーティーデータ)を利用して、ターゲティング広告を配信、効果測定の精度を高めてきました。ところが今後、さまざまな法規制でサードパーティーデータの使用に制限がかかる公算が高いことから、メーカー各社は小売業者が保有する、実店舗で収集・ユーザー許諾済のファーストパーティーデータの持つポテンシャルに注目。広告投資を増やす動きが加速しています。
こうした流れから、リテールメディアへの期待が高まっているのです。
リテールメディアの市場動向~海外と日本国内~
海外のリテールメディア市場動向
リテールメディアは元々海外の小売業界で浸透しており、特にアメリカでは急成長を遂げています。2026年には、アメリカのリテールメディア市場規模は推定13兆円とされています。
リテールメディアの成功例として、特に注目されたのが世界最大級の小売りスーパーマーケットとして知られる米ウォルマート(Walmart)の取り組みです。新型コロナウイルス感染拡大が日本以上に深刻だったアメリカですが、ウォルマートはストアピックアップと配送サービスが2020年度第一四半期に300%もの成長を遂げ、「5年間分の成長を、わずか5週間で成し遂げた」と大きな話題を呼びました。
日本国内のリテールメディア市場動向
日本国内のリテールメディア市場においても、右肩上がりで成長すると予測されています。CARTA HOLDINGSが実施したリテールメディア広告市場規模の調査によると、2024年は410億円、2026年には805億円程度まで拡大すると推測されています。
日本国内のリテールメディアは、ドラッグストアを皮切りに家電量販店、コンビニエンスストア、百貨店などで導入されており、これからスーパーマーケットなどの業界でも、本格展開が見込まれます。
リテール・小売企業側だけにとどまらない、リテールメディアがもたらすメリット
リテールメディアがもたらすメリットは、リテール企業側だけにとどまりません。
01| リテール企業
・自社で保有する顧客IDや、ID-POSなどのオフラインデータを有効活用できる
・成果の高い共同販促モデルを構築することで、メーカーの協賛を拡大し、売上を向上できる
02| メーカー
・リテール企業の購買データ・行動データを活用することでターゲティング精度を向上できる
・リテール企業との共同販促の効果検証の精度が高まり、PDCAサイクルが回せる
03| 消費者
・正確なターゲティングにより、オンラインとオフラインをまたいでより自分に合ったお得な情報が受けられる
・適切なレコメンドなどの情報提供により、満足度が高まる
このようにリテール企業、メーカー、そして消費者がWin-Win-Winの関係性を築くことができることが、リテールメディア実施の特長であり、最大のメリットでしょう。
リテールメディアがもたらす変化
リテールメディアの発展は、従来のマス広告やデジタル広告に大きな変化をもたらすと言われています。それは、メーカーおよび広告代理店が頭を悩ませる「限られた広告予算をいかに効果の高いメディアに配分するか」という命題に対し、オンラインとオフラインの顧客接点をつなぐリテールメディアが、非常に魅力的な手法だからです。
たとえば前述のウェルマートは約5,000店舗に計17万ものデジタルサイネージが設置されています。メーカー側としては広告の効果測定が難しい従来型の広告よりも、消費者が実際に購買行動する店頭で広告が露出でき、ダイレクトに効果測定できるリテールメディアの方に、より高い価値を感じるでしょう。
そのためメーカー各社では、リテールメディアを有効に活用するために従来の縦割りの組織や予算編成を見直し、広告予算の配分を変える動きが出始めています。
リテール・小売企業側もメーカーのこうした動きに合わせて、自社の保有データをより魅力的な広告メニューとして整備・提供する必要性が高まってきています。
日本におけるリテールメディアの事例
ここからは日本国内における、リテールメディアの成功事例をご紹介します。
01 | ドラッグストア A社事例
大手ドラッグストアA社は、2019年4月にメーカーとの共同販促モデルを発表。わずか4か月あまりで10ブランド以上と協業し、話題を呼びました。
メーカーの製品の広告を Google 広告 ( YouTube 動画広告、ディスプレイ広告、検索広告 ) にて配信。ドラッグストアA社が主幹するポイントカードアプリとの連携により、広告に接触した人が店頭に訪れ商品の購入につながったかを検証。「値引きに依存しない」販促キャンペーンを狙いました。結果として各広告クリエイティブの閲覧率、来店率、購買単価などの点で高い効果が得られています。
02 | スーパーマーケット B社事例
大手スーパーB社では、炭酸飲料メーカーとの共同販促プロジェクトを実施。その効果検証の手法と成果が話題となりました。
B社はレシピ動画とオススメの炭酸飲料を紹介する広告クリエイティブを制作し、「①店頭と動画広告を実施」「②動画広告のみ実施」「③実施なし」の3つのグループに分けた店舗別の効果検証を実施。その結果、「動画広告」が来店率につながり、「店頭」と「広告」を同時に展開した方がより売上に寄与することが実証されました。
このように日本でもリテールメディアの認知度が高まり、実際に取り組む企業も増えてきています。現状はまだ一部の業界をリードする大手企業ばかりですが、これからさらにさまざまな業界、規模の企業での取り組みが加速するでしょう。
流通・小売業向け「リテールメディア」運用・構築サービス~ターゲティングから効果測定までPDCAを一貫支援~
日本におけるリテール業界の特性と課題~このビジネスチャンスをどう活かすか
日本には、アメリカのウォルマートのように人口の8割が利用するほどのシェアを握るリテール・小売企業が存在せず、上位数社を合わせてもそのシェアは市場全体の4分の1程度です。たとえばスーパーマーケット業態などでは日本の各地域に根差し、高い影響力を誇る企業が数多く存在します。
そうしたリテール・小売企業にとって、このリテールメディアは非常に大きなビジネスチャンスとなり得ます。
しかし一方で、多くのリテール企業にとって自社のデータ活用と広告事業は未知の領域であり、何から、どのように進めればよいかわからないという企業が、大半ではないでしょうか。
リテールメディアの実現方法~TOPPANが提供するリテールメディア構築・運用サービス
こうした課題に応えるべく、TOPPANは株式会社ONE COMPATH(ワン・コンパス)、株式会社unerry(ウネリー)との協業で、リテールメディアの構築・運用を支援するサービスを2021年9月から提供しています。
3社の連携により、TOPPANが持つ豊富なデジタルマーケティング支援ノウハウを活かしたリテールメディアの設計から運用までのサービス提供と、ONE COMPATHが運営する国内最大級の電子チラシサービス「Shufoo!®(シュフー)」*1の1600万人のユニークユーザー、そして月間300億件以上の人流・購買データが蓄積されているunerryのリアル行動データプラットフォーム「Beacon Bank®」*2を活用した、クッキーレスでの行動ターゲティングADや来店効果・来棚効果の計測などを融合。リテールメディアの構築・運用を、ワンストップでより効果的に提供します。
流通・小売業向け「リテールメディア」運用・構築サービス~ターゲティングから効果測定までPDCAを一貫支援~
リテールメディアの実施ステップ
それでは、ここからは前述のTOPPANのリテールメディア構築・運用支援サービスをベースに、どのようにリテールメディアを実現していけばよいのか、具体的なステップを解説します。
以下がリテールメディア実施の全体像です。基本は「ターゲティング」→「広告配信」→「効果測定」という流れです。
01 | 事前分析:来店/来棚/購入している顧客層を分析
02 | ターゲティング:その中から来店・購買可能性の高いセグメントをデータ抽出
ターゲティングは主に「行動傾向」「デモグラ」「ライフスタイルインサイト」「購買行動」の4つの区分で実施。これにより、メーカーが求める広告配信時の正確なターゲティングが可能となります。
下記A~CはTOPPAN×unerry提供の「行動データ」を活用し、Dの購買行動はお客様からお預かりするID-POSデータを活用します。
03 | 広告配信:ターゲティングデータを基にデジタル広告を配信
広告配信は大きく、お客様側の自社「オウンドメディア」と、他社「ペイドメディア」の2種類があります。立ち上げ当初はペイドメディア中心の実施となります。
04 | インストアプロモーション:広告に連動したサイネージなどPOPで来棚時に想起
店頭、棚前でのデジタルサイネージによるビジュアル・タイムリーなプロモーションを行うことで、消費者の商品理解を深め、購買意欲を高めることができるのも、リテールメディアの長所です。
さらに近年では、店舗内に顧客の位置情報を取得するIoT端末やAIカメラなどを活用し、店舗内における顧客の行動を、プライバシーを配慮しながら取得できるようになっています。この位置情報をリテールメディアに応用すれば、たとえば「該当商品の棚前に行った人に対し、デジタルサイネージのコンテンツと連動してリアルタイムにクーポンを配信」といった、潜在的なニーズを理解した上でのレコメンドが可能になります。
05 | 効果測定:来店→来棚→購買までのファネル別に販促効果を測定
購買をKPIとした効果検証を行います。認知から購入に至るまでのファネルごとのアクションをトラッキングし、購買/非購買を比較することで改善すべきポイントを可視化します。
リテールメディア実施に向けて必要な準備
続いては、リテールメディアを実施するために必要な準備について解説します。
01 | 効果測定(来店計測)するためのBeacon設置
正確な効果測定のためには、計測の仕組みが重要です。来店計測はGPSでも一定レベルは可能ですが、GPSは縦軸の計測に弱く、階数をまたぐ、あるいは複数の施設が入居する商業ビル内の店舗などでは、正しく計測できません。下記のようなBeaconを設置することで、棚前行動、来棚計測などの、より細かな計測が可能となります。
02 | ターゲティングおよび効果測定のためのID-POS利用許可
効果測定には、買い物客のリアルな購買行動がわかるID-POSデータの活用も欠かせません。
TOPPANは、ID-POSデータをお預かりさせていただくことで必要なデータのみを活用し、ターゲティング・分析・レポート作成を実施します。
03 | 広告媒体メニューの作成
リテールメディアを実施する際、出稿を検討するメーカー側から「媒体メニューを確認したい」という要望が必ず上がるため、事前に広告媒体メニュー資料を作成しておく必要があります。
広告媒体メニューには顧客のセグメント、媒体別の配信費用、IMP(インプレッション)、広告クリック数、CTR(クリック数÷IMP)、CPM(1,000配信あたりの配信費用)、 CPC(1クリックあたりの配信費用)、来店者数、来店単価、来店率などの記載が必要で、広告運用の経験の少ない企業では、自社での作成は非常に困難です。
本サービスでは、このリテールメディアの媒体メニュー化は、すべてTOPPANが提供しますのでご安心ください。
まとめ
いかがでしょうか。リテールメディアとはそもそも何か、そして、注目される背景から実施メリット、実現のための具体的なステップについてご理解いただけたでしょうか。リテールメディアは海外のみならず、日本国内でも、これからますます注目が集まり、実施に踏み切る企業も増えると予想されるため、早く取り組めばその分、先行者利益も大きくなります。
TOPPANではご紹介した「リテールメディア構築・運用支援サービス」をはじめ、日本のリテール・小売企業のDXを推進するさまざまなソリューション、サービスを提供しています。
ご興味のある方はぜひお気軽に、TOPPANまでお問い合わせください。
流通・小売業向け「リテールメディア」運用・構築サービス~ターゲティングから効果測定までPDCAを一貫支援~
*1 「Shufoo!®」について:TOPPANが2001年8月より運営を開始し、30~50代の女性を中心に利用されている国内最大の電子チラシサービス。2019年4月1日、株式会社ONE COMPATHへ事業が継承されました。大手流通各社、地域主力スーパーなど約4,400法人、約120,000店舗が参加。PV数は月間4.5億PV、ユニークユーザー数は月間1,600万(2021年7月現在、提供ASP上のアクセス含む)となっています。チラシの閲覧回数や閲覧部分のデータを収集・分析するマーケティング機能も備えています。また、生活者はスマートフォンやタブレット端末、PCなど様々なデバイスから日本全国のチラシをはじめとするお買い物情報を閲覧することができます。
URL:
・PC、スマートフォンサイト https://www.shufoo.net
・iPhoneアプリ https://itunes.apple.com/jp/app/id373909230
・iPadアプリ https://itunes.apple.com/jp/app/id373911706
・Androidアプリ https://play.google.com/store/apps/details?id=com.toppan.shufoo.android
※2 「Beacon Bank®」について:unerryの運営するリアル行動データプラットフォーム「Beacon Bank®」には、月間300億件以上の位置情報ビッグデータや購買データが蓄積されており、各流通店舗の商圏や集客力・客層の変化、どんな業態の店舗にどのような頻度で消費者が訪れているかなどが解析できます。また、「Beacon Bank AD」では、クッキーレスで、解析データを独自のプッシュ広告ネットワークやSNSと連携して販促広告を配信し、来店効果や来棚効果を計測することができます。
2024.03.29